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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
テンフの村の巻
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記録の8 美人とイケメンにご用心


 西の森の魔物とやらを退治に来た私とスイの前に現れたのは超美人でイメスパと名乗る魔女だった


「リッツ! いいからさっさとこの女を倒すのよ!」


「待て。まだこの女が悪い奴と決まった訳ではない。倒すのはもう少し話を聞いてからでもいいのではないか?」


「どこをどう見たらそんな解釈が出来るのよ!」


 さっきからスイは酷くお怒りだ。何をそんなにカリカリする必要があるのか私には全くもって理解出来ない


 しかしさっきスイに言われた言葉で1つ引っかかるものがあった


 『何しにここに来たのか』だ。更に元を辿れば『なんでこんな所にいるのか』


 昨日までの私は今までと何一つ変わることなく剣の修行に打ち込んでいた。それは恐らく今日も同じだっただろう


 国王様からのめいが無かったらの話だがな


 私は魔王を倒すために旅に出た。こんな所で立ち止まっている暇などないのだ


「ふぅん。どうやらやる気みたいね」


「大切な使命を思い出してしまったのでな。悪いが手加減はナシだ」


「使命だなんてカッコイイことを言うのねぇ。でも私を倒すことなんて出来るかしらぁ?」


 そう言ってイメスパは舌なめずりする。その姿が更にセクシーでしょうがない


 いかん。煩悩よ消え去れ


「安心しろ。痛みを感じる間もなく倒してやる」


 気を取り直して剣を構え、瞬く間にイメスパへと迫る


「その身のこなし。お強いのね。でもざーんねん」


 イメスパは指先から糸のようなものを噴出した

 その正体は一瞬で分かる。さっきスイを捕まえたあの糸だ


 しかし当たる前に切ってしまえばどうということはない


「なっ!? この至近距離で反応出来るの!?」


 驚いているなイメスパよ。テッセ王国で最強の剣士になるということがどれ程のものか、その身をもって知るんだな


 ガラ空きになったイメスパの体へと剣を振り下ろそうとした時だった


「いやぁん! お止めになってぇ?」


 両手を握り口の前に。瞳を涙で潤わせてこちらを見上げるような上目遣い


 いかん、破壊力抜群だ


「そ、そう言われては仕方ないな」


 剣を振る手が思わず止まってしまった


「隙ありぃ!」


「うおっ! ……危なかった」


 イメスパはニヤリと笑いながらまたあの糸を射出してくるがすんでのところで躱すことが出来た


「ちょっと! ぶりっ子ポーズとか有り得ないんだけど! 歳考えろよクソババア!」


 スイ激昴。暴言が耐えない

 そしてそれはイメスパにも感染してしまったようだ


「誰がクソババアですってぇ!? まだピチピチだっての! この小娘が!」


「小娘で結構よ! 老けてるより何億倍もマシだわ!」


「自分が男を誘惑出来ないからって僻んでんじゃないわよ! ペッタンコ!」


「ペッタンコって言うな! あなたと違って私の栄養はちゃんと脳に行ってんのよ!」


「それはどういうことかしら!?」


「胸にしか栄養が行かないバカだって言ってんの! バーカバーカ!」


「なぁんですってぇ!!! そっちの方がバカよ! ばーかばーか!」


 女同士の口汚い罵り合いはやがて子供のような喧嘩までレベルが落ちた


 最早蚊帳の外に追い出されてしまった私はその様子を眺めながら女の怖さというものを身を持って体感している


「もうあったま来た! くらいなさい!」


「きゃっ! ちょっと何すんのよ! 手を出すのは反則でしょ!?」


「そんなルール聞いてませ〜ん! 悔しかったら反撃してみなさぁい?」


 イメスパが放った糸はスイの体をガッチリと掴む

 ああなってしまえばスイはもう何もすることが出来ないーーーーいや、口だけは今でも止まることなく動いているな


「リッツ! いつまでも見てないで助けてよ!」


「そうしたいのは山々なのだがさっきのようなことになってしまうとな……」


 こちらの動きに付いてこられてしまう以上またあの上目遣いで攻撃を防がれてしまう可能性がある


 そこから反撃をされようものならさっきみたいに躱せるとも言いきれない


「安心して。私に考えがあるわ」


「フフッ。どんな手を使おうが無駄よ。彼は私に傷一つ付けられないわ」


 そう確信してイメスパは笑う

 しかし確信を持って笑っているのはスイも同じだった


「ならば信じるぞ。スイ」


 剣を握って再びイメスパへの攻撃を試みるがやはりさっきと同じようにぶりっ子ポーズが待ち受けている


「あーーーっ! あんな所に超絶イケメンのお兄さんがいる!」


「……は?」


 考えってまさかそれのことか?

