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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
テンフの村の巻
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記録の6 西の森の魔物


 テンフの村に戻ってきた私達を待ち受けていたのは様々な声だった


 定型文しか話せない奴らだと思っていたのだがそれがまるで夢であったかのように口が回っている


 ではまずはお褒めの声から聞いてもらおう


「娘を助けていただきありがとうございました!」

「あれだけの数をたった1人で片付けてしまうとは大したものだ!」


 次にお叱りの声を聞いてみよう


「盗賊を容赦なく切り捨てたらしいわね!」

「あれだけの数をたった1人で片付けるなんて人間じゃない! この化物!」

「お前も一緒に死んでおけ!」

「どうでもいいことでいちいちうるさいのよ!」


 今までどこに隠れていたんだと問い詰めたい程の村人が現れ、やいのやいのと騒ぐ


 お叱りというよりはもう罵声と言った方が正しいな。8:2くらいで罵声側が優勢だ


 そしてスイ。最後の言葉を言ったのは貴様だと分かっているからな


 それよりも気づいて欲しい。どれだけ強い力を持っていても私だって人間なのだ

 寄ってたかって罵声を浴びせられれば心だって傷つく


 だが村人の言うことも事実だと思う。私にとって普通の力がこの村にとっては異常だったというだけの話


 ならばさっさと次の場所を目指すのが懸命な判断だと言えるだろう


「まあまあみんな、落ち着きなされ」


 村人を掻き分けて長く白い髭を蓄えた老人が現れたと同時にあれだけ騒いでいた村人は一斉に静かになった


「髭、長すぎない?」


 老人に聞こえないように私の耳元でスイが囁く。細かく動く羽がそよ風を起こして少しくすぐったい


「ああ、長いな」


 老人の顎から垂れ下がった髭は腹を超え、膝よりも先、つま先まで伸びていた


 その代わり頭髪の方は皆無。上に行くはずの栄養が行き先を間違えて下に行ってしまったのだろう。おっちょこちょいな毛だな


 どれだけの期間伸ばせばそこまで辿り着くのか疑問に思うが今はそんなことを気にしている場合ではなさそうだ


「こんな小さな村にあなたのような旅人が訪れたのも何かの運命。どうか私のお願いを聞いてはいただけないだろうか?」


「その前に、誰だ貴様は」


「お前! テンフの村の村長様を知らないと言うのか!?」


 村人が1人出しゃばってくるがそんなもの知る訳ないだろ

 世界的に有名ならまだしも初めて訪れた村の村長を知っていたらそれはそれで不気味な話だ


「いやはや、名乗るのが遅れてしまいましたね。彼の言う通り私はこの村の村長をしております」


 なるほど村長か。確かにその現実離れした髭は普通の人間には到底出来るものではないな


「これは失礼致しました。私の名はリッツと申します。ところでそのお願いと言うのは何でしょうか?」


 偉い人間相手に失礼な口を聞いてしまったことを恥じ、私は頭を下げ口調を変える


 治めている規模は違えどその地で王のような存在に当たるのは確かなこと


 つまりテッセ王国の国王様と同じようなものだ

 そんな相手にタメ口で話すなど出来るはずがない


「そうかしこまらないでくだされ。お願いと言うのは近頃この辺で暴れている魔物についてです」


「魔物……ですか?」


 村長の話によるとテンフの村の西にある森で魔物の被害が増えているらしい


 ある日、森へ木材の調達に行った村人がいつになっても帰って来なかった


 心配して2人の男が様子を見に行ったところ、1人は大怪我を負って帰ってきたがもう1人は帰って来なかったという


 過去にも同様の事件が起きていて既に5人の村人が行方不明になっているらしい


「その怪我を負った者はどちらに?」


「私でしゅ」


 村人の中から1人の男が手を挙げた。その顔は大きく膨れ上がり顎が2つに割れて突き出ている

 団子のような鼻に腫れ上がったまぶた


「まだ傷が癒えていないのか。痛ましいな」


「いや、怪我はもう治ったんでしゅけど?」


「えっ?」


「えっ?」


「にっ、西の森の魔物ですね!? 分かりましたすぐに倒して来ます!」


 突然スイが大声を出して急いでその場を去ろうと私の服を引っ張る


「待てスイ。まだ話は終わってないぞ?」


「いいからとっとと行くの! 早くしなさい!」


 強引に話を打ち切って私とスイは西の森へと向かうことになった

 テンフの村を離れて暫くするとスイがやっと服から手を離してくれた


「スイ。そんなに急いでどうしたというんだ?」


「リッツのせいでしょ!? とんでもない発言してくれたわね!」


 スイは酷く怒っている。私の発言ーーーーと言うとやはり村長に無礼な口を聞いたのが良くなかったのか


「その件に関しては私も反省している。だから村長にはしっかり謝罪をしただろう? 何をそんなに怒る必要があるのだ?」


「そっちじゃない! あの男の人によ!」


「ああそっちか。余程魔物に痛い目に会わされたのだろう。許せんな」


「だから怪我は治ったって言ってたでしょ!? 本当に察しが悪いわね!」


 スイは怒鳴りつつも呆れたという顔で私のことを見ているが私に言わせれば察しが悪いのはスイの方だ


 怪我が治ったなんて言葉は私達を心配させないための嘘に決まっているだろう


 そうでなければあんな顔になる理由が説明出来ない


「では何故あのような顔をしているのかスイには分かるのか?」


「元々ああいう顔だからに決まってるでしょ!」


 スイがそう言った瞬間、私の中で時が止まったような錯覚に陥った


 スイの大きな声がこの広い平原に響き渡りその後はそよ風が私の体を優しく撫でる

 草の揺れる音やスイの羽音のような小さな音でさえも私の耳にはしっかりと入ってきた


「なんだと……? 貴様、夢でも見ているのか?」


「生憎しっかり起きてるわよ! お目目パッチリよ! 悲しくてもあれが現実なの! あの人は不細工なの!」


 酷い言いっぷりだ。しかし不細工にも程があるぞ?

 いったい前世でどれ位の悪行を働けばあのような顔に生まれ変わることになる


 あんな顔は今まで見たことがーーーー国王様の娘以外に見たことがないぞ


「分かったらさっさと行くわよ! 私の予想が正しければ帰って来なかった人達も無事なはずだから!」


 そう言ってスイはまた私の服を引っ張る。私の頭の中にはあの男の強烈な顔が焼き付いてなかなか離れようとしなかった





「うぅ〜ん。イケてる男達に囲まれて飲むバイサルティーは格別ねぇ〜。あなた、ちょっとこっち来て椅子になりなさい?」


「……かしこまりました。女王様」


「しかし最近はこの森にも人が来なくなったわねぇ……。そろそろ新しい子が欲しいわぁ……っておやぁ?」



「誰かが森に入ってきたみたいねぇ。イケメンだと嬉しいわぁ」



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