表裏一体
表裏一体
烏村そらまめ 作
≪キャスト≫
田中 優樹 ♂ (楓高校3A)
オンラインゲームでユウキという名前で女として活動している高校三年生男子。頭が良く、特に数学が得意。不登校。リアルではコミュ症。恋愛観が狂っていて、熱のある女の人(リアルの生きている人間)に興味がなく、オンラインゲームなど、リアルの人間が入っているが熱を感じられない作り出された人間、あるいは死体の女性しか愛せない。
鈴木 春香 ♀ (楓高校3D)
天然で愛されキャラ。受験生。数学が苦手。今まで恋愛にはとことん無頓着だったが、優樹と関わっていくに
つれて、優樹を恋愛対象として見始める。そして、好きになった男性(優樹)にしつこくつきまとい、ストーカーのような行為までしてしまう。オンラインゲームをハルカというユーザーネームでプレイしている。ゲームではそこまでレベルは高くないが、受験勉強の息抜きとしそこそこ楽しくやっている。家族は浮気性の父親と情緒不安定な母親、暴力的な兄。
佐藤 朱音♀ (楓高校3A)
表は優しくて姉御肌の春香の親友。しかし、本性は誰かの好きな男、または誰かの彼氏を誘惑し、モノにして楽しむという性悪女。楓高校3年A組の学級委員長。有名大学の推薦が決まっているので高校3年生の秋だがカフェ・ド・ナミキでバイトを始めた。春香には、いくら頭が良くても推薦組でもこの時期にバイトは頭がおかしいと思われている。
松本 良介 ♂ (28)
カフェ・ド・ナミキの店長。28歳だが、弱々しい言動からバイトの朱音やその親友の春香には酷く下に見られていて、朱音についてはついにさん付けになってしまった。実は春香のことが恋愛的に好きである。しかし自分は春香と一回りも歳が違うので周りの目も考えて、この恋愛は心の中にとどめておき、春香の幸せを願おうと思っている。しかし優樹に関しては長年の感から何か怪しいと感じていて、春香には近づいてほしくないと思っている。
山田 真衣 ♀(茨城県警)
楓市連続行方不明事件の捜査部長。若くして大きく出世したエリート。しっかり者でみんなに頼られている。性格はとても冷たい。
ニュースキャスター ♀(声のみ)
第一章
音響(ゲームのRPGの音楽)
場所はゲーム内。女の子の恰好をしているユウキ、ハルカ
ユウキ:エターナルフォース…ブリザードーーーーー!!!!!
音響(テレレレッテレー☆)
ユウキ:やったぁ!レベル上がったよ!
音響(ゲーム内のRPGの音楽)
ハルカ:わあっ!ユウキちゃん、もうレベル99なの?このゲーム始めてまだ2週間しか経ってないのに、すごいなぁ…
ユウキ:そんなことないよぉ。学校サボってゲームやってるだけだもん(笑)
ハルカ:はあ。少しは学校行かなきゃだめだよ?ユウキちゃんも高3なんでしょ?ハルカなんかもう受験勉強でわたわたなのに…。
ユウキ:だって学校つまんないし…。
ハルカ:さすがユウキちゃん。のんきだねぇ
ユウキ:それほどでも…
ハルカ:褒めてないでーす。
ユウキ:えっ、そうなの…っ
ハルカ:冗談だよ。まったく、ユウキちゃんはすぐだまされて、本当に可愛いなあ。ハルカはユウキちゃんが悪い男の人にだまされて連れて行かれないか心配だよぉ(ユウキの頭をなでる)
ユウキ:もうっ、そんな心配しなくても大丈夫だからぁ!…あ、そういえばハルカちゃん、オフ会の話はどうなったの?
ハルカ:ああ、そうだ。忘れてた。あのね、最初は行くって言ってたユメカちゃんが来れなくなっちゃったんだって。
ユウキ:えぇっ!そうなの?残念…ユメカちゃん、会ってみたかったのにな…
ハルカ:ねー。残念…。ってことは今度の参加者はハルカとユウキちゃんだけだね。
ユウキ:そうだね。場所と時間はこの前相談したと通りでいい?
ハルカ:うん!いいよ。楓市のカフェ・ド・ナミキでしょ?
ユウキ:そうそう!じゃあ、○月○日に、そこでね。
ハルカ:りょーかーい。
ユウキ:じゃあハルカちゃん、もう1対戦くらいやってく?
ハルカ:うーん、どうしよっかな…。
ユウキ:珍しいね。いつもなら迷わずにやるのに。なにか予定でもあるの?
