記録の5 盗賊のアジトへ
平和な村に突然響いたよく分からない声を聞いて私とスイはその方向へと向かった
と言っても20歩くらいで着いた
そこには武器を構えた物騒な男達が10人立っていてその側で若い娘が蹲り泣いている
「ああ! エーコ! エーコ!」
少し離れた位置から何かを叫んでいるのは年老いた女だ
恐らくあの娘の母親だろう
「お母さん助けて! なんかこの人気持ち悪い!」
「キィエエエエア! ヒィエエエエア!」
娘の側で上体を反らし奇声をあげている如何にも怪しげで目立つ男が1人
貴様か。さっきの変な声の正体は
「リッツ! あれ見てよ!」
「どうしたスイーーーーあれは!」
奴らを指さしてスイが何か言っているのでその先を見てみると見知った顔が5つ
ついさっきスイを追いかけてた男達の姿があった。死にかけていたというのに復活が早いな
「いーーーらーーろーーーばーーーーすーー」
「キィエエエエア! ヒィエエエエア!」
男の中の1人が何かを言っているのだがあの叫んでる奴のせいで何も聞こえない
すると奴らは娘を抱えてそそくさと村から出ていってしまった
あまりに突然過ぎて、あまりに怪しすぎて私としたことが警戒することを怠ってしまった
「なるほど。ああやって敵の注意を逸らしてその隙に仲間達が目的を遂行する。ふざけたようでしっかりとした作戦だったということか……。一本取られたな」
「んな訳ないでしょ! あのアホみたいな奴はあれが素よ! とにかく追いかけるわよ!」
冷静に分析する私を一喝し、スイは服を引っ張ってくる
「……何故追いかけるのだ? 放っておいても問題無さそうだが……」
「あんなの見せられてその言葉が出るあなたの神経を疑うわよ! イカレてんの!?」
「至って正常だが?」
「極めて異常よ! ……って何回やらせんのよ!」
スイがなんと言おうと私にはそこまで異常事態には思えない
その証拠に村人達も慌ててるだけで誰も助けに行こうとしていないし
「それにあなた言ったでしょ? 一本取られたって」
「? 確かに言ったがそれがどうした?」
「一本取られたなら一本取り返してやらなきゃ気が済まないじゃない?」
上手いこと言ったと言いたげなドヤ顔でスイは私のことを見つめている
腹立たしいので相手にするのはやめておこう
「ふーーーん。そっかそっかぁ。あなたってその程度だったのねぇ〜」
私の反応を見るなり今度は口調を変えて来た
何を企んでいるのか分からないがどう来ようとも私の意志が曲げられることなど絶対に有り得ない
「……何が言いたい」
「いんやべっつにぃ? ただ魔王討伐なんて1人で事足りる〜なんて言っておきながらあんな奴らにビビっちゃう程あなたって情けない奴なんだな〜って思っただけよぉ?」
なるほどな。今度は挑発して私のやる気を出させようという魂胆か
それにしても安い挑発だ
こんな見え透いた挑発に乗るなんて余程のバカのすることだろう
「貴様。私の力を信じていないようだな」
「いやいいのよ〜? 怖いならスルーして先へ進みましょっかぁ?」
「いいだろう。あの程度の奴ら、一瞬で片付けてやる」
「ほーん。面白いわねぇ。是非とも見せてもらいたいものだわぁ?」
「やかましい! 無駄口を叩く暇があるならさっさと行くぞ! おい村人、奴らはどこに向かったぁ!?」
全く。あの程度の挑発に引っかかると思われるとは心外だな
ここは私の力をもう1度見せつけて上下関係というものをハッキリさせてやるとしよう
(リッツは私の挑発に乗せられたこと気づいてないわね……。実力がある分、頭の方は残念ってことか)
「どうしたスイ。さっさと行くぞ」
