一方的虐殺◆
森の中姿勢を低くして前に進む。ドラ・モリスの館が見えた。洋館のような大きな建物。花壇にはドラ・カリムが育てたであろう花たちが広がっている。
太陽は一番高い位置にある。ドラ・モリス達は夜行性らしく日中攻めたほうが要領が良いとの事だ。
ドラ・カリムが花壇の横にいる、銀髪ロングに細身の体、確かに顔もかわいらしい。聖母のような慈悲深さすら感じてしまう。
彼女は太陽に照らされた昼の花たちが見たいために、眠い目を擦りながら昼間散歩に出ることがあるらしい。
今の状況は作戦を遂行するための絶好の機会だ。
兵士たちが、薬の玉を飲み込む、あれが魂炎丸だろうか。
花屋のマリアンナに恋をしているボルトが、ドラ・カリムに向かって駆け出す。そのスピードはバリトが走る比ではない。瞬く間にドラ・カリムを捕らえた。
紐で縛っても簡単に千切られてしまうため、ボルトは作戦中継続して彼女を押さえつける必要がある。
てか、バリトより強いんじゃないのか、なんでバリトが伝説とか言われてるんだ?
「にっ人間、なぜこんなところに、食べられてしまいますよ、遠くにお行きなさい」
ドラ・カリムは強者ゆえの余裕なのか捕らえられたにも拘わらず、こちらの心配をしてくれる。話し合えば分かり合えるような気がしてきた。
全員で屋敷の庭に出る、バリトが大声を出す。
「ドラ・モリス、出てこい」
空を飛び、のっそりと窓から出てきて、目をこすりながら返事をする。
「なんだね、真昼間から起こしよって……人間が復讐にきたのか? 馬鹿だなお前たちは……本当に」
吸血鬼のような歯、コウモリのような羽、寝間着姿で生活を感じる。まるで人間みたいだ。
「人間を攫ったことを怒っているなら、お門違いだぞ。お前たちも記念日には鳥の丸焼きを焼いて食卓に出すだろう。妻との結婚記念日に少し贅沢をしようとして人間を狩っただけだ、やってることは、お前たちと何も変わらないだろう」
「御託は結構だ、俺たちの国民はどこやにった」
バリトは叫ぶが、ドラ・モリスの調子は変わらない。
「これだから人間は。自分の都合の悪いことは全て御託か? 全体を見ない中途半端な、浅い、浅い、知恵しかないから、食べ残しや、家畜を育てるなどという残酷なことが出来るのだ」
私は呆れましたと言った調子でドラ・モリスは続ける。
「我が妻が捕らえられているということは、また魂を削る薬を使ったのだな、その効果が切れるまで我は近づかない、戦わない、それは前回の戦いでわかっただろうに」
「よく見ろドラ・モリス」
バリトは渡に視線が移るように促した。ドラ・モリスは勇者の剣に気付いたようで、怒りの形相になり、
「おい人間、その剣で妻の指一本でも触れてみろ、種族ごと滅ぼすぞ」
そう叫んだ。
ケワイの槍とモリスの拳が交錯する、戦いが始まった。
槍はモリスの拳に突き刺さる、モリスは身を引く、手の傷はあっという間に治ってしまう。
モリスは上空で体制を立て直し、「眠れ、人間」と叫ぶ。
バリト、ミーティー、ケルト、は膝をつき、渡は爆睡して倒れてしまった。兵士達は全く効いていないようだ。
確か、シャウトとかいう催眠術、キシロが言っていた業だろう。
「渡様、起きて、早く、起きて」
ルイスにビンタを連発されて、渡は目を覚ました。顔が少し腫れている。
「痛い、なんで……俺は何をされたんだ」
渡は、状況がつかめてない。
「厄介だな」モリスはそうつぶやいた。
「お父様のシャウトがなんでこんな昼間に?」
モリスの子供たち百人が、ゆっくりと屋敷から出て来た。目を擦る姿は親子なんだと感じさせてくれる。
子供を視界に入れたモリス……焦るように上空で加速、ドラ・カリム(妻)を取り返すため一気に突っ込んでくる。
早い、残像が見えるほどだ。