ハルカ:明日苦手な数学のテストなんだよね…
ユウキ:あっ、そうなの!?偶然!私も明日学校で数学のテストなの!だから明日は学校行こうと思ってるんだ。
ハルカ:えっ?ユウキちゃんは戻らなくて大丈夫なの?
ユウキ:うん、私、数学は得意だから。
ハルカ:へぇ、うらやましいな。じゃあ今度会った時教えてもらおうかな。
ユウキ:いーよー!この私に任せなさい!
ハルカ:ありがとう!じゃあハルカはもうログアウトしちゃうね。また明後日に!
ユウキ:うん!ばいばい!
ハルカ、退場
音響(突然暗い音楽)
ユウキ:ああ…とうとうオフ会が明後日となってしまった……
間
ユウキ:ハルカちゃん、だまされやすいのは私じゃなくてハルカちゃんの方だよ…。
間
ユウキ:ハルカちゃん、私の秘密を知っても私のこと軽蔑しないかな……
間
ユウキ:…きっと、軽蔑する。ううん、間違いなく軽蔑する……。
間
ユウキ:だって私キモいもん…自覚してるし……
間
ユウキ:でも……
間
ユウキ:ハルカちゃんを想っているこの感情は本物。最初は引かれるかも知れないけど、絶対、絶対リアルでも仲良くなって、そして……
間
ユウキ:そして俺のこの想いを伝えるんだ!!
暗転
第二章
明転
場所はカフェ・ド・ナミキ。2人席で携帯をいじっている春香(私服)。
カウンターの向こうでは良介(カフェの制服)が食器を洗っている。そこに山田警部が入店
良介:いらっしゃいませ…ええっと、お客さん…?
山田:初めまして、こんにちは。突然ごめんなさい。私は茨城県警の捜査本部部長の山田と言います。(警察手
帳を見せながら)。店長さんはいらっしゃいますか?
良介:ええと、僕が店長ですけど…
山田:…失礼ですが、年齢は…?
良介:こう見えても28歳です!!
山田:…失礼しました。高校生くらいに見えました。若作りだとよく言われませんか?
良介:悔しいですが、よく言われます…。…で、警察の方がなんのようでしょうか?
山田:ああ、話が飛んでしまってすみません。この一週間、この楓市周辺在住の女子高校生五人が相次いで行方不明になるという事件が起こっています。
良介:え、そ、そうなんですか?!
山田:ええ。こちらのカフェ・ド・ナミキにも高校生でバイトをしている人が居ますね?
良介:はい、高校3年生の女の子が一人。
山田:この時期に高3の…
良介:受験生ですが相当優秀らしくすでに推薦が決まっていて余裕があるらしいです。
山田:なるほど…では、ここから何日かはそちらの方が夜遅くに一人で帰ることの無いようにお願いします。我々警察もパトロールを強化するつもりですが、念には念を入れて。
良介:分かりました。わざわざありがとうございます。
山田:いえ、仕事なので。では、私はこれで。
良介:はい、ご苦労様です。
山田、はける。
良介:はあ、全く、物騒になりましたね…
春香:楓市ってこの辺じゃん。
良介:そうなんですよ。春香さんも気をつけてくださいね。
春香:えー、ハルカはハルカよりも良介君の方が春香は心配だなぁ。よわっちいし、すぐさらわれそう。
良介:なっ…ぼ、僕だって不審者がいたらすぐぶん殴って通報できるんですからね?!
春香:えー?じゃあ、ハルカのこと守ってくれる?
良介:も、もちろんです!!
そこに春香の所にコーヒーを運んでくる朱音(カフェの制服)登場
朱音:はい、どうぞ。カフェオレのLサイズよ。
春香:あ、朱音。ありがとう!
朱音:どういたしまして。ってか、春香、あんまり良介くんのことかいすぎちゃだめよ?
春香:からかってなんかないもん!
朱音:はいはい。
春香:…それより朱音、やっとカフェ店員がしっくりくるようになってきたね。
朱音:だってもうバイト始めて1ヶ月だもん。
春香:そっかあ。大学推薦組はいいなぁ。
朱音:私だって色々苦労してるんだからそんなこと言わないの。…ところで春香、今日はどうしたの?
良介:受験生ですし、また勉強じゃないですか?
春香:ううん、今日はある人と待ち合わせ。
朱音:待ち合わせ?
春香:うん。最近始めたオンラインゲームで会ったユウキっていうユーザーネームの人なんだけどね…
良介:オンラインゲームってことはネットの人ですか?ネットの人は怪しい人多いって言うし、気をつけてくださいよ?
