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勇者と表面上の好意

 人は本当に驚いたとき、現実感が消失する。


 渡は転送されたこと、魔法陣、臼緑色の光、どれも幻想的で、

 自分が想像した夢だと結論を付けた。


 しかし、頬をつねると痛みがある。

 現実だと気づき、恐怖、不安、そして少しの期待を感じた。


 そんな中、ルイスと会話を続ける。


 最初こそルイスの笑顔は、可愛いと感じていたが、

 何度も見ていると、その貼り付けた笑顔に不気味さを感じた。


 ルイスの作り笑顔を見破ることは一般人には不可能だ。

 仮にも王女、演技派である。

 しかし渡は作り笑顔だと確信していた。


 渡は自分が故郷に帰られるのか気になった。

 

 聞いてみると、ルイスは、すぐに故郷に帰ることは出来ない、

 不手際で説明されず転送されたと言った。


 渡は怒りを感じた。

 勝手に国民という大きなものを託して、渡を転送した老女に対して。


 もちろんルイスにもだ。


 ――転送しといてすぐには帰れない、なんて身勝手なのか。


 渡は、ポケットに入っていた手紙を衝動的に、破り捨てた。



 渡は驚いた。

 ルイスが泣き出したからだ。


 ――いきなり(姉様を悪く言わないで)とか怒鳴るし、泣くし、

 何なんだよ。

 

 シクシク泣いているルイスを見ていると、渡の頭は冷めていく。

 


 ――あの手紙は王女さんの姉ちゃんからの贈り物なのか?

 だとしたら、少しだけ悪いことをした気もするが。

 おかしいな、老女が姉って年離れすぎてないか?



 突然、素早い足音が芝生の上に響く。

 走って現れたのは、紫髪の女性を片腕で抱えた、

 (いか)つい男だった。

 腰には剣をぶら下げている。


 厳つい男は、紫髪の女性を地面に下ろす。


 厳つい男は、ルイスと目線をあわせてしゃがみ、

 ルイスの背中をさすり、慰めている。


 紫髪の女性はこちらに近づいてきて、口を開いた。

 金木犀のような、甘い香りがする。


 「初めまして、私はミーティー・ゴールドよろしくね」



 ――王女は目が大きくて可愛いい系だったけど、

 この女性ミーティーさんは、目が細長くて、

 おっとりしてる美人さんだな。

 可愛かったり、美人だったりすると、

 怪しいとしか思えないんだよな。


 「初めまして、紅葉谷 渡(もみじや   わたる)です。

 もしかして、あの手紙って大切なものだったのですか? 」


 「ええ、ルイスちゃんにとっては、形見みたいな物だからね」


 「そうでしたか、それは悪いことをしました」


 「そんなに、かしこまった話し方しなくても大丈夫よ、仲良くしましょう」


 ミーティーは腰に手を当てて渡と、話している。

 長いローブを着ていて、髪の色と同じ紫だ。

 そして、厚手のローブの上からでもわかる、

 胸が大きい。


 「知らない年上の方に、敬語を使わないのは慣れないので、

 このままで大丈夫です」


 「そう、でも貴方は今私を知ったから、今は知ってるお姉さんよね」


 「無駄な言葉遊びは、やめませんか?」


 「あら、怖いわ、渡ちゃん

 無駄な言葉遊びなんてないわ、遊べない男はモテないわよ」


 「それは、残念ですね」


 ――何が渡ちゃんだ、ぐいぐい距離詰めてくるな、

 可愛いからって、簡単に距離詰めれると思うなよ。


 この女にも何か下心を感じた渡は、

 嫌な印象を受けた。 


 ルイスは泣き続けている。

 渡は徐々に罪悪感すら出て来た。

 その感情でさらに頭が冷える。


 ――一国の王女を泣かせてはまずいか、今後の為謝っておこう。



 渡はルイスに近づく、

 ルイスは、俯いてシクシク泣いている。


 厳つい男がこちらを見て、口を走らせた。


 「渡君だったな、私は、バリト・フェデラーよろしくな」


 バリトは右手を突き出した。

 握手を迫っている。


 ――暑苦しいおっさんだな、てか、体も手も大きいな。


 バリトは身長百九十近くある、大きな男である。


 渡はバリトの手を握った。


 「渡君、なぜ手紙を破り捨てたんだ? 」


 「すみません、説明なく転送されたのが、

 手違いって聞いて、

 イライラして捨ててしまいました」


 「そうか、まあ、こちらの世界に来る前に、説明もなしで、

 飛ばされては、イライラして当然だろう」


 「そういって頂けるとありがたいですね」


 渡はルイスに声をかける。

 「王女さん」


 ルイスは、うつむいたままだ。

 渡の呼びには、応じてくれない。


 バリトが、しゃがみ込みルイスに声をかける。 

 大男なのに、優しい声色だ。


 「ルイス王女、今のあなたを見て、カレミス王女はなんと思うだろうか?

 カレミス王女なら、泣いているあなたを見て、悲しむのではないか?」


 バリトは、言葉をグッと溜めて、発した。


 「ルイス王女、貴方はそのままでいいのですか?」


 ルイスは、鼻声で答える。

 「よくありません」


 ルイスは、白を基調とした美しいドレスの裾で

 ゴシゴシと涙を吹いて

 立ち上がり、鼻水をすすり上げて、

 顔を上げる。

 ルイスの瞳は力強く輝いて見えた。


 「渡様、ふがいないところをお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした」

 ルイスは、頭を下げた。

 美しい金髪が下を向く。


 「いえいえ、僕も悪いことをしました、お姉ちゃんからの、手紙だったのですね」


 「はい、しかし、それらもすべてこちらの都合の話、渡様には関係ない話でございます」


 渡は、今までの貼り付けた笑顔で語られるより、姉のことを思って、

 頑張ろうとする王女様に好感が持てた。


 「王女さん、良かったら……僕の国の話、僕が見たルイスのお姉ちゃん(老女)がどんな人か、

 どんな所にいたのか? 先にその話しましょうか?」


 「えっ……良いんですか、渡様も気になること沢山ありますよね、

 その話はもちろん知りたいのですけど、先に渡様の聞きたいこと知りたいことを、聞いてください」

 

 渡は冗談っぽく、

 「僕は泣くほど、気になっていませんので」


 ルイスは目を見開けて、

 「えっ、でも、いいのですか?……」 


渡はイタズラな笑みを浮かべて、

 「話を聞くと言わないと、金輪際話しませんよ」



 バリスは、大口を開けて笑いながら。

 「はっはっは、ルイス王女、今頃カッコつけたって遅いぞ、

 ボロ泣きしてんだ、渡君もこういっていることだし、甘えさしてもらえよ」


 「バリス、黙りなさい、ボロ泣きはしていません。

 次ボロ泣きって言ったら、死刑にしますよ」


 「おーこわ」


 ミーティが紫の長い髪に手を突っ込みゴソゴソしながら、


 「渡ちゃん、自分より先に、女の子優先なんて、

 なかなかカッコいいじゃない、

 ご褒美にお菓子をあげるわ」


 紫髪の中から飴玉を取り出し、渡してきた。


 ――何で髪の中に飴玉あるんだよ。こんなキモい飴玉食べられるわけないだろ。


 「……ありがとうございます、後で食べます」


 そう言って渡は、飴玉をポケットにしまった。


 渡はまだ何もしていないのに、少し良いことをした気分で、悪くない気持ちになったが、

 自分はカッコよくなんてないと、

 学校の出来事を回想した。


 ――自己保身のためにいじめを見過ごすような奴の何が格好いいんだ。


 

 ******************


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