記録の39 予選開始
バカでも分かる武闘大会予選ルール説明
・開始時間は午後7時。範囲はオッカ丘と港町のみ。開始地点は自由
・予選通過人数は30名。時間は無制限。とにかく生き残ること
・参加者の体力はブレスレットにより管理される。危険度を青→黄→赤→白で表示し、白になった者は失格
・過度な暴力行為や自然、建物を破壊すると失格になるので注意
・以上を守って楽しいサバイバルを!
「――要するに全員蹴散らせばいいだけの話。何も難しいことはない」
受付で貰った紙に目を通しながら改めてルールの確認をするが、正直楽勝としか言いようがない
どんな予選だろうと突破する自信しかなかったが、よりによって得意分野とはな
世界最強の剣士である私にとってこの予選はあくびが出るほど簡単過ぎる。すぐに終わらせてオー・シャンティ号へ乗り込むとしよう
「最後から2番目のやつとかリッツには難しいと思うけど」
スイのやつ、また水を差すようなことを。私のことを誰彼構わず殺したりするような狂戦士とでも思ってるのかコイツは
「安心しろ。その辺の有象無象なんかに剣を使うような真似はしない。ハリセンで十分だ」
「それでも心配だわ……」
スイの心配をよそに刻一刻と近付く開始時間。私は船着場から近い港町の道のド真ん中を開始地点に決めた
「随分と目立つ場所にしたわね。こんなんじゃすぐに囲まれちゃうんじゃないの?」
「そっちの方が好都合だ。片っ端から倒してすぐ30人以下に減らしてやる」
「俺だったらずっと隠れてやり過ごしますけどね。無駄に戦って疲れたくないですし」
ロイの言うことも一理ある。サバイバルの特性上、逃げ隠れて参加者が減るのを待つのも立派な作戦だろう
だが私が目指すのは武闘大会での優勝。オー・シャンティ号に乗るだけの思い出作りをしに来た訳ではない
ここで逃げているようでは優勝など夢のまた夢だ。そもそも逃げたり隠れたりすることは私の性に合わん
真正面から戦って勝つ。それがシンプルで1番で分かりやすい
「安心しろ。どんな敵が来ようとも私は決して負けん」
そして待つこと数分。開始の合図を告げる大きな音が辺りに響き渡った
それと同時に全方位を埋め尽くす程の敵に囲まれる。数は30くらいか……思っていたよりずっと少ないな
「よぉ兄ちゃん。カワイイ人形持ってんじゃねぇか。それ俺にくれよ」
「痛い目に遭いたくなかったら大人しく渡した方が身のためだぜ?」
予想通りだな。奴らの目的は人形もとい妖精だ
妖精が高値で売れることを知り、大金に目が眩んだ奴らで結託したのがこの囲いの正体
受付の列に並んだ時点で見張られていたのは分かっていたが、手を出してくる素振りはなかった
予選前に騒ぎを起こせば奴らもタダでは済まない。あくまで予選の中で人形を奪ったという体にするのが得策だろうな
私がスイを人形扱いしたのには戸惑っただろうが、それも奴らにとっては却って好都合ということか。意外と機転が利くじゃないか
スイの馬鹿げた策が自身の首を絞める結果になるとは、彼女もまるで想定してなかっただろう
だが機転が利く割に自分と相手の実力差も分からないようじゃ全て無駄に等しいな
……さて、そろそろ始めよう。開戦の火蓋は分かりやすく、且つ相手を挑発するように
「御託はいい。さっさとかかって――」
「おうおうテメーら! この方を誰だと思ってやがる! 旦那の手にかかりゃあなぁ! テメーらみてーな三下モブ野郎共なんざあっちゅー間にあの世で死神とランデブーだぞコラァ! ベラベラとつまらねぇセリフ並べてねーでとっととかかって来いや雑魚助がぁ!!!」
……お前が言うのか。この場で1番無関係なお前がそういうこと言うのか
「うわぁ……なにあれ鎧が喋ってる」
「しかもすげぇ噛ませ犬っぽいこと言ってるぞ」
「……きっしょ」
見ろ。血気盛んな男達が冷めきった上に引いてるじゃないか
鎧が喋ることもそうだが、セリフがお前の言ってる『三下モブ野郎』の言いそうなことを全て詰め合わせた内容だもんな
そりゃあ皆驚きもするしドン引きもするさ。まだ笑ってくれた方が救いがあったかもしれないな
「なぁ、あの鎧は高値で売れたりしないのか?」
「売れるとしてもアレはいらねぇかな」
「なんか不気味だしうるせぇし邪魔そう」
この短時間で大した嫌われっぷりだ。私としてはロイを持ってってくれるならすぐにでもお願いしたいところなんだが、そうウマい話もないか
「あれ? 俺なんか変なこと言いました……って旦那、笑ってません?」
「わ、笑ってないぞ…………ふっ」
「笑ってんじゃないですか! 俺は旦那の為を思って啖呵切ったのになんなんすかこの空気は!?」
「私の為を思うなら少し黙っててくれないか?」
「真顔で言わないでくださいよ! なんかすっごい傷付くんですけど!」
「安心しろ。すぐにボディの方も傷だらけにしてやる」
「何に安心しろと!?」
ギャーギャーと騒ぐロイはもう無視するとして、問題はこの空気をどうするかだな
この緩みきった状況を再び盛り上げるのは至難の業だぞ
いきなり襲い掛かるのもなんか1人だけはしゃいでる感じがあって浮きそうだ
やはりここはもう一度会話からやり直そう。何事もなかったかのように、真剣な顔で迫れば奴らも雰囲気に充てられて気合いが入るはずだ
「すまない、待たせたな」
「あっ、終わった?」
……ダメっぽいな。完全に緩んでる。用事で5分くらい席を外した友人が戻って来た時のテンションだ
なんかもう座ってる奴もいる。襲われた身で言うのも変だがやる気あるのか?