春香:はいはい。全く、良介くんはお母さんみたいだねえ。
良介:だって心配ですし…。
朱音:本当に良介君は春香のことが好きだね。
良介:な…す、好き、なんかじゃ…
朱音:…で、春香、今日会う人って男の人?
春香:ううん、女の子だよ。
朱音:なんだ。残念。男でイケメンだったらアタックしてみようと思ったのに。
春香:ええ、もう新しい彼氏探してるの?朱音、この前小林くんと別れたばっかりじゃん。
朱音:まあねー。
春香:さすがだなぁ。ハルカなんて、彼氏出来たことすらないのに。
朱音:春香にはまだ早いよ
良介:そうですよ!
春香:そ、そんなことないもん!
そこに優樹登場。カフェのドアを開けて入ってくる
朱音:あ、いらっしゃいませー。
良介:いらっしゃいませ。
優樹:あ、えっと、このお店でハルカさんっていう人と待ち合わせをしているんですけど…
朱音:春香…?もしかして…
春香:…黒のジーパンに黒のパーカー…もしかして…ユウキ…ちゃん?
優樹:えっと…春香さん、ですよね?は、はい、僕がユウキです。(優樹、握手をしようと手を差しだす)
朱音:は、春香っ?!ユウキさんって女の子じゃなかったの?!
春香:えっと、そうだと思っていたんだけど…とりあえず…(優樹の手を優しく握る)ハルカです。改めて、よろしく!じゃ、こっちの席で話そー!
優樹:は、はい…
朱音:ちょ、春香、勝手に…
春香:じゃあこの人もカフェオレのLサイズで。
春香、優樹をひっぱって自分の向かいの席に座らせる
カウンターの後ろで朱音と良介がこそこそ話はじめる
良介:な、なんですかあの男の人!!
朱音:知らないわよ!!どうせゲーム内では女の子を装って女の子を引き寄せようとしている変態よ!!
良介:ど、どうしよう、朱音さん、春香さんがあの変態に奪われちゃう…
朱音:別に春香は良介君のものじゃないけどね。
良介:べ、別にそういう意味で言ったんじゃな…
朱音:と、とにかく、あの二人をこれ以上近づけるわけにはいかないわ。あの優樹っていう人、コミュ症っぽいけど、結構イケメンだし…。
良介:…っな、朱音さん、なに盛ってるんですか!相手は変態ですよ!
朱音:うるっさいわね。イケメンなら変態だろうがなんだろうが、どうでも良いのよ!それより、あいつらを離さなきゃ。
良介:そ、そうですね。
朱音:じ、じゃあ私接客ついでに話して来るわ。
良介:が、がんばってください。
そこで、行こうとした朱音を良介が引き留める
良介:か、朱音さん!!忘れ物!!こ、これ、カフェオレ…
朱音:あ、わ、忘れていたわ。ありがとう。
優樹:あ、あの、春香、さん…
春香:ゲームと同じ呼び方でいいよ?さん付け気持ち悪いし。
優樹:き、気持ち悪い…
春香:で、どうしたの?
優樹:あ、あの、僕が男で、気持ち悪いなとか、思わないんですか?
春香:…え?なんで?
優樹:だ、だって、ゲーム上では女の子の格好してあんなにぶりぶりしてたのに、リアルではこんなコミュ症男なんですよ?普通気持ち悪いと思うんじゃないですか?
春香:えー?思わないよー?そりゃ最初はびっくりしたけどさ。
優樹:…優しいんですね。
春香:そんなことないよ。だって、普通に生きていたらリアルの自分を忘れたくなることもあるもんね。
優樹:春香さん…
春香:だーかーら、さん付けはやめてって。
優樹:あ、ご、ごめんなさい…
春香:あと、敬語もやめよ。
優樹:わかりまし…じゃなくて、わ、わかった。
朱音:ええっと、お、お待たせいたしました。カフェオレのLサイズです。
優樹:ど、ども…。
朱音:で、春香?
春香:ん?
朱音:オンラインゲームのユウキさんは女の子なんじゃなかったの?
春香:ああ、そうだと思ってたんだけどね…
優樹:ご、ごめんなさい、だまそうとした訳じゃないんですが、男だって言うとあってくれないかと思って…
朱音:あ、いいのいいの、優樹さんは謝らないで。(春香、うんうんとうなずく)…って、あなた…もしかしてA組の田中優樹くん?!
優樹・春香:え?
優樹:そ、そうですが…
朱音:や、やっぱり!!見たことある顔だと思ってたのよ!
