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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
バンボの村の巻
22/44

記録の21 episode of BANBO ~第一章~


 この街に帰ってくるのは何年ぶりだろう。思えば俺がこの街を出てったのもこんな風に小雨の降る夜だったっけか


「これも何かの運命――いや、神様のイタズラってやつかな」


 そんなことどうでもいい思いながらも、俺の顔は不思議と笑っていた


 おっと自己紹介が遅れちまった


 俺の名はウンボバンボ。こう見えてミュージシャンさ

 と言ってもまだまだ駆け出しのヒヨっ子なんだけどな


「変わらねぇなぁ……相変わらずドブ臭のする腐った街だぜ」


 広い世界を見れば自分の音楽活動に何か新たな刺激を得られるのではないか

 そう考えた俺が親や仲間の制止を振り切りこの街を飛び出したのもとっくの昔の話


 懐かしいという感情はここまで人を狂わせてしまうのか。かつてあれだけ嫌っていたこの街の臭いが、なんだか今は妙に恋しくて仕方ない


 街の景色を楽しみ思い出に浸りながらも、俺の足はある場所を目指して真っ直ぐに進んでいた


「おう、ウンボじゃねーか」


 木製の扉を開けると、扉に付いた鈴がチリンチリンと癒しの音色を奏でる

 そしてその向こうに広がる景色。ここもやはり昔から変わりなかった


「久しぶりだな、マスター」


 ここは『BAR BANBO』。俺を出迎えてくれたのはいつも仏頂面ながらもなんだかんだ面倒見のいい男。つまりこの店のマスターだ

 マスターには昔っから世話になりっぱなしでな。俺の第二の故郷と言っても過言じゃない


「久しぶりってお前、三日前にも来ただろ」


 余計なことは言うもんじゃねぇぜマスター


 そんなこと言われたら俺が旅に出てから僅か一週間でホームシックに陥り、戻ってきたと思えば碌に働かずニートしてることがバレちまうじゃあねぇか


「で、今日は何の用だ? 金のねぇ奴に飲ます酒はねーよ」


「アレひとつ頼むよ。出世払いで」


「はいはい。しょうがねーなー」


 背負っていたギターケースを壁に立て掛けてからカウンター席に座って"いつもの"を注文する

 このやり取りももう定番となっていた。例えるなら熟年夫婦が『おーい』とか『ん』とかで会話を成立させてしまうあれだ


「ほれ、バンボスペシャルだ」


 ふふっ、これもまた変わらない。カルーアミルクが飲みたいのにいっつもこのバンボスペシャルとかいう超苦い酒を出してくるところも――


 何もかも変わらない。いつだってこの街は俺みたいなはみだし者でも受け入れてくれる


 しかし、今日はいつもと違う所が一つだけあったのだ


「マスター。あの兄ちゃん新しいスタッフか?」


 カウンターの端で静かにグラスを拭いている男の姿が目に入ったのだ


「ん? おぉ、そうだよ」


「珍しいな。あれだけ一人に拘ってたのに」


 以前マスターに『一人で大変じゃないか』と尋ねたことがあった


 『ここは俺の城だ。部外者を入れるくらいなら畳んじまった方がマシだよ』


 それがマスターの返答だった。そんな彼が人を雇うなんてどういう風の吹き回しだろうか


「こないだ、お前が帰った後のことなんだけどな。ゴミ捨てようと外出たらボロボロのこいつがゴミ箱漁っててよ。なんか放っとくのも気分悪ぃからウチで働かせてんだ」


 とゆーことはこの男はまだ働き始めて間も無いのか。その割には制服もバッチリキマってるし、作業も手馴れてる


「なるほどな……まぁいいんじゃねーの? 馬面マスターだけよりイケメンが居た方が少しはこの店にも花が咲くだろ」


 なにより彼の整った顔立ちは見る者全てを引き付けるだろう

 この店が女性客で溢れる日もそう遠くはないことを俺は確信した


「ハッ、悪かったな馬面で。ってゆーかお前も俺と大して変わんねっつーの」


