66.チート
「くっ!」
「団長。貴方達騎士団と魔術師団は手を出さずに見守っていて貰えませんか?」
「そ、そんな事、出来る訳がないでしょう!」
取り敢えず《氷の剣》を無詠唱で展開し、そのためにもう槍の穂くらいの大きさまで落ちたそれをアレクセイに向けて投擲します。
「なっ!若さま!?」
驚愕する騎士団と魔術師団の面々へと言い放ちます。
「これは私とアレクセイの戦いです。貴方達特別部隊は兄弟喧嘩を止めるために存在しているのではありませんよ」
「ですが、これ以上謁見の間を壊す事は見過ごせません」
「もう十分手遅れだと思いますがねぇ」
今いる部屋を見回すと既に上座以外全てが原形を留めていないのがわかりました。
「貴方達は父様か領主代理の姉様の命だけで動けば良いのです。余計な事に首を突っ込んでいると、いつか火傷しますよ」
今の私は無手。無手で騎士団を相手にするのも、魔術で魔術師団を相手にするのも、どちらも愚か者のすることです。それは彼らもわかっているのでしょう。
ですが、この場には不確定要素が二つ。
言わずもがな、ゴブリンの方と騎士擬きです。
そのことを言外に含みつつ、彼らに対して時間稼ぎをします。
「若さま。お嬢様はどちらですか?」
「姉様ですか?勿論安全なところにいますよ。私を誰だと思っているのですか?」
姉様に万が一も危害が加えられないように万全の体制は敷いてありますとも。
姉様に渡した護身用の魔道具。
身を守るものだと説明しましたが、それだけではありません。姉様に危害が加えられることなど、あってはならないことですからね。
「安全なところ……。若さまがそう仰るのなら確かなのでしょうが……」
「ええ、少なくともこの場よりかははるかに安全ですよ。貴方達も姉様の元へと向かってはいかがですか?当主代理は姉様ですよ?」
「ですが、我々にも我々の仕事があります」
おや、雰囲気が変わりました。
ちらりとゴブリンの方と騎士擬きの様子を窺います。未だ戦っているようですが、ゴブリンの方のほうが優勢です。
「ところで団長。あなたは『看破』を持っているので効果は無いと考えているのかもしれませんが、私がなぜ『偽装』スキルを使っているのかわかりますか?」
私も今朝気が付いたのですが、実は『偽装』スキルってかなり強いのですよね。
「……なぜですか?」
団長も漸く私が騎士擬きの格好をしていることに疑問を持ってくれた様子。
「あの騎士擬きを見てください。実に多彩なスキルを持っているでしょう?」
そう言いながら私は『隠密』スキルを発動させます。
『暗黒属性』魔術ももう検証済みです。
「《暗黒の球》」
夜の闇を固めたようなこぶし大の球が騎士擬き向けて飛んでいき、そのまま騎士擬きを気絶させました。
「なっ!何が!?」
『隠密』スキルを解き、同時に『偽装』スキルも解きます。
「若さま、何をなされたのですか?」
「何でしょうかね?」
私も今朝気が付いたことなのですが、どうやら『偽装』スキルを使って誰かを偽装すると、相手のスキルを全て、スキルレベルを二十分の一した状態で使えるらしいのです。
なぜ誰にも知られていないのかが気にかかりますが、このあまりにも強大な力、他者に知られれば厄介なことになるでしょう。当然、私の切り札です。
今回は騎士擬きが『暗黒属性』魔術を持っていても対応する耐性を持っていなかったのが幸いしましたね。普通の相手にこの力は使いにくいかもしれませんね。