春香:ええっと…話が読めないんだけど…
朱音:この人は私達と同じ楓高校3年の田中優樹君。私と同じクラスなの。
春香:そうだったの?!私、この人始めて見た気がするんだけど…
朱音:噂で聞いたことない?高校を主席で入学して、テストは毎回ぶっちぎりの1位。なのに入学式すら姿を見せず、テストの時しか登校してこない幻の優等生、田中優樹の名前を!!
春香:朱音、詳しいね…
朱音:まあね。私A組の学級委員だし、そのくらいは知ってるわよ。(春香に向かってこそこそと)それに結構イケメンだしね。
優樹:やめてください。僕はそんなたいそうな人間じゃなくて…
朱音:謙遜はやめなさい?見苦しいわよ?
春香:そ、そうだよ!ハルカ、頭悪いから優樹君のこと尊敬しちゃうな。
優樹:あ、ありがとう…。
朱音:あーあ、それにしても良かった。ネットで会った人っていうから、ヤることしか考えてない気持ち悪いおっさんだったらどうしようかと思っちゃった。
春香:あ、朱音!!優樹君にそんなこと言っちゃだめ!!
朱音:あーごめんごめん。ま、心配することはなくなったみたいだし、私も仕事に戻るわ。じゃ、ごゆっくり。
朱音、はける
春香:ごめんね、私の友達があんな失礼なこと言っちゃって。
優樹:大丈夫、慣れてるから…。
春香:そ、そっか。
間
優樹:あ、そうだ!優樹君、この前数学得意だって言ってたよね?教えてもらうこと出来るかな。
春香:良いよ。うまく教えられるかは分かんないけど…
春香、鞄から問題集を取り出す
春香:ここなんだけどね…
優樹:ふむ、この問題か…。ああ、簡単だよ。この数字をXとしてそれをこの式に代入すればいいんだ。
春香:……あ、そういうことか!やっぱり、優樹くんは頭が良いんだね〜
優樹:そんなことないって。
春香:ハルカ、第一志望が紅葉高校なんだけど、もう秋なのに判定がEとかDなんだよね…。
優樹:紅葉高校って、結構頭良いところだよね?僕は受験しないからわかんないんだけど…。
春香:そう。だからみんな「春香には無理だ。諦めろ」って言うの。ハルカだって、がんばってるんだけどな…
優樹:勉強法が悪いんじゃないのか?例えば数学はどんな勉強してる?
春香:ハルカ、勉強効率悪いから、自分の勉強方法見つけようと思って、朱音とか頭いい人の勉強方法とか参考書とかまねしながら勉強しているんだ。これが今やっている問題集とノート。(鞄から参考書を何冊か取り出す)
優樹、ノートを手にとって眺める
春香:こんなに成績伸びないのは中学生から高1くらいまでサボってた自分が悪いんだけどさ…志望校のレベル下げるのは嫌だし、サボっちゃった分みんなの倍勉強しようと思って高2の最初くらいから勉強し始めたんだけど、全然成績伸びなくて…
優樹:ノートのここに書き込んであるのがやった回数と正答率?
春香:そうだよ。ひどいでしょ。こんなに沢山やってるのにあんまり結果出てないんだ。
優樹:いや…できるよ、春香ちゃんなら。
春香:…え?
優樹:他の教科は分からないけど、数学において春香ちゃんのやり方は間違っていない。春香ちゃんはやることやってるんだから成績は努力に追いついてくる。それに、この調子なら紅葉大学も難しくないよ。
春香:え…?本当?
優樹:本当。春香ちゃんは自信持って良いと思う。
春香:優樹、君…
優樹:ん?どうしたの…って、なんで泣いてるの?!ご、ごめん、僕なんか変なことしちゃったかな…?
春香:ち、違うの…違う、優樹君は何も悪くない…
優樹:じゃあ、どうして…
春香:諦めたくないとは言ったけど、本当はすぐにでも諦めてしまいたかった…
優樹:春香、ちゃん…
春香:みんなに弱いやつって思われたくなくて、全然大丈夫だっていうふりしてたんだけど、テストの度に「お前は才能がないから諦めろ」とか「努力したって無駄なんだよ、あんたは地頭が悪いから」って言われて、辛かったの…
優樹:……
春香:だから、今日は優樹君に嘘でもできるって言ってもらえて嬉しかった。ありがとう。
優樹:嘘なんかじゃない!それに僕は別にそんな大層なことしたわけじゃなくて…
春香:…あ、もう6時?!そろそろ塾じゃん!!ごめん、ゲームのオフ会らしいこと何もできなくて…
優樹:ああ、大丈夫だよ。…で、でも…
春香:ん?どうしたの?
優樹:勉強教えるから、またこれからもリアルで仲良くしてもらえたら、なんて…
春香:え、勉強教えてくれるの?!
