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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
武闘大会予選編
36/44

記録の35 強くてモテモテの男?


 むかしむかしあるところに、ひとりの青年がおったそうな


 青年はいい歳してろくに働きもせず、家でグータラしたり外を遊び歩いたり、近所でも有名な怠け者だった


 そんな青年には夢があった。それは『強くてモテモテの男になりたい』である


 そのための努力とかは特にしなかった。めんどくさかったからだ


 なんとか楽して夢が叶わぬものだろうか。例えば突然神様が現れてなんか凄い力を授けてくれたりしないものだろうか


 そんなことばかり考えていたある日のこと。いつものように遊び歩いていた青年は、見慣れない古本屋の前で足を止めた


 こんな所に古本屋なんてあっただろうか。疑問に思った青年はどうせ暇だしと、興味本位で軽く覗いてみることにした


 中はホコリっぽく、空気が澱んでいるのがよく分かる。青年の部屋といい勝負だった


 そこで青年は1冊の本と出会った。本の名は『裏技大百科』


 内容はこの世では起こるはずもない事象を特定の行動によって呼び起こすというもの。如何にも怪しい文がビッシリと書き連ねてある


 バカバカしいなと思いつつ暇潰し程度に読んでいると――


『おきゃくさん その ほん が ほしいの かい?』


 店の奥から老婆が出てきて青年に尋ねた。こんなもの買ったところでなんの役にも立たないし、そもそもこの本に割けるだけの無駄金なんて一銭もない


『いいえ』


 青年は断った。しかし――


『おきゃくさん その ほん が ほしいの かい?』


 同じ質問が返ってきた。聞こえなかったのだろうか? 青年はもう一度答える


『いいえ』


『おきゃくさん その ほん が ほしいの かい?』


 老婆から返ってくる言葉は変わらない。この辺りで青年は違和感を覚える


 押し売りだろうか。しかし一言一句言葉が変わらないのは変じゃないか? 押し売りならもっと言葉巧みに売りつけてきそうなものだ


 そもそもこっちも断り方が"いいえ"の一言なのもおかしい。断るにしたってもっと沢山理由をつけられるだろう


 このままでは埒が明かない。そう思った青年は逃げ出そうと決めた――が


 体が動かないのだ。まるで時が止まったかのように1歩どころか1ミリすら動くことが出来ない


 青年は悟った。この裏技大百科を買うしかない。この場から逃れる手はそれしかないのだと


『はい』


『うらわざだいひゃっか なら 200ゴールド だよ まいどあり』


 その瞬間、青年の体に自由が戻った。得体の知れない恐怖に襲われた青年は慌てて店から飛び出す


 その手には『裏技大百科』が握られ、財布からはお金が無くなっていた


 次の日、青年は手元に残った『裏技大百科』を眺めながら考えた。あの老婆に復讐してやろうと


 どんな手を使ったのか分からないが、大して興味のない本を無理矢理買わされたことに腹が立ったのだ


 『裏技大百科』が本物ならばきっと、素晴らしい力を得ることが出来る。青年は使えそうな裏技がないか、片っ端から目を通していく


 壁抜け、ワープ、道具無限増殖、透明化、所持金無限……興味はそそられるが求めているものとは違う


 面白そうなものは沢山あるが肝心のコレだ! というものが見つからない


 しかし見つけた。やっとのことで見つけた。無敵になれる技を見つけたのだ


 1。まずは家にあるタンスの2段目と5段目の中身を全て入れ替える

 2。次に家の玄関から東西南北、決められた順序と歩数で歩いていくとある店の前に辿り着く

 3。そしてその店で売られている道具を決められた数購入する

 4。そのまま真っ直ぐ家に帰ると、先程入れ替えたタンスの2段目に『???』と書かれた服が入っているのでそれを着る


 手順は以上。青年はさっそく実行に移した


 慎重ながらも順調にこなしていき、あっという間に4つ目の手順に差し掛かった


 あとはタンスの中にある『???』と書かれた服を着るだけ。しかしここで問題が発生した


 確かに服はあった。しかし書かれていた文字は『???』ではなく『ア"ノ゜フゲジャ"ン』と理解できない奇妙な文字が並んでいる


 どこかで失敗したか? 完璧にこなしていたと思っていた矢先にこの謎の文字列


 青年は大きな疑問と小さな恐怖を抱くと同時に『裏技大百科』は本物であったことを確信する


 ならば他のものも今すぐ試したい。この本さえあればどんなことだって可能ではないか


 そう思ったらもう迷う必要はなくなっていた。『ア"ノ゜フゲジャ"ン』の服を手に取り急いで袖を通し、早速次の裏技に取り掛かろうとした時だった――


 体が動かない。あの古本屋で経験した時と全く同じ現象が青年の身に起こった


 幸いにも感覚は残っていた。目は見えるし耳も聞こえる。しかし体が動かないので自分がどうなったのかだけは分からぬまま


 その結果を知ったのは数日後のこと。青年の部屋に見知らぬ男が現れたことがきっかけである


 革製の防具と手には木製の棒と盾。貧相な装備に身を包んだ男は青年を持ち上げて言った


 『この そうび は のろわれている』


 言ってる意味が分からなかった。しかし男が青年を持ち上げた時、偶然目に入った鏡で彼は自分の姿を確認することが出来た


 青年は鎧になっていたのだ。やはりあの裏技は失敗していた。その代償として青年という人間の情報データは鎧へと書き換えられた

 

 青年という人間は初めからこの世に存在していなかったことになり、鎧という情報データとして存在していたことになったのだ


 その後は人から人へ、各地を転々としながらもうどれだけの時間が過ぎたかなんて覚えていない


 その長い時間のなかで鎧と青年の魂は馴染み、喋ったり少しくらいなら体を動かせたりするようになった


 やろうと思えば不意を突いて取り憑いてやることくらい簡単だろう


 しかしそこらの誰かに取り憑いたところで彼の求める欲は満たされない


 やはり強い奴だ。強くてモテモテの奴に取り憑けば必然的に自分もその仲間入りが出来る


 だから青年もとい鎧は待った。自分を着るに相応しい、強くてモテそうな男を待ち続けた


 そう願うことしばらく、やがて行き着いたのはとある倉庫。そこからこのオッカ丘の宝箱へ運ばれてきたのだ


「ホントはあの運搬士の兄ちゃんが良かったんだけどな〜。強そうだし顔もなかなかだし……ただ強い魔除けの力が掛かっててさぁ〜。だからお前にしたってわけ」


「ふざけるな。こっちは貴様みたいな気色悪い鎧なんぞ頼まれてもお断りだ」


 随分とまぁ長々喋ってくれたが、同情とか同調出来る部分なんて何ひとつなかった


 何故私がそんなしょーもない奴のしょーもない欲に付き合わされなきゃならんのだ


 ただまぁ強くてモテそうな奴という点で私を選んだことだけは褒めてやらなくも――


「そもそもリッツは強いけどモテないわよ?」


 うるさいぞスイ。まだ付き合いの短いお前に私のなにが分かる。私はモテないのではなく単純に興味が無いだけでその気になれば女性に言い寄られることくらい簡単なんだ。だいたいお前は人のことを言える立場か? スイだって――


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