記録の25 友情パワー
目の前で繰り広げられるリッツと悪霊の戦闘
それを見つめるスイはある疑問と違和感を抱いていた
(なんかすっごい真面目に戦ってるんだけど……)
それは彼等の戦いがあまりにも普通であったこと
両者一進一退の攻防。実力が拮抗するもの同士、この戦いは長引くであろうことを予期していた
(いや、なにもおかしいことはないんだけど……ないんだけど! そうよね! 普通魔王の手下ともなればその辺の魔物と違って強いに決まってるし、リッツも真面目にやらないと勝てないのよねきっと……)
スイも理解している通り、彼等の戦いにおかしいことなどなにひとつない
突然だがここで、過去にリッツがどのような戦いをしてきたのか振り返ることにしよう
スイと出会った時に現れた武装した男達。そしてテンフの村で攫われた若い娘を取り返す為に戦った盗賊達
リッツは彼等をオーバーキルしてそれをスイが仕方なく回復させた
魔女のイメスパと戦った時、リッツは彼女の策略に煩悩を刺激されたり鼻血を垂らしたりと苦戦しつつも斬魔の剣で勝利
カラメ洞窟での魔物との戦い。リッツは覚えていないが、露麗魂との共闘で圧倒的な数と力で勝利を収めた
リッツ自身はいつだって真面目に戦ってきた。しかしいつだってそこにはスイのツッコミがあった
一心同体。表裏一体。ボケの傍にはいつだってツッコミが存在している
しかし今はあまりにもまともな戦闘が行われているため、スイもツッコミを入れることが出来なくなっているのだ
(ちょっとやめてよ……。このままじゃジャンル変わっちゃうじゃない……。いや、やめなくていいんだけど……あーもうわかんなーい!)
スイは1人で混乱していた。この場はどうするべきなのか。今後どのようにしていけばいいのか――
(いっそ私も妖精らしく振る舞うべきなの? なんか特殊な力とか目覚めさせてリッツの相棒みたいなポジションにつくの? ……いやー、絶対ムリだわ)
なんかしらの能力に目覚めた自分がリッツと共闘したり、力を分け与えたりと様々な未来を想像してみたが絶対にありえないと首を横に振る
あの悪霊は倒さねばならない。しかしこのまま戦いが続けば何かが狂ってしまう気がする
1人葛藤する間にも彼等の戦いは激しさを増していく
「スイ! ここは危険だ! 皆を連れて外へ逃げろ! 巻き添いをくらうぞ!」
「グワハハハハ!! そんなことさせると思うか? 貴様らはここで皆殺しにしてくれるわ!」
互角に見えた戦いはいつの間にか悪霊が優勢になっていた。両手から光線を放ちリッツを追い詰めていく
リッツも斬魔の剣で応戦してはいるが、なかなか距離が詰められず防戦一方の状態
彼等のいる大広間全体が戦場となり安全な場所などどこにも無い
このままでは全員が巻き込まれてしまう危険があると判断したリッツは、スイに避難するよう指示を出した
「え? えぇ……あぁ……うん。リッツは大丈夫なの? 結構苦戦してるみたいだけど……」
「あぁ、問題ねえ。なんでだろうな……あんなに手強い奴が相手でピンチだってのにオラ……なんだかワクワクしちまってんだ」
(あっ、これ大丈夫なやつね)
リッツと悪霊からとある"何か"を感じ取ったスイは今後の展開に支障はないと察した
(けどもう一押し……この空気をぶち壊す決定的な何かが欲しい!)
2人は勝手に盛り上がってくれている。あとはその背中をそっと押してあげるだけで全てが元通りになると信じていた
そしてそのきっかけになったのが、意識を取り戻したバンボ達であった
「ねぇ! あなた達なにしてるの!?」
「あ、あぁ……状況はよく分かんないけどアイツ悪いやつなんだろ?」
「なんか俺達のせいみたいなとこもあるし……せめて力になれないかなと思ってさ」
「私達に戦う力はありませんが……想いを届けることは出来ます」
「この音楽で!」
どこから引っ張ってきたのか分からないが、バンボ達は各々楽器を手にしていた
ギター兼ボーカルのウンボバンボ
ベースのソボンボバンボ
ドラムのイルブンボバンボ
キーボードのオルトナリアバンボ
彼等は頑張るリッツの為に歌うことを決めたのだ
「わ、私も頑張ります!」
そこにタンバリンを持ったラビトを加え、完璧な布陣が出来上がる
(これだーーーーーー!!)