優樹:え?あ、うん、そのくらいなら…
春香:本当?!ありがとう!!(優樹の手を握る)じゃあ、これからもよろしくお願いします、優樹先生。
優樹:あっ…うん、がんばろうね。
春香:うん!ありがとう!じゃあ、ばいばい!今日はありがとう!優樹君!!
優樹:う、うん、じゃあね……
暗転
第三章
場所はカフェ・ド・ナミキ。カウンターの向こうに良介と朱音。優樹が二人席でコーヒーを飲んでいる
そこに春香が登場。
春香:優樹君!先に来てたんだ…遅れちゃってごめん。今日委員会があって…って、あれ?遅れてない?
朱音:春香は遅れてないよ。この人、朝から来てずっとコーヒー飲みながら携帯ゲームしてる。本当に大丈夫なの?優樹君。始めてここに来てからほぼ毎日のようにここに通っているじゃん。
優樹:僕は引きこもりだから基本暇なんです。むしろ外に出る口実が出来たので、むしろ前より健康的な生活してるんじゃないですかね。
良介:外出てもずっとゲームやってるんじゃそんなに変わってないんじゃ
春香:そっかぁ。でもたまには学校来なきゃだめだからね!!
優樹:はいはい。ああ、そういえば春香ちゃん、今日は模試の結果が返ってきたんでしょ?見せて。
春香:うん!見て!
春香、カバンの中から冊子を取り出し、優樹に手渡す
春香:優樹君がアドバイスしてくれたおかげでB判定になったよ!先生にも褒められちゃった♡
優樹:うん……確かに、成長している。すごいじゃないか!
朱音:どれどれ…ええっ?!すごい!!ついこの間まで数学後ろから3番目とかだったのに、後ろに100人くらい人がいる…
春香:えへへ、すごいでしょー?
優樹:でも、A判定にはまだ遠い。協力するから、まずはこの模試の見直しから始めよう。
春香:はいっ!頑張ります!
春香、優樹の向かいに座る
そこに朱音がコーヒーを運んでくる
朱音:春香、改めてB判定おめでとう。今日のはお祝いで良介からのおごりだって。
春香:ええっ!いいの?ありがとう!良介君!!
良介:どういたしまして。(春香の席に来る)…で、君。優樹君だっけ?春香ちゃんと仲良くするのは良いけど、春香ちゃんのこと傷つけたら僕が許さないからな!!
優樹:なんですか急に…
春香:良介君、優樹君はこんなにハルカに優しくしてくれてるんだよ?傷つくわけないじゃん!それに私…なんだか優樹君に特別な感情を持っている気がするの…
朱音:え、は、春香…?もしかしてそれって…
春香:きゃー///もう、恥ずかしいから言わないでー!!
優樹:(かったるそうに)ほら、早く始めるぞ。僕だって忙しいんだ。
春香:え、優樹君さっき暇だって…
優樹:ほら、いいから。
春香:はーい。
良介:…じゃあ、ごゆっくり……
春香・優樹、しばらく勉強を続ける
春香:はぁああーー…終わったぁ…
優樹:はぁ、疲れた…
春香:え?優樹君、疲れたの?珍しいね。
優樹:あー…まあな。僕もこんな馬鹿な女相手にしてると疲れるなーって。
春香:え……?
優樹:…やっぱりなんでもない。
春香:そ、そっか…じゃあハルカ、もうすぐで塾だから行くね。今日はありがとう!!優樹君も帰る?
優樹:…僕はもう少しここにいるよ…
春香:そっか、じゃあ行くね。ばいばい!
春香、帰りざまに独り言
春香:いつかは優樹君と一緒に帰れるような関係になりたいな…それから、一緒に学校通ったり、あと、放課後にカフェ行ったり…それってもしかしてデート?きゃあ///
春香、はける
優樹:…はあ、うっざ…
間
良介:ああ…!!そうだ!!
朱音:ど、どうしたのよ突然。
良介:今日は悠香ちゃんの幼稚園のお迎えいかなきゃならなかったんだ!!
朱音:え、なに、悠香ちゃんって。良介君、子供いたの?
