30.潜入直前
「彼らはジーニ・ファミリーの……いえ、シュヒレトでしたか?……まあ、どちらでも良いです。ともかく、ファミリーの方々です。今回の件に当たって私に協力して頂くことになりました」
「グギギ?グギャグギャ!」
こういう会話を続けていたら、『言語学』のスキルレベルは上がったりしないのでしょうか。
「済みません、ケイデン様。少し遅れてしまいました」
一団を連れて、なんとか・ファミリーの頭領の方が来ました。
「いえいえ。丁度良い暇潰しがあったので退屈はしていませんでしたよ」
「してケイデン様。こちらは?」
「この方は今回私に協力してくださることになった、ゴブリンの方ですよ。私たちの言葉も解すので、そのまま話しかけて貰って構いませんよ」
「そうですか。……オレはシュヒレト・ファミリーの頭領、ヨハネスだ。よろしく」
「グギギ!グギャ!」
種族の違う二人が無事握手を交わしたのを見て、私は内心ホッとしました。
別にこの二人がいなくなった程度どうしたこともありませんが、ファミリーの戦力が使えなくなると面倒臭くなりますからね。
「さて、お二方の親交も深められたことですし、これからツインクラウンへと向かいますよ」
「グギ?」
「町のことですよ」
今回はわかりました。幾ら『言語学』のスキルレベルが上がっても、固有名詞までわかるようになる訳がありませんからね。
「私は当初の契約通り、頭領クラウスを殺してきます。貴方達は全部で二百かそこらだと思いますので、例の組織以外の裏組織を攻撃しておいてください」
「他の裏組織というと、例えばどんなものですか?」
「さて。詳しくは知りませんが、領主になろうとか言う大それた野望を持った組織が二つ、逆にこの町の領主を傀儡にしようとか言う馬鹿な考えを持った組織が四つ、後は国家転覆を目論んでいる組織の手先が一つ、その他くだらない理由で集まっているのを合わせて、全部で十二くらいあったはずですよ」
「そ、そんなにあるのですか!?」
「グギャ!?」
「ええ。聞いた話ですけどね」
「しかし、この広い町の中でどうやって探すのですか?」
この町は辺境に位置しているだけあって、大きさだけは途轍もなく広いです。王都に匹敵する、いや、王都よりも大きいかもしれません。
「あなた方に攻撃して貰うのは、町の北、なんちゃら・ファミリーとか言う、国家転覆を目論んでいる変人集団のアジトです。そこまで人数がいる訳でもないので、おそらく死傷者は出ないでしょう」
「お言葉ですがケイデン様、アジト一つ攻略するのに死傷者無しってのは前代未聞ですぜ?」
「いえ、攻略するのはあなた方ではありませんよ」
「それは一体どう意味ですか?」
「出来るだけ派手に暴れてください。それで騎士団が来たら、すぐに逃げてください。逃げる方向は……東の方ですね。あちら側は商業区なので、暴れないでくださいね?」
「東……ですか」
「ええ。北西側に逃げれば、命はないと思ってもらえれば結構です」
「……何が起こってるんですか?」
「それは着いてからのお楽しみです」
北西ではおそらく『統率者』が大暴れをして、それを止めるために渡り人方々を含めた冒険者の方々が抗戦、騎士団や犯罪者キルマシーン、もとい治安保持部隊も出動すると思うので、大乱闘が起きていることでしょう。
その間に私が人を一人殺し、彼ら二百人で陽動をして頂ければ、後は私の好きなようにやれると言うものです。
「あ、ですが、ゴブリンの方は私と一緒に行動して頂きますよ。まず、その姿は目立ちますので、変に抵抗せずにこの呪術を受け入れてくださいね。『呪術:外見変更』」
「グギャ!?」
私がゴブリンの方に呪術を掛けると、その姿が大きいゴブリンから、少し大柄な男性へと姿を変えました。
「声は変えられないので、町の中では黙っていてください」
「……」
ゴブリンの偉丈夫は無言でこくりと頷きました。