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020:合流

「そろそろっすかね」

「あん?」


 防衛のさらなる強化のため、ウィットフィールド自警団は全力で作業に当たっていた。

 とはいえ、日が落ちた今では遠出は危険すぎる。

 今はランタンや懐中電灯、スカウトライトのわずかな光量を頼りに周囲の警戒に入っている。

 どれだけ掃除しようと、湧く時には一気に湧く


「キョウスケの奴っすよ」


 その中で、迎撃装置関連の計画やチェックといった、ほぼ責任者となっていたジェドは、色々書き込まれた周辺地図を睨みながらそうボヤく。


「アシュフォードの方に行くって言ってましたよね?」

「あぁ。多分、道中の避難所施設を直しながら物資回収していくだろうから……そうだな、今頃は多分着いてるだろう」


 銃ではなくハンマーや糸のこ、釘箱を手にしたバリーが、それらを一度台の上に置いて、指を折って何かを数える。


「確か、アシュフォードへの道中は避難所が結構設けられていたな。五つだか六つだか」

「えぇ……昔の農作地はそのままUBCで汚染されたまま荒れ放題になって危険っすからね。キョウスケみてぇな行商人が、昔のマーケットなんかを改装してます」


 昔のマーケットや、大型の専門店等がまばらに点在しているのかつての街と街の間の特徴だ。

 かなり広い建物に、かつての駐車場というある程度整備された土地。

 そういった所をキョウスケ達商人は修理し、緊急時の避難場所として活用していた。


「大丈夫かねぇ。あそことアイツ揉めたんだろう?」

「揉めたっていうか……あそこの市長にデンプシー喰らってからジャイアントスイング咬まされたって聞いてますが」

「――何やったんだアイツは」

「なんでも、市長の娘を口説いたとか口説かなかったとか」

「……ウチの市長さんといい、アイツ元気だな。……色んな意味で」


 二人同時に、ため息を吐く。


「そういや、あそこには問題児もいたっけなぁ」

「問題児っすか?」

「あぁ……なんでも――」






「――前に、キョウスケと一緒に派手に大暴れしたとかなんとか」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「まさか、お前達がこの病院に来てたなんてな」


 アシュフォードエリアの外れ、かつてはイギリスでも有数の大病院の廃墟。

 避難場所というよりは、ここの自警団――いや、防衛隊だったか――によりエリア外周部の偵察の際の拠点というのが正しいここは、その分防備はそこらの避難所よりもしっかりしていた。


「驚いたのはこっちよぉ。まさか、キョウスケがまたこっちにくるとは思わなかった」


 ルカ。

 アシュフォードの中で、防衛隊でもないのに好きで外周部に住んでいる三人組の一人。

 そして、俺の友人でもある。

 銃の整備やカスタムに関してはフェイよりも上。扱いも、精密さだけならばジェドよりも上だ。


「エマも久しぶりだ。まさか、お前までこっちに逃げているとは……」

「うん、いや、それはいいんだけど……」


 そしてエマ。いつも立ち寄る時に差し入れしてくれた娘。

 市長の娘とは知らなかったけど……。


「ねぇ、キョウスケ」

「ん?」

「そっちの人……誰?」


 さっきからずっと、同行者である二人――の、うちスナイパーの方ばかり見ている。

 とりあえずエマ、お前は金属バットから手を離せ。

 意識はしていないんだろうが、さっきからコツコツコツコツ床を鳴らしてクリーチャーとは違う恐怖を感じる。


「あぁ、こいつは――」

「彼と共に旅をしている者だ。名前は、まだない」

「名前がない?」


 やはり、不審だと思ったのだろうか。

 エマが、女に詰め寄る。


「安心してくれ、彼が私の名付け親になってくれるそうだ」


 そしてこのタイミングでこっちに話題を振るんじゃない。

 泣きそうな顔で睨まれるんだから振るんじゃない。


「……キョウスケ!」

「なんだ」

「私にも! 私にも名前をつけて!」

「お前は何を言っているんだ」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「とりあえずね、状況を一から説明するとね?」