良介:こ、子供じゃないよ!僕の姉さんの娘。姪だよ。姉さんも義兄さんも今日はどうしても仕事で忙しいから今日だけは僕の家に泊まることになってるんだ。っていうか、恋人すらできたことないのに子供なんて…
優樹:へえ、幼稚園児の外泊ですか。良介さん、手出しちゃだめですよー
朱音:そーだよ。良介君、ロリコンだからね。私もここで働けなくなったら困るから、くれぐれも気をつけて。
良介:はあ?!そんなことするわけないだろう!あまり大人をからかうのはやめなさい。…ていうか、今日店どうしよう…
朱音:閉店まであとちょっとだし、お客さんも優樹君だけだから今日は私が閉めて帰りますよ。
良介:ああ?そう?ありがとう。
朱音:いえいえ。それより早く行ってあげなよ。悠香ちゃんのところ。
良介:そ、そうだな。じゃあお先に。お疲れ様。
朱音:お疲れ様でーす。
間
コーヒーのポットを持った朱音が優樹に近づく
朱音:おかわり、いる?
優樹:ああ、お願いします。
朱音:はーい。…で、もう私にも敬語使わなくていいわよ。煩わしいでしょ?
優樹:わ…わかった。
朱音:もう春香もすっかり君に夢中だねえ。
優樹:は、はあ…
朱音:春香はさ、家族が仲悪くてそれから逃げるために受験期も私たちのカフェに来て勉強してるの。ああ見えて人間不信なことあるからこんなに誰かのこと好きになるの珍しいんだよ?
優樹:好きって…
朱音:うん、優樹君のことが。
優樹:はあ…
朱音:春香の親友の私が言うんだから間違いないよ!
優樹:そう…なんですか。
朱音:でもね、一つだけ問題があるの。
優樹:…なんでしょうか。
朱音:私もね、あなたのこと、興味ある。
優樹:…は?
朱音:性格悪いよねぇ、私。自覚はあるんだけど。なんていうか…他の女の子の好きな人を、好きになっちゃうの。
優樹:……
朱音:でも、性格悪いのはあなたも同じでしょ?知ってるんだから。あなたが生きている人間に興味ないこと。春香に聞いたわ。
優樹:……
朱音:ねえ、私と…一緒に帰らない?優樹君、一人暮らしなんでしょ?だから…あなたの家に。
第四章
場所はカフェ・ド・ナミキ。カウンターの向こうに良介。優樹が来店
良介:いらっしゃい…って、また君か。
優樹:またとはなんですか。
良介:いや、ここ最近本当に毎日ここに通っているじゃないか。君も高3なんだろ?受験とか、大丈夫なのか。
優樹:この前も少し話しましたけど、僕3年間ほとんど学校通ってないんで卒業できないんで、もういっそこのまま高卒で就職するつもりなので大丈夫です。それに、ここに来るのは春香に勉強教えるためなので、実質勉強はしていますよ。
良介:そ、そうか。
優樹:まあ、正直、面倒くさいけど。
良介:…は?
優樹:最初は確かに春香ちゃん、可愛かったけど夜遅くまでLINEしてくるし、いくら不登校の引きこもりとはいえ迷惑ですよ。
良介:ちょ…お前、なんだその言い方は。
優樹:ちょっと、良介さん、なに熱くなっちゃてるんですか。
良介:あ、熱くなってなんかいない!!
優樹:良介さんって…春香ちゃんのこと好きですよね。
良介:お、お前、なに突然意味の分からないことを…!!
優樹:事実じゃないですか。良介さん28っすよね。ロリコンですか?気持ち悪いですよ?もう少し身の程をわきまえるべきだと思いますが…
良介:お前……!!(良介、優樹の胸ぐらをつかむ)
優樹:やめてくださいよ。僕別に春香ちゃんに…っていうか、生きてる女の子に興味ないんで、春香ちゃんに手出したりしないですから。
良介:そうか…(ほっとして手を離す)とはいえ、生きてる女の子に興味ないなんて、お前やっぱり変態なのな。二次元の女の子が好きーとか、そういうやつ?
優樹:ロリコンの良介さんには言われたくないですね。
良介:んだとー?!
優樹:そういえば、朱音さん今日はお休みですか?
良介:朱音さん?お休みじゃないけど…確かに珍しく遅いな…何かあったのかな。
優樹:ふーん……
山田来店
良介:いらっしゃいませ…あれ、あなたはこの前の…
山田:お久しぶりです。県警の山田です。
良介:ああ、お疲れ様です。
山田:こちらに田中優樹さんはいますか?
良介:優樹君…?優樹君ならそこにいますが…
山田:田中優樹さん、初めまして。茨城県警の山田です。女子高生連続行方不明事件についてあなたにうかがいたいことがあってきました。
優樹:は、初めまして…。あの、女子高生連続行方不明事件とか、僕何も知らないんですが…
良介:ああ、良かったら警部さんもそこの椅子をお使いください。ゆっくりしていってくださいね。
山田:ありがとうございます。
優樹、山田、席に移動する
優樹:で、警察の方が僕になんの用ですか?