 いくらなんでも子供騙し過ぎると言うかそんなのに釣られるとはーーーー


「嘘っ! どこに!?」


 面白いくらい見事に釣られた。一応戦闘中なのだがそこんところ分かっているのだろうかこの魔女は


「今よリッツ!」


 だが隙が出来たことに変わりはない。不本意ではあるが一撃入れてしまえば私の勝利は確実


「ッ! 守りなさい奴隷達ぃ!」


「うぼぉぉぉぉ……」


 イメスパの一言で周囲にいたイケメンが私の前に立ち塞がった

 相手は男と言えども一般人に変わりはない


 斬るわけにはいかず剣を引っ込めるしかなかった


「危ない危ない。やっぱり持つべきものはイケメンの奴隷ねぇ」


「もうっ! 村人を盾にするなんて卑怯極まりないわ!」


「うるさいわねぇ! あなたはこうしてあげる!」


 するとイメスパは衝撃的な行動に出た


 今まで糸で繋ぎ宙に浮かせていたスイを手元に手繰り寄せると胸の谷間に押し込んだのだ


「ちょっ! やめろ! そんなとこに押し込むな!」


「いい気味ねぇ。どうかしら? 豊満なバストの心地は?」


「くっ! 私は屈しない! デカイだけの胸になんか絶対に屈しないぃぃぃぃ!!」


 スイは必死に耐えている。なんとも辛そうだ。代われることなら私が代わってやりたいくらいだ


 決して望んでいる訳ではないぞ? スイがあまりにも苦しそうだからその苦しみを私が肩代わりしようと言っているだけでーーーー


 とにかくスイを助けなければ。いつまでもあの羨ましい空間にーーーーあの苦しみから解放してやらなければ


「こうしておけばあなたも手出し出来ないわよねぇ? 諦めて私の奴隷になりなさい?」


「そういう訳にはいかないな。私にはやらねばならないことがある」


「まず鼻血拭きなさいよ。カッコ悪いったらありゃしないわ」


 いつの間に鼻血が。さっきどこかにぶつけたのだろう

 スイに言われて慌てて拭った


 しかしどうしたものか。あんな素敵なところにスイがいては迂闊に攻撃出来ない

 なんとかあの美人悪女だけをーーーー


「……まてよ?」


 あるではないか。イメスパだけを攻撃する方法が

 そうと分かれば話は早い。私は剣を握って再び接近を試みた


「あらぁ? 攻撃するつもりぃ? でも無駄ね!」


 イメスパはスイを囮にするように胸を大きく突き出してみせた。色々と卑怯だぞ


「残念だったな! この剣は悪しき心だけを打ち砕く!」


「なっ! きゃあああああ!!」

「痛ったぁぁぁぁ!?」


 今私が振るったのは父より譲り受けた斬魔ざんまの剣。これは悪しき心だけに力を発揮するのだ


「見るがいいイメスパ。この剣に浮かぶ2つのドス黒い塊ーーーー2つだと?」


 何故だ? 確かにこれは斬魔の剣。悪を打ち砕く必殺の剣

 いやしかしそういえば悲鳴も2つ聞こえたようなーーってまさか!


「……リッツ様」


「スイ! 無事か!?」


「無事か? ーーとはいったいどういうことでしょうか? 私は一切ケガなどしておりませんよ? それよりも聞いてください。私は今とても清々しい気分なのです。まるで心の汚れが全て落ちたかのようなーーーー」


 これ以上ないというくらい澄んだ瞳でこちらを見つめるスイの姿があった


 はじめはふざけているのかと思ったのだが今のスイの目は嘘をついている者の目ではない


 間違いない。斬魔の剣はしっかりとその力を発揮していたのだ


 ……スイにまでしっかりとな。おかげで初めて出会った時の猫を被ったスイが出来上がってしまった


「……気持ち悪いな。返そう」


 斬魔の剣で軽くスイに触れると黒い塊が1つ、スイの体へと取り込まれていく


「まるで世界はダイヤモンドーーーーってアレ? いつの間に戦い終わったの?」


「スイが少しばかり気を失っている間にな」


 今の純粋過ぎるスイのことは黙っておこう。幸い私がスイを斬ったことも覚えてなさそうだしな


 世の中には知らなくていいこともあるのだ


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