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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
バンボの村の巻
31/44

記録の30 解決! なんで?


 "信じる"。その言葉を聞いた瞬間、胸の奥につかえていた何かがスッと取れたような気がした


 安堵から大きく息を吐きたくなるのをぐっと飲み込む


 ここで安心してはいけない。何故ならここからが本題なのだから


「ありがとうございます。散々話しておいてなんですが、よく信じてくれましたね」


「全部を信じたわけじゃねぇが……頭ごなしに否定する気にもならねぇ。それに――」


「それに……なんですか?」


「元はと言えば村の奴らが勝手に神だなんだと崇めたのが始まりだ。それを正体知った途端に手のひら返しってのもひでぇ話だろ?」


 店主がそう言うと、村人達は全員罰が悪そうに下を向いてしまった


 きっと皆自覚していたのだろう。初めこそガヤガヤと騒ぎ立てていたが、今となっては誰一人として口を挟む者はいない


「それで……話ってのはこれで終わりか?」


「いえ、今までの話を聞いてもらったうえでお願いがあるのですが――」


「リッツさん。続きは私に言わせてください」


 言葉を遮ってウンボが間に入ってきた

 そこにソボンボ、イルブンボ、オルトナリアも続く


 私はもう慣れてしまったがやはり彼等の姿は受け入れ難いもののようで、ぞろぞろと動き出した変態4人に村人も店主も圧倒されてるように見えた


 正直心配でしかないが、私が仲介するよりも直接自分の言葉で伝えた方がいい


 あとは任せて見守ることにしよう


「どうも。私達、未来の大スターと呼び声高いSQUARE PILLAR BANBOです。以後お見知り置きを――」


「待て待て待て待て」


 ずっと真剣な雰囲気のまま話が続いてただろ。それを一瞬でぶち壊す奴があるか


 本気か冗談か分かりづらい発言のせいで全員困惑してなんとも表現しにくい表情になっているだろ


「どうしました?」


「どうしましたじゃないだろ。要るか? そのなんの参考にもならない情報」


「要るに決まってるじゃないですか! 未来の大スターですよ!? 売れっ子になった際はそりゃもうこの村のことを全世界にアピールしまくりますよ? 村が発展して生活が豊かになれば恩返しにもなるでしょう!?」


 一応真面目にこの村のことを考えてはいるみたいだが、話が飛躍し過ぎて現実味を欠片も感じない


こころざしは立派だが将来の話は一旦置いておけ。恩返しならもっとすぐに出来ることがあるだろ」


「……そうですね。流石に気が早過ぎました」


 凄まじい勢いで迫ってくるウンボを落ち着かせるが、正直まだまだ不安でいっぱいだ


 このまま黙って続けさせてたら何をしでかすか分からん


 早々に誓いを破ってしまったが見守るなどと優しいことは言わず、ガンガン口出ししていくことにしよう


「では僕らの歌を聴いてもらいましょう!」


「なんでそうなる! ってかどこから楽器出したんだ!」


 言わんこっちゃない。油断も隙も、大人しくしてる暇さえも与えてくれやしない


 いつの間にか楽器を手にして演奏を始めようとしていたとこを止めて詰め寄る私に、ウンボは遠くを見つめながら答えた


「自分らミュージシャンですから。やっぱ想いを伝えるには音楽これが1番かな……って。いや、音楽これじゃなきゃ伝えられないな……って」


「それっぽく語るな! 気取るな! ラビトもタンバリンを置け!」


 くそっ! バンボ達だけでも大変なのにラビトまで加わってくるとはいよいよ収拾つかなくなる可能性が出てきたぞ


 好き放題に場を掻き回して村人の逆鱗に触れる未来が容易に想像出来る


 ここは何としてでも軌道修正をしなければ。その為にはどうすれば――


「リッツさん!」


「なんだ!」


 まだ考えてる途中だというのにイルブンボが邪魔してくる。ロクなことにならないと思いつつも返事してみるが――


「歌がダメなら詩はどうでしょうか!」


「なんで普通に喋ろうという発想が出てこないんだお前らは!」


さが……ですかね。ミュージシャンって奴はみんな口下手でね。思ってることの1割も言葉に表せないんですよ。けどね、歌なら――」


「それはさっき聞いた! そしてラビトは早くタンバリンを置けェ!」


 あっちに構えばこっちがボケるの繰り返し。こいつら本当に受け入れてもらう気はあるのか?


 こんなことばかりしてては村人達からの印象は悪くなる一方だろう


 悔しいがここはスイの手を借りて2人がかりでやるしか――


「スイ。なにがおかしい」


 人が苦労しているというのにニコニコと笑いおって

 もしや私の苦しむ姿を見て愉快愉快と思っているんじゃないだろうな?


「えっ? なにが?」


「なにがじゃないだろう。なぜ笑ってるのかと聞いてるんだ」


「あー、ごめんなさい。こうして賑やかにしてるの見てたらなんか……平和だなーって思って」


 何を言ってるんだこいつは。このドタバタを見てそう言ってるなら、辞書で『平和』という単語を調べて100回読んでもらいたいな


「平和なわけあるか。こっちはバカ共の相手で大忙しだぞ」


「それが平和なの。リッツにはちょっと難しいかしら?」


 スイはクスクスと笑う


 聞き捨てならないな。そりゃあ私にだって分からないことのひとつやふたつはある


 しかしスイに分かって私に分からないことなどない。あったとしても大した内容じゃないに決まってる


 せいぜい『実は食べられる美味しい魔物』くらいの無駄知識だろう


 こいつに遅れを取るのは絶対にあってはならない。何故なら今後の上下関係に大きな影響を及ぼすからだ


 それだけは避けなければ。正直なにが平和なのか分からんがここは同調しておくとしよう


「いや……わ、分かるぞ。平和だな……。そう! 平和以外の何物でもないな!」


「ふーん……ホントに分かってる?」


「何度も聞くな。分かってると言ったら分かってるんだ」


「じゃあそういうことにしておくわね」


 今度はニヤニヤと。いったいいつまで笑えば気が済むんだろうか


「リッツさん! ちょっと聞いてくださいよ!」


 しまった。スイと喋っていたせいでバカ共から目を離してしまっていた


 今度はオルトナリアか。きっとまたくだらんことを閃いたんだろう


 そろそろ我慢の限界だ。次ふざけたら引っぱたいてやろうかと考えた時だった


「僕らこの村に住んでいいって!」


「なんでだぁぁぁぁ!!」


 自分の目と耳を疑った


 目を離したと言っても僅かな時間だぞ? その間になにが起こったんだ?


 未だに村人達はよそよそしい雰囲気のままだ。とてもバンボ達を受け入れたとは言い難い


 なのに何故? 疑問だらけでもうなにがなんだかで混乱している私に店主が近付いてくる


「詳しいことは俺の店で話そうか」


 言われるがまま、私達は店主の店へと場所を移した


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