75.実力
「ああ、そろそろですね」
遠くに北門が見えてきました。
「皆さん、行きますよ」
私がさらに速度を上げると、誰も遅れずについて来ました。
うすうす感付いていましたが、というか隠す気は無いのでしょうが、姉様は絶対『偽装』スキルを持っていますよね。それも常時発動出来るMPと共に。規格外です。
騎士コッケルよりも強いのではないでしょうか。
私はアレクセイを仕留め損ないましたが、姉様なら確実に一撃で消し飛ばしていたような気がします。
「姉様、お願い出来ますか?」
「いいよ」
北門の周囲には、魔術師団の制服を着た者達が数人います。
私も騎士コッケルもゴブリンの方にも戦う力は殆ど持っていません。
情けないですが、姉様に頼らせて頂きましょう。
「《鎖・飛電》!」
「があっ」
「ぐぅっ」
姉様が走りながら魔術を放ちます。
初めて見るその魔術は、幾度も跳ねて尚、威力を減じていないようです。
姉様はパチンと指を鳴らしました。
「《爆発》」
代替詠唱。
一定の動作をすることによって、詠唱の代わりとするものです。
無詠唱や詠唱破棄とは違い、詠唱の代わりといった扱いのため、威力は減じません。
初めて見ました。
姉様の撃った魔術は、北門の前一帯を更地にしました。
「それから、《氷床》」
姉様の声に合わせて、炎に融解していた地面が凍り付きました。
「……凄い」
凄まじいMAG値。
凄まじいMP量。
姉様を見ると、当然といった様子で前を向いています。
その美しい横顔に私は心惹かれました。
姉様ならこれくらい出来て当然という気もしますが、ここまで出来るのか、と。
私もいつかこうなりたい、と。
その強さに、美しさに、私は憧れました。
「行きましょう!」
何はともあれ、今はこの街から逃げ切ることが最優先。
私が憧れようと、絶望しようと、時は等しく過ぎていきます。
かつて門があった場所を、先程までよりもさらに速度を上げて駆け抜けます。
「待て!動くな!」
生き残りの魔術師が私たちを見咎めます。
「炎よっ!槍となれ!貫……ぐはぁっ!」
「《氷龍》」
彼が発しようとした魔術は高位な物だったのでしょうが、姉様が一言呟くと彼の下へと水が細く流れ、すぐに凍っていきます。
姉様の言葉通りそれはさながら龍のようでした。
「姉様、これはなんですか?」
「ん?《水流》と《氷結》の合成魔術だよ?」
「ご、合成魔術……」
姉様は何でもないようにいいますが、どちらもかなりスキルレベルが高くないと扱えない魔術。それを合成させるとなると、MAG消費も並ではないはずです。
姉様が何故このような魔術を作り出したのかは、少し考えればすぐに分かります。
これは使う魔術なのではなく、魅せる魔術なのでしょう。
圧倒的に上の立場から、相手を魅了する。
姉様に相応しくなんと傲慢で、そしてなんと美しい魔術でしょうか。




