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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
ヴァーヌ・ユ・タラコット・リヴァルヴューヌの巻
14/44

記録の13 超巨大組織「露麗魂」


 どうやら取り乱してしまったようだがスイの一撃によって正気に戻された


 しかしこの幼女は侮れない。いつか絶対に魔物としてボロを出すに決まっている

 私は確実な証拠を掴むためにもう少しばかり様子を伺うことにした


「ヒリカ。もう調子はいいのか?」


「うん……。おとうしゃんが新しいクマしゃん買ってくれたもん……。チョリソーのことはもう大丈夫だよ」


 クソッ。この幼女の喋り方、なんだかイライラさせてくる

 7歳の癖に『おとうしゃん』とはどういうことだ

 ちゃんと『おとうさん』と言え


 私がその歳の時には既に剣の基礎を教えられ礼儀も仕込まれていたぞ


 もしやまだ人間の言葉に慣れていないのか? なるほど、それなら納得がいくな


 さぁ魔物よ。早くボロを出すがいい。その瞬間に私が叩き斬ってやるから覚悟しろ


「すいません。その『チョリソー』っていうのはなんですか?」


 スイが余計なことに首を突っ込もうとしている

 厄介事に巻き込まれるのはゴメンだが私はそれをえて止めない


 もっとその幼女から言葉引き出せ。私が奴を魔物だと確信する時までな


「ああ……。チョリソーっていうのはこの子が大事にしてたぬいぐるみのことなんです。先日、魔物に盗られてしまったらしくそれ以来、あまり元気がなくて……」


 魔物の癖に魔物にイタズラされるのか? 魔物同士でもいがみ合ったりするんだな


 ……いや、人間と見間違う程にこの魔物ようじょの変装能力が高いということか?


 なるほど。やはり侮れないな


「その盗んだ魔物っていうのはどこへ?」


「恐らくですがカラメ洞窟かと……。この辺で魔物の巣があるのはそこだけですし……」


「そうですか……。よしリッツ! カラメ洞窟へ行くわよ!」


「何故そうなる!」


 厄介事を敢えて止めないと言ったがそれはこの場だけの話だ。場所を変えるとなれば話は変わってくる


 そうなれば幼女を監視することが出来ないではないか


「おにいしゃんも妖精しゃんも強いのぉ?」


「安心しなさいヒリカちゃん! このお兄さん、頭はアレだけど強いのは確かよ。チョリソーはすぐに取り返してあげるからね!」


 ちょっと待て勝手に話を進めるな。それと頭がアレってどういうことだ。濁すような言い方されると気になって仕方ないだろ


 そして幼女。貴様はさっきからしゃんしゃんしゃんしゃんやかましい。楽器か


 その言葉遣いが私の中に怒りを募らせる。何故ちゃんと話すことが出来ない


 これ以上ここにいると怒りが爆発しかねない

 不本意ではあるがここは頭を冷やすためにもカラメ洞窟とやらへ向かうべきか?


「仕方ないな。スイ、カラメ洞窟とやらへ向かうぞ」


「その意気よリッツ! ヒリカちゃん、もう少しだけ待っててね?」


「やったみゅう〜! おにいしゃん、妖精しゃんありがとうだみゃ〜!」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら取ってつけたような語尾で精一杯の喜びを表現している