 この場の最年長ということで、オットーさんが場を仕切る。


「元々の始まりは一週間くらい前……かな? この辺りのクリーチャーの間引きにひと段落ついた時だったんだけど」


 オットーさんは、普段自分がトラップの設置計画等で使用している地図を広げる。


「北側――正確には北東、および北西から大量のケーシーが押し寄せてきたのが切っ掛けだったのよ」

「……犬共か」


 ケーシー。

 緑の皮膚を持つ、通常の牛ほど大きさを持つ群れる犬。


 ここ最近では、あのデカブツに殺されたデカいヤツ以外には実物は見ていない。

 強いて言うならポーツマスで、あの若い自警団員を負傷させたのがはぐれてきたケーシーって言う話だったか。


「そ、俺も結構罠とか仕掛けて防衛ラインは強化してたんだけど、数が凄過ぎてあっさり北のライン抜かれちゃってさ」

「俺と兄貴で撥ねまくったり燃やしまくったり撃ちまくったりしたから結構数は減らせたんだけど……」


 阿鼻叫喚(あびきょうかん)という慣用句を思い出した。

 もう二年も前になるか。

 こいつらと初めて会った時だ。

 シーナが小型トラックの荷台に機関銃固定したテクニカルで『ひゃっはー!』と群れに突撃し、その荷台でルカが『ひゃっはー!』と弾と火炎瓶をばら撒いていた。


(多分新入りだった少年団員が、敵じゃなくてコイツラ見て泣いてたな……)


 今思い出しても酷い光景だ。


 そしておそらく、あの時とそう変わらない状況が繰り返されたのだろう。

 周りの防衛隊のメンツの複雑な表情が目に浮かぶようだ。


「犠牲者はそんなに出てなかった……と、思う。ただ、外の様子を見に来ていたエマとその護衛が、迂回してバリケード突破してきた連中に襲われてな」


 失敗した、という顔でそう言うシーナ。

 それに対してオットーは肩を竦める。


「まぁ、エマちゃん助けるには間に合ったんだけど、そのまま護衛部隊の撤退を援護してたら、そのうちに合流が不可能になったんよ」

「ガソリンも切れちゃってねぇ……俺たち三人でエマを守りながらどうにかここまで歩いて来たのよ」


 ガソリンもっと積んでおけばよかったと苦々しく呟くシーナ。


「使えるガソリン自体少なかったんだし、仕方ないわよ」


 エマがそう言うが、まだ納得がいかないようだ。

 そも、シーナという男はフェイとは違う方向で車に対してのプライドが高い。

 運転技術もそうだが、用意が足りていなかったというのが悔しくて悔しくてたまらないのだろう。


「いやぁ……ガソリン切れたのも、あの状況でどうにか群れ引き連れて粘ったのが原因だし? 兄貴は良く頑張ったと思うけどねぇ?」


 慰めなのか煽りなのか、他の人間には分からないルカの口調だが、どうやら兄の方は慰めだと受け取ったらしい。後ろ頭を掻き毟ってため息を吐いた。

 もし煽りと受け取っていたのなら、ルカの横っ面に拳がめり込んでいる。


「ふむ。となると、シェルターの開口部を取り囲むようにケーシーの群れが住みついてしまった訳か」

「そう。しかも数えてると眠くなりそうな勢いで」


 スナイパー――今はそう呼んでいる女が確認の質問をすると、オットーが頷く。


「それに、死体の処理が出来なかったから他の個体もドンドン集まってきている。北の何箇所か――ようするに、連中と交戦した所は大体そうだ」


 三角形を描くように伸びた街並み。

 その頂点の辺りから下へと、所々が赤ペンで丸をつけられていく。


「三人には話したけど、北のゴルフ場周りがデカい溜まり場になっている。で、俺たちのシェルター入口とそこを結ぶ直線の部分に、チラホラとケーシーとかそれ以外のはぐれがいる状態」

「……はぐれ共が面倒だな」


 女の言葉に、クリーチャーと戦い慣れている面々が頷く。


「一応罠は仕掛けてきた……といっても時間かけられないし即席だから、足止めとか近づかれた時の探知とかそういう方向にしか役に立たないと思うけどさ」


 改めて地図を見る。

 完全に排除するにはもちろん、一度シェルター内部の人間と合流するにせよ、ケーシーの数を減らさなければどうしようもない。


 シェルター出入り口は駅の近く。

 ケーシーはその巨体から、建物内部に入ることはないため、拓けた場所に集まることが多い。


「武器は?」

「見ての通り、ライフルにショットガン、拳銃、護身用の近接武器……後は火炎瓶くらいか」


 それぞれが手にしている武器とその予備のみ、という事だ。

 

