勇者と旅
揺れる、揺れる、世界が揺れる。緊急停止、慣性で前に倒れる、横向きに座っているルイスに激突。股の間に頭を突っ込んでしまった。
全く柔らかくない太もも、カチカチである。筋肉だろうか?
「ごめん」即座に謝る。
「いいよ、別に、カメルーンはキュッと停止するから、気をつけろよ」
金髪の髪を耳にかけながら微笑みルイスは渡に注意喚起する。
渡は現在カメルーンと呼ばれる、大型のカメで移動していた。なんとこのカメルーン甲羅に入ることが出来るのである。しかも甲羅は周りの景色と同化し、視界による敵の発見率を著しく下げることが出来る。足も速い、すごくない?
ポケットにお守りがあるか手で触って確認する。マチルがくれたものだ。
「渡さん気を付けて、帰ってきたらまたゲームしましょう」と言われ、別れ際にもらったものである。
カメの外に出る、人間の二倍ほどの大きめの赤い蛇がカメルーンの前に立ちはだかっていた。蛇は温度で察知するので、蛇系の魔物が現れると、たちまちカメルーンは足を止めてしまう。
バリトが前に出る。渡はルイスの近くに待機する。万が一に備えてルイスが結界を張る。
バリトをサポートするようにケルト、ミーティーの順番で体制を立てる。
他にも十五人の兵士がいるが戦いに参加しない。ルイスが言うにドラ・モリス戦で活躍する兵士らしくここでは力を発揮しないらしい。
出発して一週間、三回の魔物との遭遇のうち三回とも、赤い蛇とのエンカウントだ。
この赤い蛇も人間が好物らしい。ルイスに人間が好物の魔物が多すぎないか? と聞くと、「人間は捕食される側だからな、どちらかと言うと。魔物的にはおいしいらしいぞ」と苦笑いした。ぞっとする話だ。
ミーティーが氷の魔導を使う、彼女が手を振り上げ、数秒立つと氷柱が空中で出来上がり、射出され、蛇に突き刺さる。動きが阻害された蛇は大きく動けないため、バリトによっていとも簡単に首をはねられた。ケルト蛇に近づいて、食べられる分の肉を調達しているようだ。今日の晩御飯も蛇料理なのだろう……美味いからいいけど。
カメルーンに乗り込み出発する。カメルーンは一匹十人ほど乗り込むことが出来る。
渡と共に乗っているメンバーは、ルイス、ケルト、バリト、ミーティー、と国の兵士である五人、ガタイの良い男が乗っている。
五人のメンバーで、神に愛されしものドラ・モリス対策調査団に属していた、フェレル・キシロという、短めの茶髪の男が、渡にドラ・モリスについて、教えていた。
「渡君、モリスはね聴覚が優れ、空を飛び、優れた回復力を持つ敵対人種なんだ。コウモリのような羽を持っていてね、我々が追い詰めても逃げてしまうんだよ。羽が厄介なんだよね。
モリスは夫婦でね、奥さんの名前はドラ・カリムと言うんだ。仲の良い夫婦だよ。僕が観察してた頃は外で花をよく育ててたよ、顔面結構可愛いしね。まあうちの娘ほどじゃないんだけど」
バリトが、「おい、関係のないこと渡に教えるんじゃねえよ、剣が鈍るだろうが」と強めの口調で言った。
キシロは、「その程度で鈍る剣なら、振らせるな」と返した。
場が凍り付く。
バリトは、やれやれといった調子で、「相変わらずだな……お前は」とキシロが喋ることを咎めなくなった。
「バリトが剣の事しか頭になさすぎるんだよ、でも……そこは君の良いところで好きな部分だよ、うちの娘ほど好きじゃないけど」とキシロは笑った。
キシロは続きを話す。「ドラ・カリムは、肉を食べないんだ、人間で言うベジタリアンだね。だけど彼女の子供たちはよく食べている。彼女は食べることに対しては咎めたりはしなかった。むしろ笑ってたね、人間をおいしそうに食べている自分の子供たちを見て」
怖いな、なんで俺はこんな話を聞かされるんだろうか。渡は深く考えなかった。
「ほかにもいろいろあってね、…………
◆◆◆
夜、テントを張って野営をする。渡は、バリト、ルイス、そして、同じカメルーンに揺られている、兵士五人キシロ、ショハバ、エツイ、ケワイ、ボルトと同じテントで寝ることになった。いつも一緒に寝ているメンバーである。
ルイスは渡に万一があった時のため、基本渡に張り付いている。
「あと二日ほどで、ドラ・モリスの館に着く、渡君心境はどうだい」キシロは疑問を投げかけた。
「緊張してますね、怖くなるのであまり深く考えないようにしています」
「そうかい……じゃあ、怖くないように僕の娘の話をしようか?」とキシロは真剣なまなざしを向ける。
「いや、キシロさん……メッチャ聞きましたから、十分っす」
キシロさんは奥さんと娘がいて、娘を死ぬほど溺愛している。
「じゃあ、俺の嫁の話をしようか、」とショハバがニヤリとした。
「いや、ショハバさんとお嫁さんの馴れ初め、丸暗記しちゃいましたよ俺聞きすぎて」
ショハバさんは、一目ぼれしたお嫁さんと新婚だったらしい。
「そうか、ならば吾輩の、剣と槍の違いについて講座を、改めてしようか」
「はい、槍のが強いんですよね、勇者の剣持ってなかったら、槍が使いたいと思うくらい刷り込まれましたよ、ケワイさん……もう十分です」
ケワイさんは槍の道場で師範代をしているらしく、バリトのせいで、槍の人気が少ないことが非常に気に入らないらしい。
「俺の出番だな、俺が恋してるマリアンナという女性がいてな――」
「――鬼くそ可愛いんですよね、おならまでいい匂いなんですよね、正直ちょっと気持ち悪いですよ、それ」
ボルトは、花屋のマリアンナさんに惚れていて、うまくいきそうだったらしい。
「なっなんだと……侮辱したな、撤回を要求する」
同じテントの下で固まって寝ると、一日すぎるごとに、皆と仲良くなれた気がした。
皆で笑いあって会話するのは楽しかった。
笑い声が響く中、いつも陽気なバリトの笑い声は、本物ではない。そんな感覚があった。
Twitter、ブックマーク、評価よろしくお願いします




