記録の27 どうする?
長年に渡る4人のバンボの喧嘩は終わりを迎え、彼等の住処であったバンボの塔も終わりを迎えた
崩壊し瓦礫の山となった塔を前に立ち尽くす私達
協議の結果、とりあえず村に戻ろうという結論に至った
「ねぇリッツ、巾着光ってない?」
「む? 本当だ」
スイに言われ巾着袋をまさぐってみると、光の正体は小さな宝石であることが分かった
「これはたしか……スイからもらったやつだったな」
「そうね。でもなんで急に……?」
「あれ? なんかあの辺も光ってませんか?」
そう言ってソボンボバンボが瓦礫の山の一部を指さす
その先には確かに光が漏れ出している箇所があった
「気になるな……。確かめてみるか」
共鳴するように輝きを放つ2つの光。これにはきっと意味があるはずだ
「えー……。確かめるったってめちゃめちゃ時間かかるわよー……?」
スイが文句を言うのも無理はない。瓦礫の山というのは比喩なんかではなく、本当の山になっているのだから
今までまったく触れてこなかったが、塔と呼ばれてただけあってその高さはかなりのものだった
即ち塔を形成していた石材やら木材やらだって凄まじい量が使われている
それが全て崩れたのだから、そりゃあ山の1つくらい簡単に出来上がるのも頷ける
光が漏れているのは山の中心辺り。そこまで行くには足場の悪い瓦礫の上を進み、更にそこから積み上がったそれらを退かさねばならないのだ
「フッ、こんなもの10秒もかからん。そこで指を咥えて見てるがよい」
しかし前述したのはあくまで"普通の人間"だったらの話。この程度の山など私ならば一振りで消し飛ばせる
出番だ、ハリセンよ。私の力に応えるのだ
たとえ材質が紙であろうがこの私が使えばこんな瓦礫の山だろうが一瞬で――
「あれ? なんかこっちに近づいて来てません?」
「本当ね。あーきたきた。なんか自分で出てきたわ」
なんと光は意志を持っているかのように自ら動き、私の巾着袋目掛けて飛び込んで来たのだ
光の正体は見覚えのある小さな宝石。私の持っている土色の宝石と同じ形だが、これは雷のような黄色に煌めいていた
「ブフッ……! いやー、リッツの言う通り本当に10秒もかからなかったわねー」
「……笑うな」
「いや、その、ごめんなさい。リッツが真面目にやろうとしてるのは分かるんだけど……面白くって……」
だったらまずはなんとしてでも笑うのをやめて欲しい
確かにハリセンを振りかぶったままの私の姿は滑稽に見えるかもしれない
イキった結果がこれだと思うと尚更面白く映るかもしれない
しかしだ。やろうとした姿勢だけは認めて欲しい
結果がどうこうじゃなく過程に意味があるのだと。やってみようと努力、挑戦する。そういう気持ちがなによりも大切なことなんだと。私はそう言いたい
決して恥ずかしいとかじゃない。ただ誰かを認め、尊重することで世界はもっとより良い方向に進み、今日のご飯は美味しいなとか明日はどんな1日になるかなとかなんかそんな感じで楽しい毎日が――
「……リッツ? あれ? もしかして泣いて――」
「泣いてない」
「いやでも涙が――」
「泣いてない!!」
「あぁ……そうよね! ごめんなさいね変なこと聞いちゃって」
最強の剣士は涙など流さない。なぜなら最強だからだ
悲しいなどという感情は故郷に置いてきたのだ
しかし何故だろう。今日の夕焼けはやたらと目に染みるな
「ところで、あなた達はこれからどうするの? 家無くなっちゃったでしょ?」
バンボの村に戻る道中でスイが言った
住処にしていたバンボの塔が壊れてしまった以上、奴らも新しい家を探さなくてはならない
「可能ならば村に住ませてもらおうかなと思ってます。なんかご馳走になってたみたいですし、村の皆さんには何か恩返しがしたくて」
ウンボバンボそう答え、他の3人も同意といった様子で頷いている
「なるほど。まぁそれがいいだろうな」
全く意図してなかったとは言え、バンボ共が実際に村を悪霊から守っていたのは事実
そのお返しに村人も供物を捧げていたのだから、双方に利があったのは間違いない
頭のネジは少しばかり足りないようだが、今の答えから分かるように根はマトモ
喧嘩していた時期もあったが、これまでのやり取りを見るに仲間想いなのも分かった
そんな奴らならきっと、村のために色々と尽くすようになるだろう
「ねぇリッツ。そんなすんなりいくかしら?」
話はまとまった。しかしスイは何か不安を抱えているようで、心配そうに耳打ちをしてくる
「心配するな。いざという時は私が村人を説得するさ」
「めっずらしー。リッツのことだから『ふん! 私の知ったことではない』とか言って見捨てると思ってた」
「そのヘタクソなモノマネをやめろ。村で受け入れてもらえないからついて行くなんて言われたら困るってだけだ」
これでも一応僅かばかりの……本当に微かな、小指の爪くらいの借りがある
奴らの協力無しにあの悪霊を倒すことは出来なかった……かもしれないからな
それに見た目は酷くとも悪い奴らではない。村人達と馴染むのにもそう時間はかからないだろう
見た目は酷いがな
「もー。素直じゃないわねー」
呆れたように言うスイのことは無視して私達はバンボの村へと向かう
そんな私達を待っていたのはまるで、化物でも見るかのような村人達の姿だった
「おい、なんだよアイツら!? 服着てねぇぞ!」
「頭おかしいんじゃねーのか!?」
「いやぁぁぁ!! 変態!!」
どうやらバンボ達のことを見て驚いているようだ
あちこちから上がる悲鳴や罵声の数々は聞いていてあまり気持ちの良いものではない
だが奴らに原因がある以上、あまり強く言えないのも確か
「お、おい。なんかキャーキャー言われてるな」
「っちゃー! やっぱ分かっちゃうかー!」
「ちゃんと変装してくるべきだったな」
「どうせしたってすぐバレちまうよ! 有名人ってオーラ出ちゃってるんだからな」
どうしたものかと悩んでいたが杞憂だった。なんとも素晴らしい耳と頭をお持ちのようだ
「やっぱりこうなったかー……。ほらリッツ出番よ。説得してくれるんでしょ?」
「ああ。任せておけ」
ここまでは想定の範囲内。全く問題はない
奴らが如何にこの村の役に立っていたか。そしてどんな人物なのか説明してやれば村人の誤解も解けてあっさり受け入れてくれるだろう
「騒がせてしまってすまない! 申し訳ないが少し私の話を聞いてもらっていいだろうか!」
騒ぎ立てる村人達の前に立ち説得を試みるが――
「お前らと話すことなどひとつもない! とっととこの村から出ていけぇ!」
……なるほどそうきたか
 




