20.謎肉
カップ麺のあれではありません。あれは大豆らしいですね。
「……ギャアアアアア!」
「……何事でしょうか」
空腹を感じたため、料理長に何か作って貰おうと厨房に向かっている途中、小さくですが、確かに悲鳴が聞こえてきました。
「下の方から聞こえてきましたが……」
この城に地下なんて存在したでしょうか。少なくとも私は知りません。まあ、知らされていないだけかもしれませんですけどね。
まあ、どこで誰が殺されようと、私には関係のないことです。さすがに目の前で死なれたら目覚めが悪くなるので助けますが、誰彼構わず助けていれば精神も肉体も摩耗して早死にしてしまいます。そのような愚かな真似はしたくありませんからね。
「済みません、何か軽食を用意していただけませんか?」
「ああ、ケイデン様。承りました。では、サンドウィッチなどでよろしいですか?」
「ええ。いつもありがとうございます」
それからしばらく、二十分ほども厨房の前で待っていると、少し豪華なサンドウィッチがやってきました。
「こちら、ご注文の品になります」
BLT、ハムエッグ、ハムマヨ、カツサンド……。
私、肉よりも生野菜の方が好きなのですが……。
「……何故、こんなに、肉が、多いのですか?」
「つい先程肉が大量に手に入りまして、その肉を使わせて頂きました」
「なんの肉ですか?」
すかさず『看破』を発動。この城の人間は嘘つきが多い、というよりも、私に対して異常なほどに嘘を吐きたがるので、本来ならば常に『看破』を発動させていたいのですが、以前それを試した時には一時間半で魔力切れになり倒れてしまいました。それからという物の、ここぞという時、たとえば今のように答えが気にかかる時などにしか使わないようにしています。
「豚です」
「……」
嘘ですね。
それよりも、豚じゃないならなんの肉を使っているのかが気になります。他人には言えない肉なのでしょうか。
「部屋に持ち帰って食べますね」
「どうぞ」
「食べ終わったら食器はここに持ってきますね」
「お願いします」
「それでは」
自室に戻り、しっかりと扉を閉めてから、部屋の中に誰もいないことを確認します。
スキル『鑑定』を発動します。
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肉
できたて。ベーコン仕立て。カリカリしていて、とても美味しそう。
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なんの肉かまではわかりませんでしたか。
まあ、ここまでは予想通りです。
ここからが本番、他人に見せられないことですが。
「『錬金』」
スキル『錬金術』で謎肉を素材に選択します。
このスキルは中々おもしろく、例えば今のように肉を選択すれば、素材としては『肉』と出るのですが。錬金結果がなんの肉かによって異なるのです。
例えば豚『肉』とゴブリンの脳みそで夜空のHP回復ポーションが作れますが、牛『肉』とゴブリンの脳みそを使うと星空のHP回復ポーションという、一段階上のポーションが作れます。
一方牛『肉』とゴブリンの肝臓で曇天のMP回復ポーションが作れますが、豚『肉』とゴブリンの肝臓で快晴のMP回復ポーションという、一段階上のポーションが作れます。
豚と牛のどちらが上とか言う話ではなく、豚はMP回復に優れ、牛はHP回復に優れていると言うことですね。
話が逸れました。
謎肉を『錬金』してみたところ、とても高性能なことがわかりました。
謎肉とゴブリンの脳みそで星屑のHP回復ポーション、ゴブリンの肝臓で満天のMP回復ポーション。どちらも豚や牛で作った物より上の性能を持っています。
さらに他にも、ゴブリンの目玉や腎臓はともかく、竜の爪や奇眼鳥の嘴で恒常的なステータス全上昇などの効果が得られるポーションまで選択肢に現れています。途轍もなく優秀な肉です。
だからこそますます気になります。これは一体なんの肉なのでしょうか。
結局肉だけ抜き取り、『錬金』してしまいました。
他の部分は勿論食べましたよ。パンとか、レタスとか……。
今日は早めに寝て明日に備えましょう。