とゆーかなんか人数減ってないか? 10人くらい消えたんだが? どうすんだ? ホントにこの空気どうすんだ?
「……あっ、そういえば旦那知ってます? ノイメットってなんか凄い美味しい飯屋があるらしくて――」
「いつまで喋ってんだ貴様ァ!!」
無視していたがとうとう限界が来た。私が考え事してる最中にもロイはずっと話していたのだ
この空気をどうにかせねばと必死で頭を回転させていたのに腹の辺りからずっとベラベラベラベラ声が聞こえてきたんじゃ集中出来るわけがない
「うわぁ!! 急に怒鳴らないでくださいよ! ビックリしたなぁもー」
「ビックリしたのはこっちの方だし怒鳴りたくもなるだろ! お前さっきからずっっっっと喋ってるんだぞ!? しかも全く関係ないこと喋ってたよなぁ!? すっかり雑談の気分だったよなぁ!? 関係ないだろ今ノイメットの飯屋は! ノイメット着いてから教えてくれそういうのは!」
元はと言えばコイツのせいでこんなことになってるのになんで他人事なんだ? 責任とか罪悪感って言葉は宝箱の中に置いてきたか?
いやそもそもなんで私はこんな必死になってるんだ? どうでもいいだろ空気とか
売られた喧嘩を買うだけなのにそこまで頭使うことないだろ!
「ちょっとちょっと旦那」
もうどうすればいいかもどうしたいかも分からなくなってきたというのにこの鎧はまだ何か言うことがあるってのか
「なんだ!?」
頼むだからもう余計なことは――
「長いっス。ツッコミ」
……よし、殺そう。浄化とか生温いこと言ってないで今この場で頑張って殺そう
斬魔の剣と一緒に置いておけば死ぬだろうか。悲鳴がうるさいだろうが一晩もあれば静かになるだろうから我慢するとしてそれから――
「あの、ちょっといいか?」
敵の1人が話しかけてきた。いや、彼らは果たして敵と呼べるのだろうか
私の最大の邪魔になってるものがすぐ近くに居るのに、なんの危害も加えようとしてこない彼らを敵と呼んでいいものなのだろうか
「……あぁ、どうした?」
「俺らもう行っていいかな? なんか忙しそうだしまた改めて来るよ」
「そ、そうか。すまないな、ちゃんと相手もしてやれないで」
「いやこっちこそ悪かった。じゃ、お互い予選頑張ろうぜ」
「あぁ、健闘を祈るぞ」
そう言って彼らは去って行く。ほら、やはり彼らは敵なんかではなかったんだ
ちゃんとこっちの事情を汲んで気遣ってくれる優しさにちゃんと謝れる誠実さ
そう、これは敵ではない……ライバルだ
互いの実力なんか分からない。それでもまた必ず会えるという確信がある
次に私達が顔を合わせるのはオー・シャンティ号の中であると信じているぞ。だから、こんなところで負けるなよ……
「…………」
「…………」
「…………いや」
「「そうじゃないよなぁぁぁぁぁぁ!?」」
私が発すると同時に彼らも同じこと言いながら戻ってきた
よかった。変に思ったのは私だけじゃなかったんだな
「その妖精寄越せ!」
「欲しければ奪ってみせろ!」
武器を手に私と男の距離が縮まる。それに呼応するように周りの奴らも一斉に襲い掛かってきた
「やれやれ。モテる女は辛いわね」
なんかそれっぽい言い回しでオチをつけた気になるな! 私達の戦いはまだまだこれからなんだぞ!




