32.出動
――引き続き騎士団長視点――
「総員、傾注!」
西門前の広場に集まった二十八人の騎士団員を前に、胸を張る。
いつ、どこでこのような非常事態が起きてもすぐに騎士団が駆けつけられるよう、東西南北それぞれに面している四つの門の前には空き地が広がっている。申し訳程度に木が植えられていたりするが、生えている植物のほとんどは雑草で、手入れが行き届いていないのが一目でわかる。予算が足りないからだ。
武具類を新調したり、修理したりするには、どうしても鍛冶師に頼まないといけない。訓練で使用するものなど、すぐ壊れてしまうので一番の金食い虫だ。
さらに騎馬の世話などもあり、予算は幾らあっても足りない。
しかし、それは魔術師団にも同じ事が言える。
「これより、北西に現れた敵対生物を排除しに征く!その際、上位職への転職を許可する!以上!」
訓練されているだけあって、さすがにざわつくと言うことなどはなかったが、皆目に見えて動揺した。
ここにいる騎士達は既に騎士になってから五年以上は経過していることからもわかるように、全員が上位職へと転職出来るだけのレベルを持っている。
しかし、聖騎士に転職すればカルマ値が負に傾いている者には威力が上がるものの、正に傾いている者には威力が落ちる。逆もまた然りだが、そもそも騎士とは秩序に属するものなので、わざわざ暗黒騎士に転職してカルマ値が正に傾いている者への威力を上げるためだけにカルマ値を負にするような真似をすれば、それはかなりの重労働になる。
よって聖騎士として秩序陣営に入るか、金剛騎士や爆炎騎士など、中立陣営に属するか、どちらかしかない。まかり間違っても混沌陣営に入ることなどはないのだ。
一方、職業を変更するには、専用のスキルを取得するか、魔道具を使うかの二通りがある。魔道具とはスキルや魔術を封じ込めていつでも使えるようにする物なので、誰でも使えるような魔術は魔道具にはなりにくい。
しかし、特殊な魔術や、主に神官が得意とする『治癒』系統の『光属性』魔術と、戦士が得意とする『武技』などを合わせた魔道具など、難しい複合魔術は需要が高く、切り札たり得る。
それはさておき、クラスアップの魔道具は騎士なら全員持っている。下手にクラスアップすれば特定の相手に対して威力が低くなってしまうのでそのような真似は出来ないが、やはり力不足の時はある。
そのような時に備え、値は張るが、全員分用意しておいたのだ。クラスアップは下手なレベルアップよりも遙かに強くなるからな。
金が勿体なかったので全滅しましたでは話にならん。命が無いと金も使えないからな。
「では、これより、敵対生物の鎮圧へ征く!続け!」
「「「「「「オオ――――――ッ!!!!」」」」」」
ふと、頭の中に若さまの姿が浮かび上がった。
もしかすると若さまとお嬢様の身に危険が及んでいるかもしれない。急がなければ。




