記録の1 リッツ 魔王討伐の命を授かる
世界が戦火に包まれ人々が争いを繰り広げていたのも今となっては昔の話
このテッセ王国はそんな争いの時代を生き抜き今や世界最大規模を誇る王国へと発展し人々は平和な日々を送っていた
王国を守る為に育てられた騎士達は今日も元気に鍛錬に励む
そしてその一員である私、リッツは本日国王様よりお呼び出しを受けたので朝一番にお城へ向かう……はずだったのだが
「クソッ! 何故だ!? 何故こんな大切な日に限って私は寝坊などしてしまったのだ!?」
寝坊してしまったのだ
人生において初めての出来事にわたしの頭は混乱しっぱなし
想像してみてほしい
眩しい朝日を受けて目を覚まし、時計を見た時の絶望を
まず自分の目を疑うべく時計を二度見する
そして時間が間違っていないことを知ると全身の血の気が一気に引く
そして一言呟くのだ
やってしまった、と
家からお城への道を必死で駆け抜けたがその努力も虚しく到着したのは約束から一時間も遅れてのことだった
「国王様! 遅れてしまい申し訳ございません!」
「おおやっと来たかリッツよ。待っておったぞ」
階段の上の豪華な玉座に座り私を見下ろしているのがこのテッセ王国の国王様だ
時々寒いダジャレを言うことを除けばタヌキのようなマスコット的おじいさんでその人柄の良さから国民の信頼も厚い
そしてその隣に座っているのが女王様
年齢は国王様と同じくらいなはずだかいつまで経ってもその美貌は衰えず常に気品に溢れている
正直イケル
何がとは言わないがイケル
「ところでご要件は何でしょうか? 私のような一端の騎士がこうして国王様の前にいるのも恐れ多いのですが……」
「そう謙遜するなリッツよ。お前は剣闘大会の連続優勝者ではないか」
私は5歳の頃から父に剣を教えられ今年ではや15年になる
そしてこの国で毎年行われる剣闘大会。騎士達が己の力を競う1VS1のガチンコ勝負なのだが5年前から私が連続で優勝を飾っているのだ
自慢する訳ではないがテッセ王国で1番の実力を持つと言うことは世界でも1番の実力があるということに等しい
この国には昔から『テッセを制する者は世界を制する』という言葉があり私も色んな人からそれをよく言われてきた
つまり世界最強の騎士と言っても過言ではないのだ
ということはそれを見込んでの呼び出しなのだろうか?
国王様の側近になれとでも言うのだろうか?
それならば非常に光栄な話だ。国王様に認められたとなれば父も母も泣いて喜んでくれる
私は期待に胸を踊らせながら国王様の言葉を待った
「では本題に移ろう。まずこの国の外には何がうろついているか知っているな?」
「はい、魔物です。ですから私達は奴らに負けない力を付ける為に日々鍛錬をーー」
そう。この国の外には魔物と呼ばれる恐ろしい生物が蔓延っているのだ
奴らは町や村を襲い人々を苦しめる
なのでいつ魔物が攻めてきてもいいようにテッセ王国では優秀な騎士の育成に常々励んでいるのだ
「そうだ魔物だ。奴らの被害は昔と比べて増えている。他所の国から得た情報では先月だけで18件もの被害があったらしい」
おかしいな。側近の話からどんどん逸れている気がする
とゆーかこの国王様、本題と言ったか?
「魔物が活発になるのもその根源である魔王の力が関係している。魔王を倒さねば世界に平和は訪れないのだ」
なるほど。あまり気乗りしないがその先が読めてしまった
「リッツ! お前に魔王討伐の任務を命じる! テッセ王国最強の剣士であるお前が世界に平和をもたらすのだ!」
やはりそう来てしまったか。外の世界など触れたこともない私がそんな大層なことを出来るかと不安でいっぱいだ
しかし国王様直々の命令だ
騎士としてこれ以上光栄な話などない
「国王様からの命、この命を懸けて全力で果たして見せましょう」
「うむ。お前ならそう答えてくれると信じていた。成功した暁には我が娘と結婚する権利を与えよう」
……ちょっと待て。それは聞き捨てならないぞ
正確なことは知らないが国王の娘と言えば40歳は超えていたはず
私の倍以上は生きているではないか
しかし女王様のように美しい見た目ならばまだ許せるーーというかこっちからお願いしたい
だがその見た目も尋常じゃないくらい酷い。まるでゴリラだ。私に比べて何もかもがデカイ
一体国王様と女王様のどこにどんな血を混ぜたらそんな魔物のような奴が生まれてくるのかと聞いてみたい
想像したくもないが仮に結婚したとしよう。それで喧嘩なんてしてみろ
なす術なく殺されるぞ
とゆーかそんだけ強いんだから娘が魔王倒しに行けばいい
いっそ魔王と結婚すればいい
魔王は強い奴が好みだろうし世界も平和になるし一石二鳥じゃないか
「いえ、国王様の娘と結婚など恐れ多いことです」
「何を言うかリッツよ。うちの可愛い箱入り娘を任せられるのなんてお前しかいないだろう?」
箱入り娘だと? 檻入りゴリラの間違いだろう?
大切にしまい込み過ぎて腐ってしまってるではないか
「どれ、我が最愛の娘よ。ちょっとこっちに来て未来の旦那さんに挨拶しなさい」
国王様が手招きすると壇上の袖から娘がひょっこりと顔を出す
顔以上に肩の出っ張り方が凄まじい
そしてこちらを長々と見つめること十数秒
「……ウフフ」
やめろ笑うな頬を赤く染めるな
こんなのと結婚させられるくらいなら魔王と相打ちにでもなって華々しく人生に幕を引く方が良いのかもしれないと思ってしまった




