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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
バンボの村の巻
29/44

記録の28 見た目も中身も人として大事なこと


 バンボ達をバンボの村に受け入れてもらうにはまず、村人を説得し許可を貰わねばならない


 しかしあちらは話を聞く気などさらさらないようで、終いには『出て行け』とまで言われる始末


「何故だ!? 少しくらい聞いてくれてもいいだろう!」


「そんな変な格好した奴らの話なんてロクなもんじゃないに決まってる!」


 人は見た目ではなく中身が大事。そんな言葉を耳にする機会は多々ある


 だからと言って中身が全てという風には言い切れない。それが正に今の状況を表している


 どれだけ清く正しく生きてきた人間でも、みすぼらしい格好をしていればそれだけで他人からの評価は落ちる


 反対に狡く汚く生きてきた人間でも、清潔を保ち美しく着飾っていれば少しばかり評価は上がる


 人間が目から得る情報は非常に多い


 中身がどうこう言う前にまずは、見た目という壁を突破しなければスタートラインにすら立てないということだ


「私の格好は普通だろう? そんな邪険にしないでもよくないか?」


 しかし私はバンボ達とは違い普通のはず。少なくとも変と言われる筋合いはない


「お前もそいつらの仲間なんだろ!? だったら変な奴に決まってる!」


 見た目が怪しいバンボ達はともかく、普通の格好をした私の話ならば耳を傾けてくれると思っていた――思い込んでいた


「迂闊だった……バンボ達のせいで私まで変な奴扱いか」


「まぁあながち間違いじゃないでしょ。そんな落ち込まないでよ」


 うるさいぞスイ。他人事のようにしているがお前だって変人こっち側にカウントされてることを忘れるなよ?


 いったいどうすればいい。このままでは話が進むどころか始まりすらしない


「リッツさん。ここは私に任せてください」


 そこにやってきたのは思わぬ助け舟。バンボ達の影からひょっこり現れたのはラビトだった


「ラビトか……なんか久しぶりだな」


「ずっと一緒にいましたよね?」


 確かにそうなんだが何故だかそう思ってしまったのだから仕方ない


 決して影が薄いとかそういうことを言いたいんじゃなくてだな……いやいや、こんな時になんの言い訳だ。今はそんなことしてる場合ではない。話を戻そう


 ラビトはこの村の住人だ。私よりはずっと村のことを知っているし逆もまた然り


 村人とも面識はあるし話も通りやすいだろう


 出会った時は怯えてばかりで頼りなかったのに、今はその背中が頼もしく見えて仕方ない


「すまない……あとは頼むぞ」


 悔しいが今は私よりもラビトの方がずっと適任だ


 任せろと言わんばかりに親指を立てて笑うラビト


 ん? なんか前にもこんなやり取りをしたような気が――


 そう思ったのも束の間。村人達はどよめきながら全員が2歩3歩と後ずさりを始める


「ラビトだ……」

「赤い爆輪事件のラビトだ……」

「やり過ぎ大賞受賞者のラビトだ……」

「目を合わせるな! 殺されるぞ!」


 あちこちから上がる聞き慣れないが恐らく物騒な意味であろう言葉の数々


 やがてラビトを先頭に私達と村人達の間にポッカリと大きな空間が出来上がった


「……ラビト。これはいったいどういう事だ?」


 この状況、さすがに黙って見過ごせる訳もなくラビトに尋ねる


 すると彼女はこちらに振り返り、困ったように笑いながら言ったのだ


「どうも。赤い爆輪事件でやり過ぎ大賞を受賞したラビトです」


「そういうことを聞いてるんじゃないんだよ!」


 赤い爆輪事件とかやり過ぎ大賞とか意味不明で聞きたいことは沢山ある


 しかし今はそんなことを気にしている場合ではない


 唯一村人との架け橋になる可能性があったラビトが1番変な奴……というかヤバい奴だった


 断ち切れた。希望の糸は完璧に断たれ、村人達からのイメージは地の底に落ちたも同然


 騒ぎを聞きつけたのか人集りはさっきよりも大きくなっており、皆が皆冷たい視線をこちらへ突き刺してくる


 こうなってしまっては私達の話を聞くどころか、一刻も早くここから消えて欲しいと願う者しかいないだろう


「ちょっとあなた達ねぇ!? 否定ばっかしてないで少しは歩み寄ろうって姿勢は無いわけ!?」


 村人達の態度に我慢ならなかったのか、スイが声を荒げて激怒する


「ないね! 話は終わりだ! とっとと消えてくれ!」


「この……ッ!」


 スイは小さな拳を力いっぱい握りしめ、今にも殴り掛かりそうだ


 しかし力で解決するのが一番の悪手だと理解しているのだろう。握った拳を必死に抑えて怒りを堪えている


「リッツさん、スイさん。もう充分です。ありがとうございました」


 これ以上は悪化する未来しか見えないと、ここらが引き際と悟ったのだろう


 ウンボバンボは私の肩に手を置くと、諦めたように首を横に振った


「しかし……お前らが望んだことだろう? そんな簡単に諦めて――」


「こちらが望んだところであちらに望まれなければそれはただの押し付けです。元々勝手に流れ着いた身……我々はまたどこかへ流れて行くとします」


 そう言って去ろうとする背中を、引き留めようとした


 諦めるなと。まだ何か方法があるはずだと。もう少しだけ頑張ってみようじゃないかと


 しかし体は動かず、声も出なかった


 頑張ったところで何か変わるのか? 方法はあるのか? 諦めないなんて言うだけなら簡単だろう?


 後ろ向きな考えばかり頭の中に浮かび、まとわりついて離れない


 それでも必死に考えてみた。だがどうすることも出来なかった


 ウンボバンボの言う通り、もうここらで引き上げるのが正しいか


「なんだなんだぁ? 騒がしいと思って来てみりゃ、みんな何して――っておおっ! さっきの兄ちゃんと嬢ちゃんじゃねーか」


「……あなたは」


「唐揚げの屋台のおじさん!」


 人混みを掻き分けて来たのは、私とスイが立ち寄った『ノイメット・ブル・コリオの唐揚げ』の屋台の店主だった


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