山田:最近この楓市で、この市在住の女子高生が相次いで行方不明になる事件、通称女子高生連続行方不明事件が起こっていることをご存じですか?
優樹:…すみません、始めて聞きました。僕が引きこもってゲームしている間にそんなことがあったんですね。
山田:ええ。それで…この写真を見てもらえますか?
山田、五枚の顔写真を取り出す。
山田:こちらの女性達をご存じですか?
ここで良介、山田と優樹の元にコーヒーを運んで来る。
優樹:…はい。
山田:やはり…。こちらの女性達が最近行方不明になった方々です。この方々のご友人に話を伺ったところ、この方々全員があなたに気があったようですね。
優樹:…気があったかは知りませんが、全員SNSの交換はしましたし、つい最近まで連絡を取り合っていましたね。でも全員突然連絡が途絶えたので、何かあったのかとは思っていましたよ。
山田:…不審に思わなかったんですか?
優樹:ええ。僕、生きている人間に興味はないので。
山田:…どういう意味ですか。
優樹:そのままの意味ですよ。僕生気のある女性が苦手なんですよね。その点、あなたのような冷たい女性は結構…(山田に触れようとする)
山田:やめてください、汚らわしい…
そこに、春香、来店
春香:優樹君…?
優樹:ああ…春香ちゃん。来たのか。
春香:優樹君、その人…誰?
優樹:この人は…
春香:なんでよ!!
優樹・山田:は?
春香:なんで、なんで…優樹君が触れて良い女の子は私だけなのに…最近優樹君とべたべたしている朱音が昨日から行方不明だって聞いて、今日は優樹君の事独り占めできるんだと思って楽しみにしながら来たのに…なんで、なんでこんな…酷いよ、優樹君…
良介:ち、ちょっと待ってくれ、朱音さんが行方不明?!山田警部、本当ですか?
山田:すみません、私は今日ずっと外に出ていたので把握していませんでした…
優樹:春香ちゃん、朱音さんのこと、本当なのか…?
春香:優樹君、今は朱音のことなんてどうでも良いでしょ…?優樹君は私のことだけ見ていれば良いんだから…。
優樹:だって朱音さん…
春香:…ねえ、優樹君、優樹君は今は忙しいみたいだからハルカ、先に帰っているね。優樹君の家に。
優樹:…は?
春香、店を出る。その瞬間、優樹のケータイからとてつもない量のメールの着信音
山田:な、なんですか、突然。
優樹:こ、これ…(携帯を開く)全部春香ちゃんからだ…
良介:さ、さっき春香ちゃん、優樹君の家で待っているって…君達同棲でもしているのか?
優樹:まさか。僕は実家を離れてアパートに一人暮らしですが、そのことは春香ちゃん知らないはずですよ?もちろん住所だって…
山田:で、でも、さっき「優樹君の家で待ってる」って…
優樹:な、なんなんだよ、あいつ…!!!!
暗転
第五章
場所は優樹の部屋。いくつかのクーラーボックスが詰んである。あとは布団が敷いてあるだけの静かな部屋。
春香:ああ…ここが優樹君の部屋……
間
春香:職員室の連絡網を盗み見て優樹君の住所見つけたけど、まさか一人暮らしだったとは。それにしても、ああ…この部屋、優樹君の臭いがする……
間
その時、春香の携帯に着信音。
春香:もしもし…?ああ、優樹君。優樹君がハルカの携帯に電話してくれたの初めてだね。ハルカ嬉しいよ。え?今?うん、そうだよ。優樹君の部屋。鍵はどうしたかって?えー、だって優樹君いつも部屋出てすぐの消化器の陰にかぎ隠しているでしょ?ハルカね、あれを使って合い鍵作ったんだ〜。優樹君の家入るのは初めてだけど、塾と学校の時以外、優樹君のことずっと見てたから、もう同棲しているようなもんだもんね…。ああ、優樹君はカフェでゆっくりしててよ。私、掃除でもしておいしい夕飯作っておくから。帰ってきたら一緒に食べよう?え?なに?布団のところは覗くな?そう言われると覗きたくなるな〜。
春香、布団をはぐ。するとそこから朱音の死体が。
春香:きゃあっ!!!!
春香、携帯を落とす。
春香:な、なに、これ……
そこに優樹登場
優樹:ああ、春香ちゃん、見ちゃったんだね……
春香:…優樹くん…なに、これ……これ、朱音、だよね、なんで、ここに……っていうかこれってまさか……
優樹:ああ、そのまさかさ。この朱音さんは……死んでいる。
春香:…は……?
