5.男ですから
「ここですか」
中々どうして立派な場所じゃないですか。
我が家とは比べるまでもないものの、普通の一軒家とは到底思えません。
今までよくバレなかったものです。
「済みません、通していただけませんか?」
門の左に立っている門番さんに、笑みを湛えながら告げます。
愚鈍なラウトさんは、猿轡をした上で、ここからは丁度死角になっている場所へ手足を縛って転がしてあります。
「……はっ!な、何用ですか?」
なにやらぼうっとしていた門番さんは、しかし、己の職務に忠実に、こちらへ問いかけました。おそらく、来ているものが結構高級なものなので、敬語を使ったのでしょう。
「いえ、少しこちらの頭領の方に用がありまして」
「ボスに……わかりました。今から確認をしてきます。……おい、今誰かが来る予定なんてあったか?」
左の門番さんは、右の門番さんに問いかけますが、残念ながらアポ無しで来たので、知っているはずもないでしょう。
「申し訳ないのですが、私は頭領の方と約束していないので、おそらくご存じないかと存じます」
「なっ!?では、何故来られたのですか?」
「ちょっとした儲け話を持ってきました。勿論、通してくれますよね。五分までなら待ってあげます」
門番さんは大慌てで中へ入っていきました。おそらく、頭領さんへ報告に行ったのでしょう。
「あの、失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
残った右の門番さんが聞いてきました。
私は名乗りたくないのですが、今までの態度からそれもわからないほど愚かなのでしょうか。……いえ、違いますね。おそらく、それをわかった上であえて職務のために聞いている、職務に忠実な人間の鏡のような方なのでしょう。
「名乗るほどの者ではありませんよ」
「そ、そうですか」
恐れと、少しの驚愕が混じった瞳で見つめられたので、さすがに気の毒に思い、一応名乗ることにしました。
「母から頂いた名は、ケイデンと申します。私は男ですから、お間違いの無きよう」
私が女に見えるのは承知しています。そのため、自分が男であることを主張しているのですが、それを否定する者もよくいます。
事実を事実として受け止めないのは愚か者のすることですが、事実を事実と受け止めた者が賢いかというと、そういう訳ではありません。
私が男だと言うことを認識した上で、目を血走らせた者もいます。少々気持ちが悪くなったので、その場を去ろうとすると、後ろから襲いかかってきたので返り討ちにしておきました。漢としての象徴を、潰してから、死なないうちに傷跡を塞いでおいたら、男女オカマとして服屋の店長になっていました。その服屋に行くと、一割引してくれました。笑顔で、新しい世界が開かれたとか言っていましたね。今まで自分が間違っていたこともわかってくれたようなので、いい仕事をしたと達成感に包まれたのを覚えています。
「ケイデン様!ケイデン・ベネット様ですね!」
先程の、左の門番さんが私の名前を叫びながら、帰ってきました。
「その通りですが、何があったのですか?」
「いえ、私としたことが、失礼いたしました」
「あなたには名乗った覚えがないのですが、よく私の名前がわかりましたね」
「ええ、ボスがあなたのことを存じているので」
はて?ここの頭領さんは私と面識があるのですか。どなたでしょう。