答えはすぐそこにあった。こんなイカれたメンバーは世界中どこを探しても存在しない
「よーしやったれお前らぁぁぁ!!」
彼等ならきっとやってくれると確信したスイは迷いのないGOサインを出す
「それでは聴いてください。SQUARE PILLAR BANBO with Rで『友情パワー』」
不安な気持ちにさせるリズム、耳障りな歌声、時折響くタンバリンらしからぬ爆音、バラバラな演奏に一体感など皆無
しかしこれで良かった。真面目な空気をぶち壊すにはこれくらいやらなきゃ足りないというもの
演奏が進むにつれて5人を謎の光が包み込み、恐らくサビであろう部分でそれは起こった
彼等の発する光がリッツへ届き、彼の体も同様に光に包まれる
「な、なんだこれは……。力が……溢れてきやがるぞ……」
謎のオーラを纏ったリッツは宙へ浮かび上がると、凄まじいスピードで悪霊を殴り飛ばした
「ぐ、ぐぐ……おのれ〜。なんだその力は……」
未知の力。一瞬のことで殴られたことに気付くのすら遅れた悪霊はリッツを見上げて歯を食いしばる
「どうした? もう終わりか?」
「舐めるなよ小僧!」
挑発された悪霊も負けじと全身からドス黒いオーラを放ちリッツへ向かっていく
空中で繰り広げられる光速の攻防。僅か1秒の間に何十発と行われる殴る蹴るの応酬
白と黒の塊が空中を飛び交い、ぶつかっては離れてを繰り返す
辛うじて目で追うことは出来るものの、何が行われているのか――常人には理解することすら不可能となっていた
一発一発撃ち合う度に衝撃波が生まれ塔を揺らす。それでもバンボ達もラビトも演奏を止めることはなかった
あの悪霊に対抗出来るのはリッツだけ。なら今は自分達にしか出来ないことをただやり続けるだけなのだ
「その調子よリッツ! けどあなた剣はどこやったの!?」
先程から響く音は剣によるものとは到底思えないほど鈍くて重い
それもそのはず。リッツは武器を捨て、己の拳のみで殴りあっているのだ
「ッりゃあっ!!」
「ぐふぅ!!」
拮抗していた戦いに崩れが生じたのは、歌が終わりを迎え始めた頃だった
リッツの攻撃は的確に悪霊を捉えているのに対し、その逆が無くなってきたのだ
なんとか体勢を立て直し反撃に移る悪霊だが、リッツは瞬時に彼の背後に回ることで回避。そこからの追撃
「ぐぬぬぬぬ……これならどうだーーーーっ!!」
大きく距離を取った悪霊は両手に黒いオーラを集中させていく
「おもしれぇ……望むとこだーーーーっ!!」
リッツも同じようにオーラを集中させる。その瞬間、この場にいる全員がこれで決着がつくことを確信した
「オオオオォォォォッ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁッ!!」
両者の全力を込めて放ったオーラがぶつかり合う。パワーは互角、ここからは気力の勝負になるだろう
相手よりも勝利を渇望することこそがこの戦いを制する為の条件
(くっ! ヤベぇ……。腕がちぎれちまいそうだ……)
既に力は出し切り限界が近い。このままだと押し切られてしまう
そんなことは百も承知なのだが、どうしても突破するのが困難
ここで諦めてしまえば楽になれるのではないか。彼らしくない弱気に心が支配されかけた時だった
「がんばれリッツ!」
「負けるな! がんばれ!」
「あなたがやらなきゃ誰がやるのよ!」
聞こえてきたのは皆の応援だった。リッツの勝利を強く願う気持ちが彼の耳へと届いたのだ
(そうだ……。ここで諦めちまったらオラだけしゃねぇ……みんなも殺されちまう。そんなこと……させてたまるかぁぁぁぁ!!)
想いは力となりリッツのオーラを何倍にも増幅させる。それにより少しずつではあるが、リッツのオーラが勝り始めたのだ
「おのれぇぇぇ!! この私が! こんな奴らなどにぃぃぃぃ!!」
「くらえ! これがオラ達の――」
「友情パワーだぁぁぁぁ!!」
全員の叫びで更に力を増したリッツのオーラが悪霊のオーラを押し切った
白い光に飲み込まれた悪霊は跡形もなく消え去り、こうして世界と世界観の未来は守られたのであった