優樹:言っただろう?僕は生きている人間に興味がない。朱音さんはどうやら僕と一緒になりたかったみたいだなんだ。でも僕は好きじゃ無い人と付き合うつもりはないから朱音さんを僕の好みの姿にしてあげただけさ。
春香:生きている人間に興味ないって…二次元の女の子にしか興味ないとかそういう意味だと思ってた…
優樹:違うよ。文字通り、死んでいる女の子のことさ。この朱音さんもあと数時間すればもっと良い姿になるんだろうね。
春香:狂ってるよ…
優樹:え?
春香:狂ってる…狂ってるよ、優樹君…
優樹:何を言っているんだ。君もそんな僕のことが好きだったんだろう?
優樹、春香を壁に追い詰める
優樹:見てよ、僕の楽園を。あの中(クーラーボックスの一つを指さす)には初めての彼女の山本さんがいるんだ。初めての彼女だったから緊張してまだ名前呼び出来ていないんだよね…。そして、あれ。あの中に入っているのは二人目の彼女のあかりちゃんだよ。趣味嗜好が偏っていたけど、しっかり者で良く働いてくれた…そしてあの中にいるのが3人目の彼女の桃香ちゃん。恥ずかしがり屋だったけど、そういう所も可愛かったなあ…あの中にいるのは4人目の彼女の愛花ちゃん。いつも優樹君、優樹君っていう可愛い子だったな。…そしてあれが5人目の彼女のゆめかちゃん。怒るとすげー怖かったけど、料理が上手で僕の舌は彼女のおかげでかなり肥えたよ…
春香:ゆめかちゃんったもしかして…オンラインゲームのユメカちゃん…?
優樹:そうだよ。そうか、君とは最期まで会えなかったのか。なんかごめんね。でも彼女は今誰よりも幸せだから許してやってくれ。で、この子が僕の6人目の彼女、朱音ちゃんね。女友達の好きな人を片っ端から奪っていくかなりの性悪だったけど、色々経験豊富で僕はかなり楽しめたよ。で、春香ちゃん。
春香:ひ……っ
優樹:君が7人目の彼女だよ…。
春香:嫌、嫌、やめて……
優樹:嫌とか言って体はこんなに喜んでるよ…?
優樹、ポケットの中からナイフを取り出す。
優樹:春香…僕が君のことを幸せにしてあげる…
春香:い、や………
優樹:(ここでふと我に返る)…あっ…僕は…僕は何をしていたんだ…
春香:優樹、君…?
優樹:ごめん…ごめん春香ちゃん…
春香:え?
優樹:僕…僕は狂っているんだ…
春香:…
優樹:学校にも通わずに死体の女性を見て遊んで楽しんでいるシリアルキラーなんだ…最初ゲームで君を見たときに、この人ならリアルの人でも愛せるんじゃないかって思った。だから近づいた。僕のこの気持ち悪い性癖を直したかったんだ…
春香:……
優樹:幻滅、しただろ…?
春香:え?
優樹:僕、君を利用しようとしたんだ。でも結局失敗した。君のことを傷つけてしまった…
春香:ねえ、優樹君…
優樹:きっともうすぐ警察が来る。カフェで話していたのは県警の人だよ…。だから君は逃げて。また僕が君を殺したくなる前に。
春香:優樹君…!
優樹:…?
春香:ちゃんと言うのは初めてだね。ハルカ、優樹君のことが好きなの。
優樹:春香ちゃん…
春香:ハルカ、人のことこんなに好きになるの初めてなの。…だからかな、本当の優樹君を知っても嫌いになれなかった。だから、ね……(優樹の落としたナイフを拾い、刃先を首に向ける)
優樹:嘘…だろ…?
春香:優樹君が望むなら、そうすることで優樹君がハルカのこと好きになってくれるなら…
優樹:やめろ…やめろ、やめろ春香ちゃん…!
春香:優樹君…大好きだよ…ちゃんとハルカのことを愛してね…(ナイフを刺し、倒れる)
優樹:は、春香――――!!!!
その瞬間に山田と良介が優樹の部屋に入ってくる。
暗転
エピローグ
音響(暗転のままニュースの音声を流す)
ニュースキャスター:〇月〇日〇曜日、朝のニュースです。昨日、茨城県楓市の住宅で女子高生7人を殺害したとして楓市の高校に在学する少年(18)が殺人容疑で逮捕されました。少年は高校の中でも成績が上位だったものの、高校にはほとんど通学せず、一人暮らしのアパートでゲームなどをして過ごしていました。警察は話を聞くなどして犯行の動機・方法を再度調べていく方針です。…続いては、お天気コーナーです。まなみちゃーん、お願いしまーす……
閉幕