ニートと懐中時計
渡は、ルイスを押し返した。
「やめてくれ」
ルイスは身を引いて、煽るように、
「顔真っ赤じゃねえかハハハ」
「何のつもりだ」
本能はもう一度抱きしめてと連呼している。
「私はな、家族以外とこうやって話すのは初めてなんだ、お礼だよ、楽しかったから、嘘じゃないぜ分かるだろ」
ルイスの青い瞳を見るが、確かに少し楽しそうに見える。
「最初は、手紙破るひどいなんて奴だと思って、だけど仲良くしないといけないと思って、心と表情が裏腹になっちまった」
ルイスは胸に手を置いて、
「今度から、自分に正直に接するから、仲良くしてくれよ」
ルイスは渡に握手を求めた。
「いや、だから……あんまり馴れ馴れしくしないでください、感情移入したくないんで」
別に、気持ち悪いから笑うなって言っただけで、何一人で盛り上がっているんだこいつ。
でも、ギュってされるのは、エロいな。
ルイスの手は空中で止まったまま、握手をすることはなかった。
「ばかたれ」
そういって、治療室を出て行った。
◆◆◆
晩飯を食べるため廊下を歩く、扉を開けると、ケルトがいた。
「渡君食事かい?」
ニコッと笑いかけてくる、イケメンだ。
イケメンってだけで、罰を与えるべきだと思いました。
「はい、よろしくお願いします」
渡はカウンターに腰を掛ける。ケルトは厨房で料理を温めているらしい。
中で、赤い光のようなものが、くるくると料理の周りをまわっている。
なんだろう、あの赤い光は。
「今日はサーモスのソテーと、貝のサラダに、貝のスープ、白パンだよ」
サーモスってなんだろう?……食えればいいか……
「ありがとうございます」
「渡君は、何時くらいに昼飯、夜飯食べるの?」
「こっちに来てから、時間見てないですね、把握出来ないですし」
「太陽と星の位置からも把握出来るけど、ちょっと不便だね、食事の時間が分からないと、冷たい食事を食べることになってしまうし……僕の懐中時計をあげるよ」
ケルトは、胸ポケットから懐中時計を取り出し渡してきた。
渡はケルトを観察した、青い髪は短く爽やかな印象を与える。
この人は、俺と本当に仲良くなりたいと思ってるのかな、そんな気がする。
俺に何か頼み事をしてくるわけでもないし、手伝え、修行しろって言う奴、うぜーんだよ。
渡は素直に懐中時計を受け取った。
「それ、滅茶苦茶高いから、大切にしてね、回すの忘れると止まるから覚えといて」
「なんか、変な絵が書いてあるんですけど」
時計を裏返すと、フワフワした服装で、ちょっと太ってる女の子の絵が書いてある、デブ妖精の絵、少し可愛い。
「僕の一番のお友達さ、可愛いだろ、僕が彫ったんだよ」
この青髪、イケメンなのに友達少ないんだな、罰を与えるのはやめてあげよう。
「取りあえず、ありがとうございます」
渡は礼を言って頭を下げた。
「ご飯の時間はしっかり守ってね、じゃないと僕に会えないよ」
「別にお兄さんに会えなくても良いんですが」
「つれないこと言うねー……食事冷めてしまうから、早く食べて」
結構美味いな、温かいうちに食事は食べろと、母さんも言ってたな……
渡は、手を合わせて、
「頂きます」
ケルトは渡の隣に来て匂いを嗅いだ、
「渡君からフレイの匂いがするけど、なんかあった?」
この青髪怖いなマジで。なんか狂気を感じる。
土下座しながら笑う奴だからな、こんなもんか。
「あー石鹸借りました、返さないといけないな」
「この部屋を出て、一番右の二階がフレイの部屋だよ」
「あー……ありがとうございます」
「渡君……こちらの世界に来てから見た女の子たちで、誰が一番タイプ?」
恋バナしようとしてくる、ガキかよ。
「別に、誰もタイプじゃないですね」
「あんなに美人ぞろいなのに、もしかして……僕が好きとか……ごめんね……僕は女の子が好きなんだ」
突っ込み待ちの、ボケかよ
「そうですか、良かったですね」
渡はニコッと笑って。
「ちゃんと、突っ込んでくれよ、つれないなー」
ケルトはそう言ってケラケラ笑った。
渡は手を合わせて、
「ごちそうさまでした」
そして、食事の感想を述べる。
「おいしかったです」
ケルトは少しびっくりした表情で、
「……それは良かった」
最後に嬉しそうな表情をした。
「それでは」
渡は、調理場出て行った。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆
渡はフレイの部屋の前に来た、扉をノックする。
「はい」
威圧的な女の声がする。
「あのー石鹸返しに来ました」
扉が少し開いた。
顔を少しだけ出して、こちらを確認している。
「どうだった?」
「なにがですか」
「その石鹸の匂い」
「いい匂いでしたよ」
彼女の赤い髪が、少し揺れた。
「あげる」
そう言って扉を閉められた。
渡は風呂に入った、石鹸はいい匂いだった。
フレイに一撃で気絶させられたことを思い出す。
剣は強いが俺が強い訳じゃないと自覚させられた。
やはりこの世界でも俺は弱いままだ。
今日も深く睡眠を取ることは出来なかった。
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