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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
テンフの村の巻
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記録の7 魔女のイメスパ


 スイに現実を突きつけられた後の記憶は曖昧なものだった

 上の空だった私はスイに引っ張られるままに歩き気がついた時には薄暗い森の入口に立っていた


「さて、ここが村長の言ってた西の森ね。……リッツ、いい加減にしっかりしなさいよ」


「不細工……ブサイク? ……ぶさいくってなんだ?」


「訳分からないこと言ってんじゃないの。そろそろ自分の意思で歩いてちょうだい」


 誰のせいだと思っている。貴様が変なことを言うから私はずっと悩みっぱなしだ

 そんな私の苦労など知らぬと言わんばかりにスイは森の中へと迷いなく踏み入れていく


 流石に私も気持ちを入れ替えなければいけない

 これから敵地に乗り込もうという時にいつまでも些細なことを気にしている場合ではないからな





「…………ええい! 雑念よ消え去れ!」


 消え去れと言っているのにあの男の顔が浮かんでは消して、浮かんでは消しての繰り返し

 余計な思考を振り払うように私は激しく頭を振り回した


「いつまで気にしてるのよ……」


 うるさいぞスイ。元はと言えば貴様のせいだからな




 森の中はジメジメとした空気が肌にまとわりつき嫌な気分にされる

 微かではあるが空から降り注ぐ日の光が唯一の救いというところか


「てっきり魔物の支配する森だから魔物がウジャウジャいるものだと思ってたわ……」


「そういえば人も魔物も姿を見せないな」


 森の奥へと進んでいくが生物の気配は一切感じられない

 それが却って不気味に感じたのかスイに最初のような勢いは見られなくなった


「どうしたスイ。恐れているのか?」


「そ、そんな訳ーーーーいや、怖いわ〜。これは魔物とか出てきたら私、失神しちゃうかも〜。リッツ守って〜?」


 一瞬声を荒らげたようだがすぐさま態度を変えて私のことを上目遣いで見てくる


 まったく、怖いなら怖いと初めから言えばいいものを


「仕方が無いな。私の後ろに下がっていろ」


「あー助かるわ〜。流石リッツ! 頼りになるわね〜」


 あの生意気かスイが私を頼っている姿を見ると悪い気はしない


 ならば今がチャンスだ。この森の魔物とやらをあっという間に仕留めて私の力を今一度この妖精に示してやろうではないか


(まんまと演技に乗っかってくれたわね。本当にバカと言うか鈍いと言うか……それとも私の迫真の演技のおかげ? 嘘! それなら私ってば名女優じゃない! それなら将来は世界的大スターとかーーーー)


「きゃあっ! 何よコレ!?」


 だらしない顔で飛んでいたスイが何かにぶつかったようだ。さっさと私の後ろに隠れておけばよかったのに間抜けな奴め


「ちょっとリッツ! 早く助けて! 何コレ、ベタベタしてて絡みつくんだけど!」


 スイは助けを求めているがぶつかったところには何も無いように見える

 それでも必死にもがくに連れてスイの動きは徐々に鈍くなっていくように見える


 まるで何かに縛られているようなーーーー


「むっ? 今何か光ったな……」


 日の光によってスイの体が照らされた時、何か光るものが目に付いた


「これは……糸か?」


 試しにスイ周辺の空間に指を通してみると確かにその感触が私にも伝わってきた


 強度はそこまででもないがスイくらい非力だと破るのは至難のわざかもしれない


 おまけにこのベタついて離れないような感覚。これが全身にくっついているスイはさぞ不快な思いをしているに違いない


 日の光を剣に反射させて更に広範囲の様子を伺うとあちこちに同じような糸が張り巡らされていることに気づいた


 木の幹やら枝やら、大きさはそうでもないがこれだけの数があるとなると厄介だ


「切ってしまおう」


 陰に隠れてしまい今となっては認識出来ないがそれでも場所は覚えている

 さっき見えた全ての糸を剣で切り落とした


「……なんで私が最後なのよ。普通なら真っ先に私を助けるんじゃないの?」


「助けてやったのだから文句は言うな。行くぞ」


「うへぇ……。体中がベトベトする。どっかで水浴び出来ないかしら……」


 自由になったスイは文句を言いながらもすぐに私の背後へと回った

 どうやらこの糸が相当堪えたようだ


 それから更に先へと進むとやがて1本の大きな木が姿を現す


「怪しげな臭いがプンプンするわね」


「特に臭いは感じないが……?」


「……そういうことじゃないわよ」


 妖精とは鼻がいい種族なのかと思ったがどうやらそういうことではないらしい


 頭を抱えて呆れるスイの言っている意味がよくわからないがきっと妖精ならではの特別な何かがあるのだろう


 私の気にすることではない


 それよりも気になるのはこの大木

 どれ程の年月を掛けて成長したのか。とにかく太いの一言に尽きる


 そしてその根本にポッカリと開いた大きな穴の中には部屋の一つでも作れそうだ


「魔物が居るとすればこの奥、ということか」


「そう考えるのが妥当ね。さあリッツ、行きなさい!」


 私の背中にピッタリとくっつくその姿は情けないと思うが勢いだけは評価したい


「……おやぁ? やっと来てくれたわねぇ……。ってあらあら、なかなかのイケメンじゃないの!」


 木の中へ入った私は目を疑いたくなるような光景に出会った


 露出高めの真っ赤なドレスを着た女が本当に部屋を作っていたのだから

 私の顔を見るなり両手を合わせ嬉しそうな表情を浮かべたその女


 ーーーーかなりの美人である。出るとこ出ててスタイルも申し分ない


「鼻の下伸びてるわよ。このスケベ」


 スイが私の目の前に来てじろりと睨む


 引っ込め。せっかくの美人が見えないではないか


「誰がスケベだ。失敬な」


「その顔を見たら100人が100人そう言うわよ。それよりもっと気になるとこあるでしょうが」


「周りなど見えん」


 私の目にはもう美人しか映っていない


「男の人達があちこちにいるじゃない! 宙に浮いてたり、イスとか机にされたりとか! この人達が行方不明になってた村人に違いないわ!」


 誰かに配慮するかのような丁寧過ぎる説明ご苦労。なるほど、今はそんな状況になっているのか


「そこのあなたぁ。こっちに来て私と楽しいことしてみなぁい?」


 右手を差し出した美人は小指から親指に掛けて折りたたむような動きを見せる


 白く伸びた細い指がなんとも誘惑的だ


「なるほど。悪くないな」


「悪いに決まってんでしょ! あなた何しにここに来たのか分かってる!?」


 スイの蹴りは痛くない。しかし急所となれば話は別。鼻を蹴るのはやめろ


「まずは自己紹介しようかしらぁ。私は魔女のイメスパ。そこの貧相な妖精さんの言う通り、私がイケメンな村人を攫った犯人よぉ」


「誰が貧相だコラァ!」


 さっきから声を荒らげてスイは忙しそうだ


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