62.風魔術の兄弟
漸く風が収まり、再び開けた視界の端にゴブリンの偉丈夫の姿を見ながら、目を見開いている弟に告げます。
「二対一は不公平でしょう。ならば二対二にすれば良いとは思いませんか?」
「……たかがゴブリンに何が出来る」
「……なんだ。馬鹿でしたか」
確かに基礎ステータスは低いですが、人間と同じく修練を積むことによって簡単に強くなれる種族ですよ。それすらわきまえず、たかがゴブリンなんて暴言を吐くなど、領主代理など名乗れませんね。今頃町の方で暴れているであろう『統率者』も『たかがゴブリン』なのに。
「全く。勢いを削がれましたね。ゴブリンの方、そこの騎士擬きをお願いいたします。私は先にアレクセイを片付けておきますので」
「グギ!」
さて、邪魔は入らなくなりましたし、私もいい加減本気を出して殺しにかかりますか。
「『呪術:魔力使用不可』」
まず魔剣を封じるために呪術を行使しますが、流石にここまで高位の呪術は体に負荷を掛けすぎたかもしれません。
心臓が一度大きく脈打ち、思わず片膝をつきます。
慌ててHP回復ポーション瓶を噛み砕きますが、体に力が入りません。
「どうした、兄さん。もうちょっとレベルを上げておいた方が良かったんじゃないのか?」
「……」
もしや、あなたの仕業でしたか、アレクセイ。
震える手を腰のポーチに伸ばし、HP回復ポーションを再び口に持って行きます。
「《雷針》」
「ぐっ!」
ポーション瓶は私の口元で雷に砕かれ、私は慌てて宙を舞うガラス片と共にポーションを口にします。
幾分か楽になった体でその場から横に転がりながら、もう一度ポーションを口にくわえ、噛み砕きます。
「ははははは。兄さん、突然どうしたんだ?毒にでも当たったか?」
「そ、んなことある訳ありませんよ」
もう一度ポーション瓶を噛み砕きながら立ち上がります。
もう体が楽になりました。流石星屑のHP回復ポーション。ストックはあと一つだけとなりましたが、一本でHP五〇〇回復の触れ込みは伊達ではありませんね。
「ですが、もうあなたの負けです、アレクセイ。勝ちに行きますよ」
「はっ!さっきまで寝ていたと思ったら、起きたまま寝言を言うなんて器用だな、私生児。どこからでもかかってこい」
ではまず手始めに、『偽装』で騎士擬きに成り代わります。
「『偽装』スキルか。私生児らしい卑屈さだな」
「あなたは『看破』スキル持ちでしたね。疑り深いと嫌われますよ」
軽口に軽口を叩き返しながら短剣を逆手に持って、魔術を発動します。
「《風の爆発》」
風圧をアシストに前方へと駆け出し、アレクセイを睨み付けます。
「何だ、突撃するだけか。馬鹿なのか?俺は普通に遠距離攻撃が出来るんだぞ?」
「……」
試してもいないくせに、馬鹿ですね。
もしくは、既に魔術が使えないことを悟っていて、ハッタリをかましているのでしょうか。そうだとすれば、たいした演技力です。次期領主から劇団へと転職をすればいいのに。
「《物質変換;コンクリート》」
なにやら魔術を使おうとしていますが、無視して先に進みます。
アレクセイも魔術が使えないことに気が付いていない様子。それとも、本当は魔術が使えているのでしょうか。なら、私の先程の苦労は何だったのでしょうか。
「《竜巻》、《曲がりくねった竜巻》」
直後、アレクセイの体から剣へ紫色の光が走り、剣先から風が生まれました。
まさか。
魔剣とは、魔術の封じられた剣ではなかったのですか。
「チェック・メイトだ。油断したな、私生児」
「魔術一つの行使に成功したからと、いい気にならないことです」
本来は打ち消したいところですが、仕方ありません。火攻めに対して火をおこして対抗したという神話にあるとおり、風に対しては風を使って対抗すれば良いでしょう。
「《風の爆発》、爆発」
『不意打ち』スキルと『狙い撃ち』スキルのアシストで、ほぼ横倒しになっている《曲がりくねった竜巻》の中央へと『風属性』魔術を放ちます。
『回避』スキルで《竜巻》を大きく避け、もう一度、今度は直立している方へ『風属性』魔術を放ちます。
「《風の散弾》、発射……爆発!」
散弾をばらまいて風の動きをバラします。
風壁を作ることも一瞬考えましたが、おそらく押し負けてしまうでしょうから、風を分解する方法をとることにしました。
お久しぶりです。しばらく(9月になるまで)は更新が安定しないと思われますが、もうもったいぶらずに「2」のほうはここまでの分、一気に投稿することにしたので、そちらを読み返していてください。