 もう少しだけ耐えればこの幼女から解放されたのにな。だがもう限界だ


「ちゃんと喋れぇぇぇぇ!!」


「ふえぇぇぇぇぇぇ!?」


「ちょっとリッツ!? どうしたの!?」


 もう我慢の限界だった。この幼女の言葉遣いには人をイラつかせる力が宿っている


 魔物がそれを計算してやっていたとしたら褒めてやる

 こうして私を憤慨ふんがいさせるまでに追い込んだのだからな


「止めるなスイ! まずは正しい言葉から教えてやる!」


「ちょっとやめなさいよ! なんで幼女相手にムキになってんのよ!? あなたヤバイわよ!?」


「なんとでも言え! だがこいつだけは……こいつだけはぁぁぁぁぁ!!」


 力いっぱい服を引っ張って私を止めようとしているのだが非力なスイの制止など存在しないと同じ


 幼女相手にムキになるバカだと笑うか? 大人げないと呆れるか? 軽蔑したいのならそれでいい


 だが罵倒は控えめにしてくれ傷付くから


「そうじゃなくて! 奴らが……奴らが来るから!!」


「誰が来ようが構わん! 邪魔するなら纏めて切り捨ててくれる!」


 怒り狂った私を止められる者などこの世に存在しない。ハリセンを持って幼女へ向かうまでそう思っていた


 しかしその時だった。スイの言う『奴ら』が現れたのは


「幼女は愛でても!」

「触れるべからず!」


「幼女の敵は!」

「我らの敵!」


「裏切り者には!」

「粛清を!」


 一体どこから現れたというのか。妙な掛け声と共に店に入ってきたのは異様な集団だった


 全員がチェックのシャツをジーパンにしまい丸いメガネをかけている。ピンクのバンダナと使い古されたリュック


 統一された服装は一国の軍隊を思わせる


 その数は10人程度だがただならぬ威圧感を放っていた


「な、なんだ貴様らは!?」


「あ、あぁ……噂には聞いてたけどまさか実在したなんて……」


 あの生意気で怖いもの知らずのスイが今まで見たことがないくらいに震えている。顔も真っ青だ

 それだけでよくわかる。こいつらが如何に恐ろしいのかが


「スイ! こいつらは一体何者だ!」


「奴らは超巨大組織『露麗魂ろりこん』。世界中の幼女を愛で、守る者達よ……」


「露麗魂? 幼女に味方して一体なんの得があると言うのだ?」


「得なんてないわ。彼らはただ守るだけ。例えるならそう、秘宝の前に立ちはだかるドラゴンみたいにね」


 例えが大きすぎないかと思ったがもう一度奴らを見ればそれが過大評価でないことがすぐにわかる


 こいつら……強い。この私が少しでも恐れを抱く存在がこの世に存在するとは思わなかった


「お主、幼女に手をあげようとしたな?」


 先頭に立っていた男が私に尋ねてくる


「ああ。それがどうした?」


「こやつッ! 開き直るですとぉ!?」

「幼女に手をあげることがどれだけ重罪か知らぬのか!?」

「粛清でござる! 粛清でござる!」


 私の言葉と態度が気に食わなかったのか周りが騒ぎ立てる

 しかしそこで先頭の男が一喝した


「待たれい! お主達の気持ちはよくわかった……。よってこの男には『あまあまプリティーワールドの刑』を執行する!!」


「うおぉぉぉぉぉ!! 流石、変態紳士@幼女見守り隊殿 でござる!」

「変態紳士@幼女見守り隊殿、バンザーイ!」

「バンザーイ! バンザーイ!」


 男の言葉に不気味なくらい周りが盛り上がる

 火山と氷山かってくらいあっちとこっちに温度差がある


 あまあま……なんだって? それに変態紳士@幼女見守り隊っていうのはこの先頭の男のことか?


 別にどんな攻撃をしてこようが構わないがその前に。その名前は恥ずかしくないのか?


 私ならそんな言葉を口にしただけでも全身の穴という穴から血を吹き出して死にたくなるだろうな。2度と人前に顔を晒すことも出来ないだろう


 そんな言葉を平然と言い放つとは……奴らの精神力は異常だ。いや、その異常さこそが奴らの放つ強さの秘訣なのかもしれない


「……という訳だ。お主を粛清させてもらうぞ」


「フンッ。どんな手を使ってこようが貴様らのような頭のおかしい奴に負ける気はない」


「残念だがその余裕もここまでだ。いくぞっ! キャラメル・マカロン・カスタードッ!!」


 奇妙な掛け声の後、突如放たれた眩い光とその言葉を最後に私は意識を失った


「……リッツが消えちゃった。露麗魂の奴らもいないしどこ行ったのかしら……」


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