「そういうキョウスケこそ、手持ちに何かいい感じのない?」

「武器はともかく、新しい兵装関連はほとんどドーバーやウィットフィールドに放出してきた……。新しい物と言えば……」


 部屋の隅では、ヴィルマが設計図を見ながら例のバリスタの小型版を組み立てている。

 ウィットフィールドと違い、機材の類がほとんどないので材料集めに四苦八苦しているようだが……。

 そこは、何気に出発までの間に量産作業を手伝っていた身。

 フェイにも色々と教え込まれたのだろう、手近にある使えそうな物をヤスリやナイフなどで整えながら、小型バリスタを組み立てている。


「あれくらい、か」

「キョウスケの車に乗ってた奴と同じのかぁ。効果はどうなの?」


 基本的に火薬大好き弾大好きなルカが、首をかしげる。


「あれよりデカい奴の話だけど……前に、めちゃくちゃデカくてめちゃくちゃ固いクリーチャーの外皮を引き剥がすくらいの威力は出た」

「なにそれ超面白そう! なんで俺を呼んでくれなかったの?!」


 無茶言うな。


「ほとんど遭遇戦だったんだ。狙っていたわけじゃない」

「じゃあ……なんで俺はそこにいなかったの?」


 知るか。


「そん時は、かなりでかいパーツをトラックのトレーラー部分に重しと一緒に設置して――」

「なにそれ超面白そう。なんで俺を呼ばなかったん?」


 今度は兄の方か。


「呼んで間に合う距離なら呼んでたさ」


 マジで。

 この兄弟が装備込みであの戦場にいればどれだけ心強かったことか。


「くそぅ! なんで俺は東に偵察に出てなかったんだ!」

「……お前らホント言ってる事もやることも同じだな」


 心強くはあるが、同時に強く不安にもさせる兄弟である。


「ともかく、道中で馬の変異体(ケルピー)みたいなそこそこデカい連中にぶっ放してみたけど、一発で倒せる。しかも派手な炸裂音もない」

「代わりに装填に時間がかかるのが弱点ってとこ……かなぁ? 後、足が速い奴」


 ルカは作業しているヴィルマの傍に近寄り、その機工を一瞥してすぐに弱点を見抜く。

 ヴィルマは、見知らぬ人間が近寄ったためか身を固くしながらも手を止めない。

 黙ったまま作業を続けるその姿に、ルカは「まいったなぁ……」と苦笑して肩を竦める。

 ひょっとしたら、子供に警戒されたことにわずかながらもショックを受けたのかもしれない。


「まぁ、キョウスケが来たって事で予想はしていたけど、やっぱり防衛向けの装備だけなのね。俺好みだけどさ」


 とりあえず今俺が持っている武装の一覧をオットーさんに渡すと、さもありなんとしきりに頷いている。

 何気にこの人は、俺は一番の上客だった人なのだ。

 アシュフォードに行けなくなってからも、他の行商人に渡した手紙などを介して俺に色々と注文をしてくれる人でもある。


「このままのペースで増えれば一週間もしないうちにこの街は完全な巣になっちまう。その前に中の人間拾い上げるなり連中を駆逐する必要がある」


 シーナがもう一度状況を確認する。


「となると、どちらにせよまずはシェルター周辺、そして駅の周りの連中を追っ払う必要が出てくるわけだ」

「その時点でちょっと無理ゲーだよねぇ。さっきも話してたけど、守るにも耐えるにもちょっと向かないんだよねぇ」


 これがもっと大きな駅ならばともかく、アシュフォード駅は――上手く説明できないが普通の駅だ。

 防壁と呼べるほど厚い壁や障害物もなく、そして見通しも中途半端に悪いため身を隠すにも索敵にも微妙に向かないときている。


「あのさぁ、俺ちょっと思ったんだけどさ」


 地図の道路上に描かれた線。――シーナが考えた廃車等を使った簡易防衛ラインの計画に目を通していると、オットーが声を上げる。


「守るのに向かないなら、いっそのこと思い切って攻撃に利用しない? 駅」



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