記録の12 新しい武器
不必要な物を仕舞う、ということを覚えた私にスイは改めて武器屋に行こうと提案した
「いらっしゃい。何をお探しかな?」
「とにかく殺傷能力の低いものを見せてください」
スイは店主と思われる男と会話をしている
私はというと店内にある武器の数々に感動していた
まだ汚れを知らない新品の武器が所狭しと並び自分を見つけてもらおうと一生懸命に輝きを放っている
さっきショーウィンドウを見た時は目を惹かれるだけだったが、こうして目の前にしてしまうと購買意欲が掻き立てられて仕方ない
武器屋だけに限らず店というものは外からの景色と中からの景色で全く違う顔を見せてくれるのだな
「この剣……なかなかいい造りをしているな。いや、こっちの剣も捨て難い……」
「リッツー。ちょっとこっち来てー?」
スイに呼ばれたので行ってみると店主と一緒にニコニコした顔で私を見ていた
しかしその笑顔に純粋という言葉は似合わない。ハッキリ言ってしまえば不気味で仕方ない
「な、なんだその顔は……」
「あなたにピッタリな武器を見つけたのよ。これ見て?」
そして店主が差し出したものは私が今まで見たことない異様な形をしていた
素材は恐らく紙。それが蛇腹状に折りたたまれ片側はテープでまとめられている。そこが持ち手になるということだろうか
まとめられてない部分は扇のように開いている。子供でも簡単に作れそうな形状だ
「それはなんだ?」
「これはハリセンっていう武器です」
針千? やはり聞いたこともない名前だ
しかしどこにも針のようなものは見当たらない。ひょっとして内部に何か仕掛けがあるのだろうか?
「そんな子供の玩具のようなものが武器だと言うのか?」
「もちろんです。使い方はあなたがお持ちの剣と同じく振り回すだけなのですが人体に影響を与えない非常に安全な打撃武器となっております」
武器なのに安全? そんな馬鹿な話があってたまるか
武器というのは己の力を示し高めてくれるもので所持するからには常に死と隣り合わせの覚悟を持たなければならないものだ
「私の剣と一緒にするな。そんなもの、私は武器として認めないぞ」
「……ねぇリッツ。こんな言葉知ってる? 『力とは 己を映す 鏡なり 塵や屑でも 剣となりけり』」
急に顔つきが変わり真剣な面持ちで私を見つめるスイだがその口から出てきたのは聞いたこともない言葉だ
しかしここで無知を晒すわけにはーーーーってさっき同じことをしたばかりではないか
スイめ。どれだけ私のことを貶めたいのだ
見える……見えるぞスイ。一見真面目な顔をしておきながら裏では私を嘲笑う貴様の顔が
『オーホッホッホ! リッツぅ? こんな簡単なこともわからなくてよ?』とか思ってるに違いない
だからこそここで退く訳にはいかない。必死に単語から意味を推理、連想し繋ぎ合わせていく
力が鏡? 塵や屑が剣なりけり? なりけりってなんだ?
……だが残念だったな。私の頭脳にかかれば聞いたことない言葉から答えを導き出すことなど造作もないことだったのだ
「塵や屑を映すと剣になる鏡があるってことだろう?」
「違うわよおバカ」
即答からの罵倒である
「バカとはなんだバカとは」
「問題はそこじゃなくて。その言葉の意味よ」
私はバカではない。今すぐ訂正を求めようと思ったがここでそのことに文句を言ってしまっては話が進まなくなってしまう
ここは私が大人になってやるとするか
「で? どういう意味なんだ?」
「強い人はどんなものを武器にしても強いってことよ」
スイ曰く、遥か昔の戦乱の時代のこと
当時最強と謳われた剣士が居てそいつはその場にあれば塵だろうと屑だろうと武器として扱い勝利を収めた
そんな奴の行いを見て敵の将がその言葉を生み出したのだと言う
「だがその言葉が今とどう関係しているのだ?」
「リッツったら本当に鈍いわねぇ〜」
こいつッ……ここぞとばかりに攻めてくるな。ヤレヤレと言いたげな表情でため息をついている
「あなたはこのハリセンを玩具と言ったわね?」
「確かに言ったが……それがどうした」
「普段から自分は強い〜なんて言ってる癖に剣に頼らなきゃ戦えないなんてねぇ……。そんな奴のどこが強いんだかーーーー」
「店長。そのハリセンとやらをいただこう」
「毎度ありぃ!」
甘いなスイよ。私は剣に頼らなくとも強い。最強だ
このハリセンでそれを証明し、今一度どちらが上かと言うことを教えてやろう
フフフ……スイの泣き顔が目に浮かぶ。私を甘く見たことを後悔させてやるからな
(ほーんと。単純でおバカな男ね。そんな言葉ある訳ないのに。でもこれでリッツが殺しかけた奴を回復しなくて済むわ。私ってホント名女優ね)
スイがニヤついていて気味が悪い。しかし浮かれているその顔を泣き顔に変えられると思うと悪い気はしないな
せいぜい今の内に笑っておくがいい
だが覚えておけ。最後に笑うのはこの私だということをな
「おとうしゃあん? お客しゃん来てるのぉ……?」
突然店の奥から聞こえた甘えるような声が耳をくすぐる
そこに立っていたのは少女だった。目を擦りながらゆっくりとこちらへ向かって来る
恐らく寝起きなのだろう
「昼寝か。随分と呑気な奴だ」
「あなたは幼女相手に何を求めてるのよ……」
「おっと。起こしちゃったか。すいませんお客さん。この子は私の娘でヒリカと言います。ほら、お客さんに御挨拶しなさい」
「いらっしゃいまちぇ。僕はヒリカ、7しゃいでしゅ」
舌っ足らずな話し方。女なのに僕という一人称。普通の小さな子供とは異なる部分が色々とある
「人間のフリをしているつもりだが騙されないぞ! この魔物め!」
「ふえぇ?」
「なんでそうなるのよ!」
スイがハリセンで私の頭を引っぱたいた
返せ。それは私の武器だ。というかそれ結構痛いぞ
身をもって新たな武器の力を思い知ったがなるほど……。ハリセンとはなかなか優秀な武器かもしれない




