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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
テンフの村の巻
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記録の4 テンフの村


 ひょんなことから妖精のスイと行動を共にすることになった私はその後も休むことなく足を進めていた


 ついてきてからと言うものスイの口は留まるところを知らず回り続けて私はというとそれに対して適当に相槌を打っていた


「ねぇリッツ」


「なんだ? スイ」


 なんだか少し改まったように私の顔を覗き込むスイの大きな瞳は日光によって薄く青い輝きを放つ宝石みたいで美しかった


 妖精というのは皆、このように美しい容姿を持っているのだろうか


 不謹慎な話だとは思うがこれならば高く売れるというのも納得のいく話だ。物好きが大金を叩いてでも手に入れたいのだろう


 これがもし、私のような人間と同じ大きさだったとしたら今頃世界を支配していたのは彼女達の美しさだったかもしれないな


「さっきから見てて思ったんだけどあなたは何でそんなにつまんなさそうな顔しかしてないの?」


 しかし見ての通り性格は最悪である

 出会ってから大して時間の経ってない相手にこの言い草だ


 真剣な顔して何を言うかと思えば下らない


「別に意味などない。元々こんな顔なだけだ」


「ふーん。答えまでつまんないわね」


 聞いておいてこの興味無さそうな顔である。つまんなくて悪かったな


 私の表情に対しての言葉は以前にも言われたことがある

 剣士として共に励んでいた仲間から言われた言葉だ


『お前いつもつまんなさそうな顔してるよな。ご贔屓のチームが負けてる時の親父みたいだ』


 例えの意味は分からなかったが要するにつまんない顔をしているというのはよく伝わった


「そうだ! あなたちょっと笑ってみなさいよ」


「断る」


「断んの早っ! なんでよ〜?」


「その必要がないからだ。私だって笑う時は笑うさ」


「じゃあ今がその時よ。いいじゃなーい、ちょっとだけでいいから〜。ねっ?」


 駄々をこねるスイを無視して歩き続ける。その背後でまだギャーギャーと吠えていたが私のつまらない反応を見るとようやく静かになった


 無言の状態が続くまま10分程。私達の前に1つの村が見えてきた


「テンフの村か。テッセ王国の近くにあるのは知っていたがこんなにも小さいとは思わなかったな」


 看板に書いてある通りここは私が目指していたテンフの村と言うらしい


 木の柵で囲われた村の大きさは端から端まであっさり歩ききれてしまうほど小さく家も4軒しか建っていなかった


 まずは魔王の手がかりを得る必要がある

 丁度いい所に1人の男が立っているのでそいつに聞いてみることにしよう


「おい貴様。私は魔王を探して旅をしているのだが何か知っていることはないか?」


「ようこそ! ここはテンフの村だよ!」


 私の質問に対して男は的はずれな回答をした


「そんなことは見れば分かる。私が聞きたいのは魔王の居場所だ」


「ようこそ! ここはテンフの村だよ!」


 また同じ言葉を繰り返す。こいつに耳は付いてないのか?

 いや、付いているのは見れば分かる。聴覚が働いてないだけか


 さっきの男達もそうだがどいつもこいつも話を聞かない奴らだな


「もう1度聞く。魔王の居場所を知らないか?」


「ようこそ! ここはテンフの村だよ!」


 なるほど。白を切るということはこいつは魔王の関係者ーーつまり手下と言うことか

 ならば遠慮する必要はないな


「……わかった。答える気がないならば体に直接聞いてやろう」


「なんでそうなるのよ!」


 剣を構えた私の背後からスイが蹴ってきたが痛くはない

 えげつない力を使う割に武力となるとてんで駄目みたいだな


「魔王の手下と思わしきこの男が質問に答えないのでな。少し痛い目に会わせてやるだけだ」


「どこからどう見たってただの人間じゃない! あなたの思考回路はどうなってんの!」


「至って正常だが?」


「極めて異常よ!」


 全くやかましい奴がついてきてしまったものだ

 スイが騒ぐものだから男を斬ることを諦めて別の村人に話を聞くことにした


「とゆーかあなた、魔王の居場所なんか知ってどうするつもり?」


「無論、倒すに決まっている。それが私の授かった命だからな」


「たおす…………? はぁ!? 1人で!? そんなこと言ったのはどこの馬鹿者よ!?」


 私の言葉にスイは驚いた顔を見せ声を荒らげた。そんな至近距離で騒ぐな頭に響く

 それにしても国王様を愚弄するとはとんでもない。馬鹿者はどっちだ


「テッセ王国の国王様だ。それに私の実力ならば1人でも充分事足りる」


「いや、無謀にも程があるわよ。世界を支配する魔王ってのがどれほど強いかなんて子供でも分かるでしょ……」


 今度は呆れた顔でーーというより哀れんだような顔でこっちを見ている


 まるで小さな子供が掲げる大きな夢を『いつか叶うといいわね〜』と軽くあしらう大人のような顔で真面目に受け取っていない


 テッセ王国の剣闘大会で優勝することがどれほど強さの証となるのか分かっていないようだな


「やはり口で言うより力で示した方が早いな。待っていろ、さっきの魔王の手下を倒してーーーー」


「だからやめなさいって!」


 再び蹴りを入れてくるスイ。痛くもないので避けるより素直に喰らってしまった方が楽だ


 その後も村人に話を聞いて回るも有力な情報を得ることは出来なかった

 そもそも皆が皆、定型文かと言うくらい同じ言葉しか口にせず会話することすら無駄だった


 そうと分かればもうここに留まっている必要もない


 次の場所を目指して村を出ようとしたその時だった


「キエェェェェアアアアアア!!」


 気合いなのか悲鳴なのか分からないがとにかく大きな声が村中に響いた


 なんだ、定型文以外も話せるじゃないか


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