槍使いのケワイと二回目の対戦、ケワイは突きを放つ、モリスは拳で横から槍を殴りつけ、ケワイの体制が崩れる。モリスの拳がグシャリと潰れた。隣の兵士が即座にフォローに入る。
そのままケワイに襲い掛かると兵士にフェイントをかけて、モリスはドラ・カリムの元に向かう、バリトが前に立ちはだかり剣を一閃させようとした瞬間――「眠れ」とシャウトをかける。
渡、またも爆睡、渡はルイスに連続ビンタで起こされる。他の仲間は、踏ん張り耐えるが、バリトの剣筋が乱れてしまう。
モリスの頬を掠め頬から血が流れるが、モリスは止まらない。
ケルトが精霊に願いを放ち、木のツタが地面から生えてモリスを捕らえようとし、同時にミーティーの氷柱がモリスを串刺しにしようとする。
モリスはツタには捕まらなかったが、ミーティの氷柱が一方の羽に直撃して、墜落。
地面を転がるが、即座に起き上がり全力で走る、ドラ・カリム……自分の妻の元へ走る。
右左、後方で待機していた兵士四人がモリスに、駆け寄る。
一人目、モリスに向かい高く構えた剣を振り下ろす。モリスは左前腕を切り飛ばされるが……前に進む。
二人目、刀を鞘に入れた状態からの抜刀、モリスは右手で刀を叩き落とすが、鞘が時間差でモリスに迫る。身を回転させ中心は外すが、左上半身のあばら骨、三番四番が折れる。それでも……前に進む。
三人目、両手剣の一本を顔面に向かって投剣、モリスはギリギリ躱すが、兵士は同時に両手剣のもう一方を、下半身に向かって振る。地面を蹴り飛んで避けようとするが、右足首を切られてしまう。が、……前に進む。
四人目、モリスと、カリム、(夫と妻)の出会いを阻むように立ちふさがる。渡の護衛として張り付いていた、娘が大好きなキシロも四人目の兵士をフォローするように立ち回ってしまう。
(モリスは妻に向かって走り、救出しようとしている)この場の全員がそう思っていたが、モリスは残っている左足首を全力で踏ん張り方向転換、渡に向かって、残っている力を全て出し切る気概で拳を振るう。
ルイスの結界とモリスの拳が衝突する、ルイスの結界にひびが入る、両手を突き出し、ルイスは全力で結界の保持にかかる。
モリスの拳が少しづつ結界に入り込みかけたとき――
――キシロがモリスの腕を切り飛ばし、モリスを捕獲した。他の兵士も駆け寄り、三人がかりで抑える。
モリスは、子供たちに視線を向けて叫ぶ。
「子供たち、遠くに逃げなさい、人間……私の負けだ、我が首はお前たちにやろう、だから、子供や、妻には手を出さないでくれないだろうか」
バリトに向かって願いを話した。
「お母さんと、お父さんに、になにをしているんだ」と言いながら、近づいてきたモリスの子供は兵士に首を跳ね飛ばされる。
「子供たち、私たちに近づいてはいけない、早く遠くに逃げなさい。早く」
モリスは優しくも厳しい声を子供たちに向ける。
ルイスは怒りを押し殺したような声で話す。
「死者三二五人、傷者二百十二人、泣いている子供百十四人、これは私が知る限りのお前たち一族が人間に与えた被害だ」
震えている、ルイスは拳を握りしめて震えている。
「自分が不利な状況になったら、子供たちは助けろ、妻は助けろだと……ふざけるな。さんざん人間を食べて来た野郎が。捕食者が被食者に負けたら残ってるものなんて死しかないに決まってるだろ、お前も、子供も……妻も全て殺す、当たり前だ」
ミーティーが氷で居ぬき、兵士は優れた身体能力を使い投石で撃ち落とし、モリスの子供たちを次々と殺していく。
「妻は人間を食べたことなど一度もな――」
「――しゃべるなコウモリが、渡様、止めを刺してください」
ルイスは渡に促した。
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