78.死亡
――姉様視点――
「カッド!?いやぁ!死んじゃ駄目ぇ!」
私のカッドを背中から貫いた魔術は、既に消えている。魔術師が騎士の投げた剣で死んだからだ。
「《魔術陣》、《治癒》、《治癒》、《治癒》ぅ!」
すぐに治癒魔術を掛けないと、カッドが死んじゃう。
脳裏にカッドの苦痛に耐えている笑顔と、その口が何か、言葉を発した姿が映った。ありがとう。カッドは確かにそう言った。
絶対にカッドを死なせてはならない。
私の命に代えてでも、カッドだけは生き残す。
「グ、|グギャグギャ《早く移動した方がいいぜ》」
「うるさい!カッドが死んじゃうでしょ!」
ゴブリンがくだらないことを言ってたけれど、今はそれどころじゃない。
「ねえ、さまっ」
カッドが喋った!
死なせない。カッドは死なせない。
《治癒》を続けながら話をする。
『神聖属性』魔術を取っておけば良かった。
「カッド!どうしたの!?」
「私、は……もう、ゴホッ……ひぅっ、もう、駄目、です」
「そんなこと言わないで!私がカッドを助けるから!」
カッドの口の端から血が滴れる。
私がそう言うと、カッドは微かに笑みを浮かべ、すぐに苦しげな表情になった。
「よ、良いんです。私の、事は。私の……私の頭を、持って。森に、いるはず……『統率者』、渡してくだ、さい」
「何言ってるの!諦めないで!私が治すから!」
カッドの心がもう負けてる。
どうにかして生きようと思わせないと。
「生きて、カッド。一緒におば様を探そ?私と一緒に、おば様を探しに行こ?」
「ふふっ、ゴホッゴホゴホ……それは、とても、良い、良い夢、ですね」
眼から涙が溢れ、視界が滲む。
「夢じゃないよ!私と一緒に、おば様を探しに行くの!おば様を見つけたら、三人で仲良く暮らすの!」
「ね、えさま」
カッドは微かに首を振った。
「それは、ねえ、さまが、ひぅっ……私の代わり、に、かあ、さまを……」
「駄目!カッドがいないとおば様も悲しむわ!」
「……私は、ねえさまに、ねえさまにすくわれ、ました」
「私がっ!私が何度でもカッドを救うから!今も、これからも!」
涙が滴り落ち、カッドの胸に空いた穴から流れ出た血と混じる。
「ねえさま……いき、て」
「カッドがいないと、生きる意味なんてないよ!」
「幸せに、なってください」
カッドの目が私の後ろを見ている。
「ねえさま?」
「何?」
「ここに、いますか?」
「いるよ、私はちゃんとここにいるよ!」
「良かった。死ぬって、怖い……」
カッドの胸に空いた穴を埋めていた血の中から、コポリと気泡が浮かび上がった。
「いやぁ!死んじゃいやぁ!カッド!死んじゃいやぁ!」
カッドの体に縋り付く。
そこから魂が抜けてしまわないように、そこから温もりが失われてしまわないように。




