6日目⑦「イベント」
『ふーん、『闘気』ねえ。自由には出せない、ってなると――奥義とか、特殊技とか、リミット技みたいなやつなのかな? ゲージが溜まると使える、みたいな』
ふんふんと頷いているのが聞いて取れる榊君のリアクションだった。
『そのキャラ、多分、完全なアタッカータイプなんだろうけど……そういうキャラは、その技の威力によって問答無用で最終決戦までスタメンに入ってくるからね。大事にした方がいいよ』
大事にすると言うか、一応、こっちが大事にされている感じだけど……。
『あとは、そのリミット技を重要な戦闘でタイミングよく使えるようにするのがベストだね。聞いている感じ、ゲージなり何なりは確認できなくて、内部演算か何かになってるみたいだけど……。それでも目途が付くなら、直前の戦闘までは出し渋って本戦で一気に、みたいにできたらいいね。もしくは、発動条件があるならそれを見極めておくとか。例えば――』
電話口で、色々と事細かに教えてくれる榊君。
お城に戻って、大体ニ時間後のことである。
――礼拝堂から帰った後、ラスティさんが顛末を報告すると、お城の中が一気に騒がしくなった。
それはそうだろう。
国の敷地の中に魔物が出たのだ。
城内を右往左往駆け回る騎士さん達の話を漏れ聞くに、夕暮れだというのに調査隊が組まれ、大人数で地下道の再調査に向かったそうだ。それだけではなく、国内の他の礼拝堂へも同じく部隊が派遣されて、急いで調査しているらしかった。
私も部屋から出るなと言われ、夕飯も部屋の中で一人で食べることになった。
夕飯を食べ終えてお風呂に入ったら、もうやることはなく――手持無沙汰なので、榊君に再度電話したのだ。
こんな状況で外部に連絡を取るとあらぬ嫌疑をかけられるんじゃないか、とも思ったけれど、榊君は部外者というかこの『世界』の外側の人だし、この『世界』を世界として認識すらしていない。
それに私は宰相さんの検査を受けたわけだし、あの時荷物も携行していた。検査を受けたアイテムを使うのは道理に外れたことでもないのだろう。
そう自分の中で結論付け、いつものように修復魔法のカードをスマホに使い、榊君に電話したのだ。今日の榊君も、通常運転の明るすぎず暗すぎずなテンションだった。
『それで、次はどんな展開になりそうなんだ?』
「次? ――ええと、一応明日は、お祭りがあるって聞いてるけど」
『祭り? ってことは、イベントかぁ。どういうメンバーで参加するんだ?』
「えっと、多分だけど……この国の騎士団長さんが見回りに行くから、その集団についていく、って感じになるんだと思う……」
『ふうん、騎士団長? その肩書からすれば強キャラっぽいねえ。強い?』
「いや、闘ってるところは見たことないけど――でも、私からすればラスティさんも凄く強いし、その人が団長って呼んでるんだから、もの凄く強いんだと思う。治癒の魔法も使ってたし」
『治癒? 回復か。……ははぁ、それはまた重要だね。長いダンジョンにはぜひとも連れていきたいメンバーだ――祭りイベントとなると、そのキャラとの関係性に関わる岐路があるかもしれないね。対応によって、今後非協力的になったり、最悪の場合、メンバーから外れるみたいなね。だから、もしそのキャラが重要だとしたら、イベント中の会話には細心の注意を払った方がいいかな』
それはまあ……というか、それ以前に、こちとら失礼は働けないし……。
『パーティメンバーも揃ってきて、各々の特性もわかってきて、そろそろメンバー分岐も始まってくる感じかな? まあファーストプレイだし、まずは思った通りにやってみるといいと思うよ。選択によって楽になったり大変になったりはあるかもしれないけど、クリア不可能は流石にないと思うから』
「うん、わかった……ありがとう」
その後二言三言話して、今日の通話は終わった。
スマホを道具袋に入れ、次いで手荷物を広げたベッドの上を見る――修復魔法のカードは、残り三枚だ。少ない。お店を回って、もしまた見つけたら買い足さなければならない。というか、最悪の最悪、もう見つからない可能性だってあるにはある。
榊君は相変わらずこっちの状況を誤解したままだけど、少なくとも最後の一つを使う時には、その誤解をちゃんと解いて、家族に伝言を頼まなければならないだろう。
そんな状況――少し、怖くなった。
ぶんぶんと頭を振り、気持ちを入れ替える。
そもそも、榊君に電話できる前に比べれば、全然恵まれた状況なのだ。この『世界』の人たちも優しいし、協力してくれるし、今の状況は最悪ではない。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるようにそう言って、カードをしまった。




