記録の33 運搬士パナのお仕事
皆さんは疑問に思ったことはありませんか?
森や洞窟、海に山、はたまた人が足を踏み入れることがないであろう危険地帯に置いてある
『宝箱』の存在を――
中にはアイテムや武具など様々。まるで何処かからこちらを監視していたかのようにうってつけのアイテムが入ってたりしますよね?
『そうそう! 今ちょうどこれが欲しかったんだよ!』なんて思ったこともあるでしょう
しかし誰が? いったい何のために?
その疑問にお答えするのが我々『運搬士』
運搬士は前述した地帯――。つまり普通の人が立ち入れないような地域に行って、宝箱に道具を納めることを目的とした集団なのです
物語の途中ですが、今日は皆さんに運搬士の仕事というのをご覧頂きたいと思います
申し遅れました。僕は運搬士のパナと申します
それでは早速、運搬士の1日に密着して参りましょう
―――――
某国某所。街の外れに構えられた一軒の大きな倉庫から物語は始まる
「おはようございまーす!」
快活な挨拶と共に倉庫に現れた若者の名はパナ。運搬士になってからはや4年が経つという
持ち前の明るさ、実力に仕事ぶりと申し分なく周りからの信頼も厚い
「おはよう! 今日もよろしく頼むよ!」
「はい! 今日はボルフン火山で合ってましたよね?」
上司に挨拶を済ませ本日の予定を確認。早々に作業に取り掛かろうとした時だった
「ああ悪い。申し訳ないんだが今日はオッカ丘を担当してもらえないか?」
急な予定変更。上司の話によると、最近急成長を遂げているラギルが申し出たとのこと
ラギルは運搬士になって2年目になるパナの後輩
初めは苦戦続きの毎日だった。向いてないとまで言われていた
しかし本人の努力や周囲のサポートもあり近頃はメキメキと力を伸ばし、今やすっかり注目株の男だ
「僕は構いませんが……ラギルは大丈夫でしょうか? 力をつけたのは知ってますが、ボルフン火山はレベル4の超危険地帯です。彼にはまだ早いかと……」
運搬士の仕事にはその地域の危険度をレベルという形で表している
レベルは1から5までの5段階で分けられており、数字が大きくなれば危険度も増す
ちなみにオッカ丘はレベル2。最近のラギルなら余裕で達成出来るレベルだろう
「俺も心配なんだが、ラギルの奴がどうしてもって言うからなぁ……。レールとロールを同行させることにしたよ」
「なるほど。それなら安心ですね」
レールとロール。その名を聞いてパナはホッと胸を撫で下ろす
彼らはパナの先輩にあたる存在で、レベル5の仕事もしっかりこなすベテランの兄弟だ
この3人ならば特に問題はないだろう。既に出発した彼らの無事を祈りながら、パナも自分の仕事をする為オッカ丘へ向かった
運搬士が現地で行うことは空の宝箱にアイテムを補充すること。その為に必要になるのが『不可視のマント』だ
羽織ることによって存在感を消す不可視のマント。これは魔物との遭遇を避けるために欠かせない装備だ
理由は無駄な戦闘を避けて効率的に仕事を進めるため
運搬士の仕事はなによりもスピードが第一に求められる
オッカ丘やボルフン火山と言った魔物が生息している地域。人の往来は決して多くはないがゼロではない
そんな人達がいざと言う時に困らないためにも、素早いアイテム補充が大切なのだ
順調に作業を進めていくパナ。そしてオッカ丘の頂上に置かれた宝箱にとある装備を納めることが今日一番の目的だった
(装備した者の力を飛躍的に上昇させる『ハイパワーアーマー』……か。初めて見るけどどこの誰が作ったんだろ?)
初めて見る鎧に興味を示しつつも宝箱に仕舞い、丘を下りつつ残りの仕事もこなしていくパナ
そして全ての宝箱に補充を終えたところで、ある異変に気がついた
(おかしいな。魔物の数が少ない……)
ここまでの道中で見かけた魔物の数が、自身の記憶にあるよりずっと少ないのだ
レベルの高い地域を任されるようになってからは来ることもなくなったオッカ丘
時間が経てば当然、環境も少なからず変化する
だが、それにしても不自然だった。比較的穏やかな魔物が生息するオッカ丘では、魔物同士の生存競争のようなものは滅多に起こらない
(考えられるとすれば、誰かが倒して回ったか。もしくは――)
目的は果たしたがまだ仕事は残っている。それでもパナは作業を中断して異変の正体を探ろうとを決めた
その時だった。ガサガサと不自然に木々が揺れる音が鳴ったのは
(あれは……ペロッチュだ)
木々の間を縫うように、のんびりと歩きながらそいつは現れた
その名はペロッチュ。長い首と対照的な短い足、そして大きな口が特徴の四足歩行の魔物である
小さくつぶらな瞳がなんとも可愛らしい……と言うより間抜け面と表現した方が近い
しかしそんな見た目と裏腹に性格は非常に獰猛。肉食でだいたいのものはペロリと平らげてしまうことからその名が付けられた
発達した嗅覚で獲物を探し、見つけた途端に物凄い速度で近づいてから首を伸ばして食べる。どんなものか分からなくてもとりあえず食べてみる
人からも魔物からしても恐ろしい存在であった
(なるほど。ペロッチュが食い荒らしてたか。けどなんでオッカ丘なんかに?)
