40.拷問
「《炎の絨毯》」
「「「「「「――ッ!――――ッ!!」」」」」」
この魔術は、暗闇で使うとバレるということ以外は優秀な魔術ですからね。
簡単に火だるまになった下っ端の方達を尻目に、やはり火だるまのアイゲンさんの方へ歩み寄ります。
「《天の恵み》」
全ての軽い状態異常を打ち消す『光属性』魔術で彼の火を消してから、範囲魔術の外に出します。
「さて、拷問開始です」
彼にかかっている『呪術:無音』を解き、彼の足を踏み砕きます。
「ギャァァァァ」
「静かにしてくださいよ。こんなにいい天気なんですから、静かに黙ってお昼寝でもしていたい人もいるんですよ」
人を一方的に痛めつけても、全く楽しくありません。
命の奪い合いは楽しいのですがね。
「さて、頭領の方の居場所はどこですか?」
「い、いえるか!兄貴を殺させる訳にはいかねぇ!」
「へぇ」
ずいぶんと慕われているんですねぇ、頭領の方は。
取り敢えず腰から短剣を引き抜き、彼の右手を手に取ります。
そのまま無造作に彼の右手の親指の爪の間に差し込みます。
「グアアアァァァ」
「本当にうるさいですね」
拷問なんてしたことありませんが、ここまでうるさい物なのでしょうか。
きっと世の中の拷問官は皆、耳栓をしながら拷問をしているのでしょうね。
「どうですか?爪の剥がされた感触は。次は二本目、行ってみますか」
そう言って親指から人差し指に持ち替えます。
どうせ最後に根を上げるなら、出来るだけ犠牲の少ない方が良いと思うのですがね。
「あ、もう一人欲しいですね。生きている方はいらっしゃるのでしょうか」
火の絨毯が敷かれている場所を見ると、ほとんどが死に絶えていました。
ただ、あと二人ほど絨毯の上で踊っている方々がいます。DEFなりHPなりが他の方よりも高いのでしょうね。
それよりも、この中には『火属性』魔術を習得している方はいらっしゃらなかったのでしょうか。
幾人か魔術師ふうのローブを着ている方がいらっしゃいますが、『火属性』魔術のスキルレベルが使い物にならないほど低く、そのため『火炎耐性』が低いのか、もしくは『火属性』魔術を習得していらっしゃらないのか。
魔術系のスキルなど、せめてスキルレベルを10以上にして無詠唱化を解放させないと使い物にならないでしょうに。もしくは多少威力が減ることを覚悟の上で詠唱破棄をしないなど、それでも本当に魔術師を名乗れるのでしょうか。
というか、魔術師ならたかだか火で包まれた程度で魔術の行使を諦めないでくださいよ。
もう少し粘ると踏んでいたのですが……。
「そうですね、あなたに決めました」
生き残っている内の一人を蹴り倒し、もう一人は適当に水を掛けて救い出します。
「あなた、まだ生きていますか?」
『呪術』を解いて質問します。
「殺すっ!」
「おっと、危ないじゃないですか」
焼け爛れた手で貫手を放ってきたので、半身になって避けます。丁度私の胸を擦って手が伸びていったので、その手を掴んで一本背負いします。
「少なくとも、今のあなたじゃ私に勝てませんよ」
「くっ」
焼かれたことで頭が怒りに支配されているのでしょうが、そのような人間の単調な攻撃を受けるほどヤワな鍛え方はしていません。
「私の質問に嘘偽りなく答えたら、あなたを直して解放してあげます。ただし私を騙そうとしたり答えを渋ったりすればもう一度火の中に――」
「答える!答えるからもう火はやめてくれ!」
「……そうですか。それは良かったです」
よっぽど恐ろしかったようですね。
軽く心傷になっているようです。
「その前に《雑音》」
「何を!なっ!?」
『闇属性』魔術で、聞こえてくる音に雑音を被せ、不明瞭にする魔術です。
これから尋問する内容を彼に聞かれて、嘘か本当かを確かめられなかったら困りますからね。
呪術でも同じような真似は出来、そちらの方が効果が高いのですが、呪術と魔術は根本的に違い、呪術はHP、魔術はMPを消費します。よって、呪術を使いすぎればHPが無くなってしまうので、呪術の使用には気を付けなくてはなりません。
人を呪わば穴二つということですね。
「それでは第一問。貴方達の頭領の方はどこにいますか?」