ニートと波乱の始まり
玄関で待っていた。
居心地が悪い……誰にも自分を見られたくなかった。
引きこもりが遊びの時だけ外出する。
自分でも、最悪のような気がする。
ここまで来たら、開き直るしかない、気分を切り替えよう。
「お待たせしました」
テコテコと小走りでこちらに走ってくる。
マチルの髪型がいつもと違う、お祭りだからだろうか、ポニーテールを三つ編みにして、丸っとした黒色のワンピースに紫色のフリルがついている。手首、腰に大きなリボンがついていて、魔女っ娘のようだ。
ピンクの髪の毛が良く映えている。
「行きましょう」
渡が、動けないでいるところを、彼女は、袖を掴んで連れ出してくれた。
玄関を出ると、ザシュ、ザシュと切る音が聞こえる。フレイが修行しているのだろう。
彼女は朝、昼、晩、ずっと剣を振っている。努力している奴がいると、努力していない奴がより最低に見えるので、彼女にも会いたくはない。
「フレイ、肩甲骨の角度は四十五度あたりが一番パワーの出る部分だ、相手と剣を交えるとき、物を切るとき、インパクトする瞬間全て、一番力の出る部分を意識しろ」
バリトが指導している、動きが速すぎて、フレイとバリトの違いなどわからない。
「わかった」
フレイの汗が、地面に飛び散る。その汗は美しくすら感じる。
バリトが近づいてきた。
顔をそらす、足元の芝生は青く見えない。
「マチル、祭りに行くのか、フレイ、私たちも行くか?」
この男はどんな場面でも陽気である。
「そんな時間、私たちには無い」
しかめっ面、フレイは修行を中断して答える。
タオルで汗を吹き、渡を睨み付ける。
「良い身分ね穀潰し。あんたなんていなくても私が魔王を倒すから、あんた何て必要ないわ」
吐き捨てるように言葉を吐く。
じゃあ、転送するなよ、くそが。
「フレイさん、そんな言い方しないでください。渡さんは悪い人じゃないです、むしろいい人ですよ」
渡とフレイの間に入り、マチルは庇う。
「マチルがそうやって甘やかすから図に乗るんでしょ」
「図になんて乗ってねーよ、じゃあ最初から転送すんなよ」
思わず口が動いた、こいつ……加害者の癖に。
お前が頑張ってるのは知ってる、それを俺にまで押し付けんな。
「図に乗ってるじゃない、何もしないなら死んでるのと同じよ。……私が殺してあげましょうか」
ハッハッハッハッ突然の笑い声、殺伐とした空気が少しだけ柔らかくなる。
「フレイやめろ、渡くんがいないと神に愛されし物達は確実に倒せない、お前が足掻いても変わらない、八つ当たりはやめろ」
バリトの言葉は優しくも刺々しい。
そういうプレッシャーをかけるのは止めろ、どうせ俺には出来ない、失敗する。失敗するのに努力するやつはバカだ。俺はバカじゃないから、努力しない。
「三ヶ月間何もしなかった奴が、何か出来ると思えないし、八つ当たり何てしてない」
その通りだ。
「フレイさんも、渡さんと同じくらい自己中心的ですよ、自分の意見を一般化しないでください……渡さん行きましょう」
体が引っ張られる感覚。
マチルは渡を掴み、道を歩き出した。
◆◆◆
「渡さん、嫌なことは忘れて、楽しみましょう」
初めて敷地内から出た。お祭りのなんとも言いがたい、浮かれた雰囲気が身を包む。マチルと共にゆっくりと歩く。彼女の歩幅は小さくて、俺は歩幅をあわせて歩いた。
いつも宮殿からみていたレンガ造りの家、川沿いの道には屋台が出店している。鳥モモ肉を揚げている店が目に入った。非常に香ばしい臭いを出している。
マチルも興味をも引かれたようで、あれを食べたいと渡に言った。
「この穀潰し」と、言われたことを思い出す。俺が悪いのだろうか、権利を主張しているだけなのに……
鶏肉の唐揚げを買う気には、なれなかった。
渡を見かねたマチルは屋台に向けて走っていった。鶏肉を二つ抱えて戻ってくる。
「私二つ食べますから、食いしん坊ですから」
直ぐに「やっぱり食べきれない」と言って渡に手渡した。
ありがたく貰う、塩味が少しキツかった。
◆◆◆
ブラブラ外を見て回ること四時間、辺りは暗くなってきて、街灯がちらほらつき始めた。
マチルの子供のようにはしゃぐ姿は、またしても幼馴染を彷彿とさせた。
外は暗くなってきたが、渡の気分は彼女に引っ張られるように明るくなっていった。
「渡さん、この祭りの一番の出し物は、夜空に打ち上げる魔導なのです。絶景ですよ!! スポットがあるのでそこに行きましょう」
マチルに付いて歩いて行くと――突然空から黒い物体が降ってきた。
浮かれていた町の人間たちの楽しげな声が、悲鳴に変わる。
光沢のある黒い表皮、五メートル近い体躯、大きな翼、細長い大きな頭、二足で君臨し、長い尻尾の先端は刀のように磨かれていた。
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