ペロッチュの生息域は主に、同様の肉食的な魔物が居ることが多い
それらの魔物が生息していないオッカ丘にいることはどう考えても不自然であった
(どこかから迷い込んだか……。仕方ないがやるしかないな)
運搬士の仕事は迅速な隠密活動が基本だが、時として例外がある
それは地域の魔物のレベルを一定に保つこと
戦うことで戦闘経験を積む者、皮や骨などの素材を使って武器や防具に利用する者、依頼されたから退治する者
自分のため、誰かのためと人が魔物と戦う理由は多岐にわたる
そうした人達が安心出来るよう、こうしたイレギュラーは未然に排除しておく必要があるのだ
その地域にはその地域のレベルがある。ペロッチュはオッカ丘には不釣り合いな程レベルが高い
パナは腰に差した2本の短剣を抜き、慎重にペロッチュとの距離を詰める
視覚ではなく嗅覚で獲物を捕捉するペロッチュにとって、不可視のマントは無意味に近い
(勝負は一瞬……。奴が向かって来た瞬間に首を斬る!)
パナの臭いに気付いたペロッチュはしきりに首を動かして臭いの元を探っている最中だ
精神を落ち着かせるように深い呼吸を繰り返し、その時を待つ
そしてペロッチュが動き出した。パナの居場所を突き止めたのだ
ドスドスと足音を鳴らし、パナ目掛けて一直線に首を伸ばす
迫り来るペロッチュの大口。判断を謝ればあっという間にあの口の中だろう
それでもパナは冷静に、自身の間合いにペロッチュが入るのを待った
(……ここだ!)
腕を交差させ真っ向から迎え撃つ。振り抜いた腕は音速を超え、ペロッチュの口から首の根元までを十字に切り裂いた
あまりの速さに斬られたことすら気づかず、断末魔を上げることなく倒れるペロッチュ
「……ふぅ。緊張した〜……」
時間が止まったかのように腕を振り抜いたまま静止し、ペロッチュが動かないことを確認
そして緊張から解き放たれたパナは大きく息を吐いた
一瞬の命のやり取り。パナは額を伝う汗を拭い、短剣をしまう
その後も見回りを続けたが、大した異常も確認出来なかったので残りの仕事を済ませる
そして倉庫に帰ったパナを待っていたのは、先に仕事を終えたレールとロール、そしてぐったりしたラギルだった
「その様子だとかなり揉まれたみたいだね」
「あっ、パナ先輩。いや、ほんともう死ぬかと思いましたよ。レールさんとロールさん居なかったらどうなってたことやら……」
「なんかちっさい石に躓いてド派手にコケてたよな」
「あったあった! そこで躓く? みたいな場所でコケてたわ!」
ボルフン火山での出来事をレールとロールにからかわれ、次第に顔を赤くしていくラギル
「もーやめてくださいよ! ホントに必死だったんですから!」
「ハッハッハ! これに懲りたら背伸びなんかしないでもっと地道に力を付けるこった!」
イヤというほど自分の力不足を思い知らされたと、落ち込むラギルをレールは励ましながら笑う
「落ち込むことはないよ。誰にだってミスの1つや2つくらいあるし、明日からまた頑張ろう」
「先輩……。俺、もっと頑張ります! もっともっと強くなって、いつか先輩達に追いつきますから!」
失敗の無い人間など存在しない。大事なのはそこから立ち直ること
パナの言葉に力を貰ったラギルは、また明日も頑張ろうと決意した
こうして今日も無事に1日が終わりを迎える
しかしパナは気付いていなかった。いや、気付くはずもなかった
彼が納品したアイテムの1つであるハイパワーアーマー
それはとんでもない悪魔が取り憑いているいわく付きの代物だったことに――




