ニートと幼馴染の影
「渡さん起きてください、ご飯持ってきましたよ」
目を覚ました、起きると一瞬ここが何処か、わからなくなる。
渡の物は、ベッドの横に立てかけてある勇者の剣のみ。
自分の物がないこの部屋は、他人の部屋のように感じてしまう。
今着ている簡素な黒い寝間着も自分の匂いはしない。この宮殿内はあちこちに飾ってある黄色い花の影響で、柑橘類の匂いがする。
「おはよう、ありがとう」
ベッドの上で伸びをして、ピンク色の髪色をした、ツインテールの女の子に渡はお礼を言う。
「いえいえ、渡さんは、今日何をされる予定ですか?」
「特に何もないよ」
「そうですか、部屋を出るタイミングでお掃除をしたいのですが……」
「いいよ、別に、今掃除してもらっても」
渡は木で出来たテーブルに座り、頂きますと言って食事を始めた。
「そうですか……では掃除しますね」
食事をしながら、渡は掃除しているマチルを観察していた。
この子は、マチルだっけか、目元とか奏に似ているな。
昔の幼馴染とマチルという少女にまた一つ、涙袋という共通点を見つけた。
渡は朝食を食べ終わり、フルーツが食べたいと感じた。
「マチルさん、果物が食べたくなったのですが。何かないですか?」
「果物ですか、リンゴが確か厨房にあったはずです。持ってきますね」
マチルは小走りで取りに行ってくれた。
急がなくてもいいんだがな。
ベッドの上には、取り外す途中で放り出されたシーツがクシャクシャに置いてあった。
気になったので、片づける。
奏はちょっとしたことでも手伝いをしてあげると凄い喜ぶんだよな。
あの、「渡君ありがとう」を、本当はもっと聞いていたかったのに……まあ、俺の自業自得何だけどな。
扉が開く。
「渡さんリンゴです」
マチルは少し息を吐いて、リンゴを差し出した。
これは皮を剥かずに食べろということだろうか?
「皮とかは、剥かない文化なのか?」
マチルは少し焦った表情をして。
「あっ、忘れていました、皮剥きますよ。ちょっと包丁持ってきますね」
渡は刃物なら勇者の剣があると思いつき、マチルを引き留める。
「マチルさん、自分で剥けますから、持ってこなくて良いですよ」
勇者の剣を手に取る、銀色の剣は美しい。
長すぎて取り回しが悪いので、包丁ほどの長さまで縮める。
勇者の剣でリンゴの皮を剥く。
「はわわ、勇者の剣で皮むきですか、いいのですかね、判断しかねます、んー」
ピンクの髪の毛が揺れる。
小首を傾げて、腕を組み、マチルは眉間にしわを寄せて、唸っている。
手早くリンゴの皮を剥き終わった渡は、リンゴをかじった。
口から汁が溢れて落ちそうになったので、皿の上に顔を移動させる。
ベッドメイクの続きをしようと、マチルは視線を移し、目に入ったのは、取り外され、畳まれたシーツであった。
「渡さんが、片づけてくれたのですか?」
「ん? ああ……暇だったからね」
「あ……ありがとうございます」
頭を下げて上目使いで渡を見て、礼を言う。
素直な感謝、王女とは違う、ただの感謝。
小さなことでも「ありがとう」そう言って凄く喜んでいた幼馴染を思い出す。
マチルは奏と同じような話し方だな……
この子と、もっと話したい、そんな感情を渡は感じていた。
どうすれば話せるか、考えた渡は暇つぶしにもなる、一石三鳥のアイデアを思いついた。
異世界転移ものといえば、オセロで稼ぐ、頼めばマチルとオセロで勝負できるかも知れない。俺の暇つぶしにもなる。どうやら天才のようだ。
渡は自信を持った声を出した。
「マチルさん、この世界にはオセロという、ボードゲームはあるかな?」
「ありますよ」
あるのかよ、金儲けは出来ないようだ。テンプレ破断。
「俺と勝負しよう、すごい暇なんだ」
マチルは渡をなぜか見つめている。
「良いですよ、洗ったシーツ持ってくるので、ついでにオセロ持ってきますね」
◆◆◆
「お昼からは、ミーティー先生の教えを受けるので午前中までしか、出来ませんよ」
マチルは、テーブルの中央オセロを置いて準備してくれる。
「じゃあ、取りあえずルールを確認しよう」
渡とマチルはオセロのルールに違いがないか、確認を行い、ゲームを始めた。
「滅茶苦茶強いんですけど」
渡はマチルの強さに驚いていた。
目の前に広がるのは鮮やかな白一色。
「私、ボードゲーム全般強いですから」
胸を張って、マチルは自慢気な顔をする。
こうしてゲームをしていると、渡は昔の幼馴染の奏を思い出してしまい、マチルと幼馴染を重ねてしまう。
「もう一回しよう、次は負けないぞ」
◆◆◆
「何回俺はパーフェクトゲームやられるんだ」
マチルと渡のオセロ対決で、渡は自分の色を一色も残すことが出来ていない。
十二戦十二敗、全てパーフェクト、
インターネットの対決でブイブイ言わせてきた渡は、ある程度オセロに自信があった。
その自信は根こそぎ刈り取られてしまった。
何やっても俺なんてこんなもんだ、本物には一生勝てない。
「渡さん弱いですね、フフフ」
彼女は笑っていた。
マチルが笑っていると幼馴染が笑っているようで、懐かしい気持ちになった。
窓から入ってくる光は眩しいから、外はあまり見たくなかったけれど、まぶしい現実を受け止めて、改めて外を見てみると、また違った世界が見えた気がした。
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