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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
バンボの村の巻
32/44

記録の31 底抜けのバカ


 私の知らないところでバンボ達はこの村に住む権利を得ていた


 いったい何があったのか。私達は店主の店へと場所を移した


「食いながら話そう。腹減ってるだろ?」


「ありがとうございます」


 店と言っても小さな屋台。こんな大人数が入れるわけもない

 外に大きな机と人数分の椅子を広げ、全員が席に着いた


「また食べられるなんてラッキーね」


 店主から振る舞われたノイメット・ブル・コリオの唐揚げを前にスイは目を輝かせながら言った


 私ももう一度食べたいと思っていただけに、この展開は非常に嬉しい


 先程の店主の口振りから考えるに、気軽にありつけるものでもなさそうだから尚更だ


 だからこそと言うべきか。私の中にある疑問が生まれた


「スイ、お前どれだけ食べるつもりだ?」


「どれだけ……って。もちろん全部食べるに決まってるじゃない。出された物は残さず食べるのが礼儀でしょ?」


 そんなこと分かってる。私だって完食するつもりだからな


 『いただきます』と『ご馳走様』。食事に対して、そしてご飯を作ってくれた者に対して、挨拶も完食も当然の礼儀であることくらいは分かってるんだ


「いや、そうじゃなくてだな。食べ切れるのか?」


 この唐揚げは縦長の紙の器に6個入っていて、それで1人前だ


 器の大きさは私が片手で持てるくらい。子供が持つには少し大きいだろうか


 だが妖精であるスイは例外だ。彼女の身長はこの器と比べて大差ない


 私がひと口で食べられる唐揚げも、スイにとっては両手で抱えるべき大荷物だ


 最初にそれを半分ずつ食べた。そして追加でまた1人前買って半分ずつ食べた


 合計で6個。2人とも丁度1人前食べた


 まだ食べられるのか? その小さな体のどこに唐揚げは消えたんだ? 消化速度が速いとかそういう次元の話じゃないだろ


「当たり前じゃない。変なリッツ」


 あっさりと言ってくれるが私が変なのか? それとも妖精という種族にとってはそれが当たり前とでも言うのか?


「ははっ! 好きなだけ食ってってくれよ! 足んなくなったらじゃんじゃん作ってやっから!」


「やったー! ありがとーおじさん!」


 そうこう考えているうちにもスイはどんどん食べ進めているし、店主もそうは言ってくれるがやはり節度は持たせるべきだ


「あまり食べ過ぎるなよ。太って飛べなくなっても知らないからな」


「そのくらい言われなくても分かってるわよーだ。おじさん、おかわり!」


 人の厚意を余計なお世話だと言わんばかりに舌を出して反抗した上におかわりだと?


 これは上に立つ者として少しばかり注意をしてやる必要があるな


「言った傍からこれか。お前はもっと遠慮というものを知らないとロクな大人にならないぞ?」


「あーやだやだ。説教だなんてオヤジ臭いわー。あなたこそ自分の価値観だけに囚われてたらロクな大人にならないわよー?」


 反省するどころかヘラヘラと言い返すだと?