「はいはーい。行きましょー」
村人から得た情報によるとテンフの村の東に奴らのアジトがあるらしい
最近この辺で幅利かせてる盗賊とかなんとか
歩くこと十数分。それらしき小さな小屋が見えてきた
『とうぞくさまのあじと』と書かれているからこれで間違いないな
「しかし全て平仮名とは……。頭は多少キレるようだが馬鹿なことには違いない」
「……あなたもね」
「何か言ったか?」
「いいえなんにも〜?」
スイがボソッと何かを呟いたようだが聞こえなかった
それよりも今は私の力を証明してやらなければいけないな。早速乗り込むとしよう
「たのもー! 村の娘を返してもらいに来たぞ!」
アジトの扉を破壊して突撃する。これでスイに私の力が少し証明出来ただろう
まずは1ポイント獲得、というところだな
「ヒィエァ!?」
「何者だ! ……ってお前はさっきの!」
「お手本通りのリアクションね……」
盗賊の反応に呆れ気味のスイだが私はそんなこと気にしない
目標は盗賊の殲滅。ついでに村娘の奪還だ
「キィエエエエア! ヒィエエエエア!」
「もうその手は効かぬぞ!」
剣を抜いて真っ先にやかましいのを切り捨てる
さっきはこいつのせいで不覚をとったのだ。ならばこいつを先に倒すのが定石というもの
「ちょっとリッツ! あなたまた殺そうとしてるじゃないの!」
「ハッハッハ! 見たかスイ! これが私の実力だぁぁぁぁ!!」
仲間が斬られ、動揺している間に残りの9人も一瞬で片付けてみせた
あっという間に血達磨が10体。この鮮やかな立ち回りで100ポイントは獲得出来たに違いない
「フン。口程にもないな」
「やかましい!」
剣を仕舞って決めの一言を言ったところでまたスイに頭を蹴られたがやはり痛くない
「少しは手加減ってものが出来ないの!? また私が仕事しなきゃいけないじゃない!」
「私の力を疑うから見せつけてやったまでだ。どうだ? これで見直しーーーー」
「ひぎゃあああ! 痛い! 痛いよぉ!」
「がぁぁぁ! 苦しい!」
「ヒィエエエオォン! キィエエエアォン!」
「うるさいぞ貴様ら! 人が話しているのだから黙れ!」
「誰のせいだと思ってんの!」
せっかく私がスイに問いかけているのに悲鳴をあげるとは空気の読めない奴らだ
しかしスイの回復とやらも不便なものだな。敵ながら同情するぞ
そうだ。もう1つすることがあったな
アジトの奥で縮こまり怯えている村娘を救出せねばいけない
「怖い思いをしたな。しかし安心しろ。私が来たからにはもうーーーー」
「ヒッ、ヒィエェェェェ! 来ないでぇぇぇぇ!」
私が差し伸べた手を振り払うと村娘は一目散にアジトから逃げて行ってしまった
可哀想に。相当怖い目に会ったのだな
しかし今の悲鳴、もしかしてあのうるさい奴の口調が移ったのか?
「そりゃそうなるわよねぇ……」
回復を終えたスイが戻ってきた。破壊された扉の方を見つめて同情するような顔と口ぶりだ
「ところでスイ。私の力がどれほどのものか分かってもらえたか?」
「あーはいはい分かったわよ。羽が抜け落ちそうになる程よーく分かりました」
「なにっ? その羽は抜け落ちるのか!?」
「うるさいからもう黙ってて」
予想してた展開とはかなり違ってしまったがどうやら私の力を認めてくれたようだ
「ちなみにポイントにすると何点だ?」
「100ポイントよ。お願いだから静かにして」
ふむ。私の計算通りにはいかなかったな
踏み込みが甘かったか?
それとも剣の振りが1秒遅かったか?
自信はあったのだがなかなか上手くいかないものだ
とりあえずやるべきことはやったのでテンフの村に帰るとしよう




