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オンラインなNPC~NPCの一人旅~  作者: 湯たんぽ
第一章 叛逆(殺傷愛)
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10.渡り人

 肩を叩かれましたが、お嬢さんと呼びかけてきたので、無視します。


「あの、お嬢さん?ちょっといいですか?」


 そう言って肩を掴んできたので、その手を(ねじ)り上げます。


「いっ痛たたた!ちょ、ストップストップ」


 降参したので手を解放してあげます。


「な、なんなんですか?急に人の腕を(ねじ)り上げたりして」

「はぁ」


 私はこれ見よがしに溜め息をついて、彼の方へ向き直ります。そこにいたのは、優男風のイケメンでした。


「さっきから聞いてみれば人のことをお嬢さんお嬢さんと。私は男ですよ!?見てわかりませんか?挙げ句の果てに馴れ馴れしく肩を掴んでくる始末!あなた、一体何様のつもりですか?」

「兄ちゃん達、喧嘩なら余所でやってくれ」

「あ、マスター、串焼き一本追加で」

「……あいよ」


 喧嘩になるかもしれないと判断したのか、首を突っ込んできたマスターに串焼きを頼みます。酒屋で串焼きというのはちょっとどうかと思うのですが、ある物は仕方がありません。そして、美味しい物は頼まなくてはなりません。


「それで、なんのようですか?」

「えーと、女扱いしたことは謝ります。その上で頼みたいことがあるのですが」

「はいよ!朝食Bセット、串焼き一本追加だ」

「ありがとうございます。お代はこれでよろしいでしょうか」

「1、2、3……よし、ピッタリ頂戴しました」


 タイミング良く、優男な渡り人の方が何かを頼み込もうとしてきた時に、マスターが朝食を持ってきてくださいました。数日前、持てるスキルを駆使して、城の金庫から拝借してきた資金から朝食代を捻出します。


「それで、どんなことを頼みたいんですか?」


 若干いたたまれなくなった雰囲気の優男さんに、話を振ってあげます。


「僕とパーティーを組んでくれませんか?」

「ああ、そんなことですか。別にいいですよ?」


 その程度のことを了承しないほど狭量ではありませんから。


「いいんですか?じゃあ、早速」

「その前に朝ご飯を食べさせてください」


 渡り人の方々は食事をしないのでしょうか?


「いただきます」


 まあ、いいです。

 そんなことを聞いてボロを出したくありませんから。

 今の私は、一人の渡り人です。


「……」

「……」


 私が食事をしている間、優男さんは黙って隣に座って待っていてくださいました。これは評価を少し上方修正しなければなりませんね。


「ごちそうさまでした」


 優男さんがパーティー申請を出してきたので、受諾を押します。


「君の名前を聞かせてくれないかな?」


 ……パーティになった瞬間に馴れ馴れしくなりましたね。


「私の名前も、あなたの名前もどうでもいいので、速く依頼を達成しに行きましょう?何か依頼を受けているんでしょう?」

「はぐれゴブリン退治の依頼を受けてる。それじゃあ早速」

「その前に、役割を分担しましょう」


 意気揚々と出て行こうとした彼を捕まえます。

 私は口元をナプキン代わりのハンカチで拭いながら、彼のことを尋ねます。


「ジョブはなんですか?」

「ええと、剣士見習いだよ」

「なるほど。剣士見習いですか」


 初級職ですか。まあ、初日の渡り人などこんなものでしょう。渡り人の真価は成長速度にあるらしいですし。


「私は短剣使いです。では、取得しているスキルを教えてください」

「スキル?……『剣戯』、『光魔術』、『看破』、『交友』、『体術』、『跳躍』、『回避』、『物理耐性』、『魔術耐性』。……あ、後は『致命の一撃』を取得してる」


 『看破』は持っているのに、『鑑定』は持っていないのですか。『回避』はいらないので、『鑑定』に変えて欲しいですね。

 それにしても、『剣戯』とは、懐かしいスキルです。これは剣士系スキルの初歩的なもので、『剣を振り回す時に若干の補正』程度の能力しかありません。

 剣士を目指すなら誰でも一度は通る道なのですけどね。


「……そうですか」


 どんな依頼を受けるかにもよりますが、彼を前衛に出すには弱すぎますね。

 私は本当は後衛というか、遊撃をやりたかったのですが、ここまで弱いとは想定外です。


「では、私が前衛、あなたが後衛で行きましょう」

「え?」

「私のステータスで最も高いのはAGI(敏捷)です。その次に高いのがDEF(防御力)なので、おそらく前衛もこなせるでしょう」

「……はい、そうですか。わかりました」


 渋々ではありますが、彼は認めてくれたようです。

 これは少し、彼にいいところを見せないといけませんね。


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