8.開始日朝
――翌朝。
「ん~。……っはぁー。……母様、おはようございます」
伸びをし、枕元の母様の写真に挨拶をします。
「今日は良い天気ですね。幸先が良いです」
私は身支度をし、部屋を出ます。
どうせ私の分の朝食なんて碌なものが食べられません。一回酒屋というところに行ってみたかったのです。朝食は無いくらいが丁度いいです。
「……」
未だ、皆が寝静まっている時刻。
誰かを起こさないように、慎重に、足音を殺してゆっくりと進んでいきます。
しばらく廊下を歩いていると、前方に見慣れない人影を見つけました。
次第に距離が近づいていき、互いの顔が判別できるようになった時、私は一瞬、眉間に皺をつくってしまいました。
「……」
「……」
不躾にならない程度に彼の顔を盗み見て、擦れ違ってから振り向きます。
見たことの無い顔、独特な歩き方、顎に生えた無精ヒゲ、使い古された鎧に取って付けたようなシュタイン家の炎の紋章、|右の眉に斜めに走っている古傷。
一見傭兵ですが、鎧に付けられた騎士の紋章が気になります。彼は一体何者なのでしょうか。
今この家で紋章を与える事が出来るのは、弟のアレクセイただ一人。父様は王都に行って、しばらくは戻ってきません。
おそらく、アレクセイがどこからか傭兵を拾ってきて、それを騎士にしたのでしょう。団長が聞いたら怒り狂いそうな話ですね。彼は己が騎士であることに大きな誇りを持っていますから。
……まあいいでしょう。
今はそんなことをしている暇はありません。そろそろ渡り人の方達が来る予定です。それに、いい加減お腹が減ってきました。
――あるプレイヤー視点――
[【セントラル】へようこそ!]
白い空間には、ただそんな大文字が広がっていた。
ここがキャラメイク空間だろうか。
[キャラクター名を入力してください]
歓迎の言葉が、要求に取って代わる。
目の前にキーボードが浮かび上がった。
「えーと、R、Y、O……」
エンターキーを叩くと、確認画面が出てきたので、YESを押す。
すると次に、自分の体が浮かび上がってきた。
自分の姿を弄りたいとは思えなかったので、どこも弄らずに通す。
[このままでは、身元が発覚する恐れがあります。よろしいですか?]
再び大文字と、YES/NOのボタンが現れる。
身バレの危険性か……。
まあ、現実でも武道習ってるから護身程度は出来るだろうと軽く考え、YESを押す。
[本当によろしいですか?]
再びYES/NOが現れた。
勿論YESだ。
その後、ステータスを剣士向きに弄ってから、『剣戯』、『光魔法』、『看破』、『交友』、『体術』、『跳躍』、『回避』、『物理耐性』、『魔法耐性』、『致命の一撃』の10個のスキルを取得した。
[キャラクターメイクが完了しました。【セントラル】の世界をお楽しみください]
そんな文字と共に、僕は光に飲み込まれていった。