90.光
――姉様視点――
私はカッドを背負って魔の森へと分け入った。
カッドが言ってた『統率者』がどこに居るかはわからないけれど、カッドが魔の森にいるって言ってたんだから、魔の森にいることだけは確かだ。
「《強化・AGI》」
早くカッドを復活させたい。望みはまたカッドと一緒にお話がしたい。それだけ。
カッドがもう動かないと思うと目の前が真っ暗になるし、もう話せないと思うとなにも考えられなくなる。
本当はカッドをこんな目に遭わせた魔術師団の連中へ復讐をしに行きたいけれど、全てはカッドが復活してからだ。
カッド。
心の中で呼びかける。
今度こそお姉ちゃんが守ってあげるからね。
貴方は一生家の中にいて、私と楽しく暮らすんだよ。もう二度と貴方を危険な目には遭わせないから、安心してね。
早く復活させてあげるから、私と一緒にいて。
「じゃないと、私生きていけない」
自分で聞いても情けなくなるほど消え入りそうな声で呟く。
泣きたいけれど、もう泣かない。カッドが復活するまでは。
何回かモンスターが襲ってきたけれど、全て無視して進む。
どうせ私の速さに追い着ける訳でもないし、そんなもののために時間をとられてはならない。
タイムリミットは一時間。一時間経てば肉体から魂がなくなり、二度と蘇生することは出来なくなる、そうだ。
かつて神話時代に神が行ったとか言う魔法ではいくらでも死者を復活させることは出来ていたらしいけれど、現代の魔術では再現不可能。
「ブオ。ボウブォウ」
「オーク?」
いきなり私の目の前に出てきたのはオーク。その姿を見て私は足を止めた。
森に入って二、三十分ほど。この深度でオークが出てくるとは思えないし、ただのオークにしては装備が整いすぎている。
殺した冒険者から奪い取ったのかしら。オーダーメイドなどではなく、せいぜい市販品程度の等級の装備ね。
「貴方、ただのオークじゃないわね?」
「ブォブウ。|ボヴォブウボォウヴォウヴォボ《これより先には偉大なりし王の砦がある》」
「そう。偉大なりし王、ね」
「ブォブォブォウ。|ブゥウヴォブヴォブブヴォブォウゥボゥォウ《人間の女はなに用だ》?」
「私は『統率者』とか言うのに会いに来たのよ」
「ボォウ……ボヴォブウボォ?」
「私はその偉大なりし王のことを知らないのだけれど、連れて行って貰えるかしら?もし『統率者』だとしたら、私は客人と言うことになるわ」
「ブォ。ブォゥヴォゥヲウ」
「感謝するわ」
オークの言う偉大なりし王とやらがカッドの言っていた『統率者』なのかはわからないけれど、その可能性が少しでもあるならば、行ってみる価値はあると思う。
オークは王の砦と言っていたから、少なくともその王は砦を一つは所有していることになる。
「ブォウヴォウヴォブォ?」
「私の弟よ」
「ブォウ」
「彼の蘇生を手伝って貰おうと思ってね」
「|ヴォウヴォボウボヴォウウヴォ《砦には優秀な治癒師がいる》」
「それは良かったわ」
私はそれを聞いて本当に安心した。これでカッドを蘇生させる目処が付いた。
「ならば早く行きましょう。《強化・AGI》」
「ブゥモ!?」
私はオークにも強化魔術を掛けてやると、驚いて声を上げた。
「強化魔術よ。急ぎましょう」
「ブォ、ブヴォオ」
「感謝はいいから、早く行くわよ」
「ブォヴォウ」
それから私はオークを先に立たせてさっきまでよりももっと速く走った。
明確な目標がわかった以上、もとより一刻の猶予もない。
早くカッドと会いたいな。