 ここまで言われてはいくら温厚で有名な私でも黙ってられない。口で言っても無理ならば力で分からせるまで


「よろしい。ならばどちらが正しいか白黒ハッキリさせようか」


「望むところよ。かかって来なさい」


「ストップ! ストーップ! なんで喧嘩してるんですか!」


「落ち着いてください! リッツさん剣しまって!」


 互いに構えた所で異変に気付いたバンボ達とラビトが止めに入ってきた


「止めるなお前ら! この私にここまで悪態を付いたんだ! すなわち覚悟が出来たと受け取った!」


「ムキになり過ぎですって! おい! お前らもっと気合い入れて抑えろ!」


「そんなこと言われてもめっちゃ力強ぇんだよ!」


 4人がかりで押さえ込もうったってそうはいかん

 この程度で屈するほどやわな鍛錬は行っていないからな


「肉体は斬らん! その邪悪な心を斬り捨てるだけだ!」


 私も鬼ではない。この斬魔の剣でスイの悪しき心を斬り、美しい心を取り戻させてやるだけ


 前に魔女のイメスパと戦った時と同じことをするのだ

 あの時のスイは穢れを知らない純粋無垢な瞳をしていて……なんか気持ち悪かったな


 またあんな風になられてもこっちの調子が狂うだけか


 冷静になって考えると私も少し……ほんの少しだぞ? 1割くらいは大人気なかったし、今回は許してやるとするか


「諦めるなお前ら! 今こそ"アレ"をやる時だ!」

「"アレ"だな!?」

「よっしゃやるぞ!」

「ミュージックスタート!」


 頭が冷えたところで、バンボ達が何か企み始めた


 オルトナリアの合図で何処からともなく陽気な音楽がなり始め、皆が小刻みに揺れだす

 ラビトが当然のように加わっているがもうツッコミを入れる気も湧かない


「ちょ……バカ。ここのフリはこうだって」

「いや、こうだろ?」


 そして早くもグダグダだ。揃っていたのはほんの数秒だけ

 フリを確認し合っているが全員意見がバラバラで何が正解か分かったもんじゃない


「おい、いつまで言い合ってんだよ。もう音楽終わるぞ?」

「くっそ! こうなったら最後の決めポーズだけは……」


 そしてデンッ! と力強い音と共に全員が決めポーズ。お察しの通りだが見事にバラバラだ


「もっと練習してこいヘタクソ!!」


「へぶんっ!!」


 唯一自分のペースで踊りきったラビトを除き、バンボ達にはビンタをくれてやった


「うぅ……リッツさんヒドイ……。僕らはリッツさんを楽しませようと思ってやったのに……」


「あぁ。おかげで身も心も冷えきったぞ。感謝する」


「思ってた展開と違う……」


 泣くな。大の大人が4人も揃って。うずくまって泣くな


「さっきから思ってたんだけどよー。お前らほんっとにバカだよなー」


 いつの間にか戻っていた店主はイスに座って頬杖つきながら言った


「私とこいつらを一緒にしないでください」


 いくら恩人と言えど奴らと一括りにされるのはプライドが許さない


「いや、別にけなしてるんじゃねーんだよ。ただ――」


「ただ?」


「心の底からバカだなーって思っただけだ」


「それをけなしてると言わずになんと言うんです?」


 あれか? ノイメットでは同じ言葉でも私の知ってるものと意味が違うのか?


 もしそうだとしたらマズイぞ。ノイメットに着いたらまず語学を学ぶところから始めなければならなくなる


 あまり他のことに時間をきたくはないのだが、ノイメットに寄る以上避けられないかもしれないな


「いや、ホントに違うんだよ。なんつーか……そう! 必要なんだよ! 底抜けのバカが! この村のために! 笑顔のために!」


 頭の整理がつかないまま言葉を発してるせいで文章がまとまってない


 だが重要な部分を抜き出してくれたおかげでなんとなく分かってきたぞ


「分かりますよ。必要なんですよね。底抜けのバカが。この村のために。笑顔のために」


「繰り返してるだけじゃない。あなたちゃんと理解してないでしょ?」


「大丈夫だ。理解してる。完璧にな」


「つられてどーすんのよ……」


 ため息をつくな。相手の言ったことを繰り返すことによって理解を深めようとしているだけだ


「ふっ。だったらスイは理解してるのか? 私以上の完璧な答えを出せるの言うのか? いや出せないだろう」


「おじさん言ってたでしょ? この村の人達は互いを信用出来なくなってるって。今まで通り余所者を突っぱねてたらこの空気はいつまで経っても変わらない。閉鎖的な空間のまま村は衰退の一途でしょうね」


 ふむ……なるほど。ま、まぁまぁわかりやすいじゃないか


「そこに外からドデカい穴を空けられるような人が必要なのよ。ちょっとやそっとじゃ挫けない底抜けのバカが。それがバンボ達ってことでしょ」


 そうそうその通りだな。バンボ達にドデカい穴を空けてな。挫ける必要がないから底が抜けてもバカなんだよな


「バンボ達がその役割を果たせるかは分からない。けど何もしないよりはチャレンジしてみるかって。この村に住む皆が再び笑えるようにって。そういうことでしょ?」


「うおおおっ! まさにそれだ! 俺が言いたかったのはそれなんだよ! ありがとな嬢ちゃん!」


 スイの説明に店主はご満悦の様子


 まぁアレだな。うん。私も同じことを言おうとしてたんだ


「どういたしまして。どう? 何か付け加えることはある?」


 スイめ。私が何も言えないと思ってる癖にわざと振ってきたな?

 だが残念だったな。私は常にお前の上を行く。ここはガツンと言って黙らせてやるか


「エガオ。ヒツヨウ。ムラノミンナ。エガオ。シアワセ」


「…………そうね。それでいいと思うわ」


 ハハッ。ぐぅのねも出ないだろう?


 そんな悲しそうな顔をするな。ハナから結果は分かりきっていたんだ


 だからスイも、バンボ達も、ラビトも、店主も……悲しそうな顔はしないでくれ


 頼むからやめてくれ


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