「ハハッ、ちげーねぇ」


 ちょっとした意地悪を言ってやったが言い返され、俺もマスターも二人して笑った


「なぁあんた。名前は?」


「……ソボンボバンボっす」


 俺の問いかけに奴は静かに答えた


 イケメンだからってスカしやがって。この時はそんな風に思ったし、俺のソボンボバンボに対する第一印象はあまり良いものではなかった


 それから一ヶ月後


「おー、相変わらず大盛況だな」


「ようウンボ。おかげさまで毎日忙しくてたまんねーや」


 俺とソボンボはすっかり打ち解けていた。これはマスターから聞いた話なのだが、奴は人見知りが激しいらしい


 初めはあんな態度だったが何度も足を運ぶうちに互いのことを話したりと、俺たちが親友になるまでそう時間はかからなかった


 なにより一番のきっかけになったのは俺が担いでいたギターケース

 どうやらソボンボも楽器が趣味らしく、ある日奴の方から話を振ってきた時は非常に心が踊ったことをよく覚えてる


「ホント。どっかのイケメンくん目当てに女が集まってきてたまったもんじゃねーよ。ここの看板は俺なんだぞ?」


「ハハッ、すんません」


 そう言ってソボンボをからかうマスター。顔は相変わらずの仏頂面であったが、その口元は僅かに緩んでいた


 昔は俺しか知らない秘密基地のような店だったのに、いつの間にか騒がしくなったもんだ


 マスターもソボンボも隙を見ては俺の相手をしてくれるが、やはりいつも忙しそうでどこか寂しさを覚え始めていた頃――


「なぁ、俺とバンド組まねーか?」


 いつものようにソボンボと音楽業界の未来について話し合ってた時、見慣れない奴が話しかけてきた


 それがイルブンボバンボとの出会いだった


 楽器に触るだけで実は全く弾けなかった俺とソボンボだが、奴の純粋で真っ直ぐな瞳に惹かれちまいすぐさま首を縦に振った


 その後、もともとイルブンボと友人関係にあったオルトナリアバンボを加えて俺達『SQUARE PILLAR BANBO』の音楽活動が幕を開けたのだ


 これからの音楽業界を背負って支える四本の柱なんて最高にイカスだろ?


 他にも『UMERworld』とか『BAfume』などが挙がりバンド名決めは難航したが、一番俺達らしい答に辿り着けたんじゃないかと思っている


 時にはぶつかり合いながらも必死で練習し、緊張の中行った初めての路上ライブでは生卵をぶつけられたりもした


 決して楽しいことばかりではなかった。辛いこともたくさんあった。けどその時は仲間同士で助け合い、支え合い、どんな困難だって乗り越えてきた


 みんなとバンドを始めてから俺の生活は充実していたし世界は輝いて見えた


 そう、あの事件が起こるまでは――


――――――


「なぁ、おい」


「ん? どうしました?」


「いや、どうしたもこうしたも……この話まだ続くのか?」


 一旦場面を戻すのだが、私たちは何故かこいつらの昔話を聞かされている


「まだ続くのかって……貴方が聞いてきたんじゃないですか」


「いや、まぁ、それはそうなのだが……」


 確かに聞いた。どうして揉めてるのかと聞いた

 しかしまさか昔も昔、こいつらの出会いの部分から聞かされるなんて誰が予想出来ただろうか


 『足の痺れが治るまでこのまま待ってるのもつまらないじゃないですか! 申し訳ないけどこのまま話させてもらいますね!』なんて奴の言葉に乗っかったのが間違いだった


 うつ伏せで延々と喋り続けるウンボバンボの姿が非常にシュールで面白かったのは認める

 とゆーかこいつもう治ってるだろ。普通に歩き回ってるぞ


「でしょ? ほら、続きいきますからよく聞いててくださいね!」


「……うむ」


 なんかもうここまで聞いてラストを聞かないとそれはそれでものすごく消化不良だし……

 これは最後まで奴の話に耳を傾けるしかなさそうだ


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