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古井咲コノハの9日間  作者: 式織 檻
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3日目⑧「疑念」

『ははは、まあ、良い話じゃないか』


 榊君は笑いながら、私の今日一日の冒険を一言で総括した。その言い方からして、映画でも見た後のような感想だった。

 夕飯を食べ終えた後、昨日より早めに宿へ帰らされた私は、もう一度スマホに修復魔法のカードを使った。そして意を決し、再度榊君に電話したのだった(今日は、一番に榊君を通話先に選んだ)。

 今回も無事繋がったのに安心しつつも、本日の出来事を報告する際に、


「一応、これは、ゲームとかでもなく、私の目の前で起こった現実の話なんだけど――」


 と接頭辞を入れてみたのだが、どうにもこうにも、榊君に伝わった感が無い。わかってもらえた感じがしない。さも、『それくらいリアルなゲームなんだ』と訴えているように捉えられた風だった。……榊君て、こんなにわかってもらえない人だったろうか? それとも、客観的にはこの反応が当たり前……?

 通話できる時間も限られているし、どこまで根を詰めて説得するべきか迷っていると、榊君は咳払いをして、


『――さて、ここで一つのイベントが終わったってことは、次はまた新しいところに旅立つことになるな』

「えっ! ……ど、どういうこと?」


 私の思わずの反応。


「だ、だって、昨日この街について、働き始めたばっかだよ……? そんな、いくらなんでも急すぎじゃ――」

『そういうもんさ』


 榊君は両肩を持ち上げているような声音で言ってきた。


『そういうのは、レベル上げかなんかで、何日も留まっていた場合が想定されてるもんだ。だから逆に、最短で進めていく方がイレギュラーで、ストーリー上、どうしたってどこかに違和感は出てきちゃうよ。一日しか経っていないのに、何週間も親交を温めたような会話が出てくるのも、まあよくある話さ』


 いやいや、だからそれは、ゲームの話で……。


『初心者には目まぐるしく感じるかもしれないけど、そこまで心配することでもないよ。進めるにあたって、あちこちに――特に、街の人との会話なんかに、色んなヒントが隠されてるもんさ』

「ヒント?」

『ああ。昨日言ってた、小さい女の子の『騙されるな』っていうアドバイスも、ちゃんと活きてたんだろう?』


 ……うーん、まあ、確かに、あの木の化け物との闘いのとき、参考にはなったかな?


『そういう助言が、言葉のあちこちに隠れているのさ。さらに言えば、この手の進行には、ある程度のパターンもあったりするんだよ――例えば、次にコノハが向かう目的地が、少し離れた場所だったとしようか』


 ここから遠い場所?


『その場合、わりあい高い確率で、中継地点みたいなものがあるものさ』

「一休みする場所……ってこと?」

『そう。小さな町だったり、村だったり、山の中の一軒家だったり――そして、そこで通行止めを食らったりする』

「……ええぇ……進めなくなっちゃうの?」

『うん。そのタイミングで、いわゆるお遣いイベントが発生するのさ。『何々』が無いと扉が開かないとか、『誰々』を探さないと進み方がわからないとか、ね。だから、何を探せばいいのか、何処へ行けばいいのか、どういう敵がいるのか、極力色んな人の話を聞いて、情報を集める必要がでてくる――そこで集めた情報は、その『先』で役立ったりもするし。だから億劫がらずに、情報収集には出来る限り努めた方が良いよ』


 ……まあ、私に情報が必要なのは確実だし、それはそうか。


『他にも、魔物の倒し方だって、効率的な方法ってのは決まってくる――今回は植物の魔物で、火の魔法で対抗したんだろう?』

「う、うん。私も、騎士さんも、火の魔法を使った……」

『他のパターンでいけば、火の魔物なら水の魔法だし、軟体系の魔物なら氷で凍らせる、闇系の魔物なら光魔法、アンデッド系なら回復魔法が攻撃になったり――といった具合に、弱点も決まりきってる。そのパターンを読み切ることができれば、装備が不十分でも、案外楽に進めることができるよ』


 そ、そういうものか……。


『装備をどこで揃えるかは、ある種賭けになるかな? 今の街で買えば、道中は安全だけど、次の街でもっと良いヤツが売ってて、損した気分になったりもするしねえ。かと言って、途中で死んだら元も子もないし……。まあ、それは、パーティメンバー次第かな?』


 な、なるほど……。


『あと、道具類は――』


 と、言ったところで、

 ――ピーピー。

 ステレオタイプな電子音。電池残量のアイコンが真っ赤になっている。


「ご、ごめん、榊君。また、電池切れそうで……」

『あ、ホント? ……まあ、もう遅いし、今日はここまでにしようか』


 授業を締める先生のような口調の榊君。……なんか、段々、ゲームの初心者レクチャーになってきちゃってたな。後半は、私も聞くだけになってたし……。


『じゃ、また聞きたいことがあったら連絡してよ。こういうことなら、僕も断然協力するし』

「あ、ありがとう――あ、あと、それとね」


 私は今にも切れそうなスマホを握りしめ、早口で言った。


「も、もし……もし、私に何かあったら、その、例えば、何日も連絡がないとかなったら、わ、悪いんだけど……わ、私の家族とか友達とか、誰かに、その……れ、連絡してくれないかな?」


 これは至極大事なお願いだ。最低限、私の安否はちゃんと伝えなければならない。こちらの状況をゲームと勘違いされてようとも、わかってもらえなくとも、これだけは確実にお願いしておかなければならない項目だ。

 ちゃんと了解してくれたか榊君の反応を待ったが、スピーカーの向こうは無言だった。

 もしかして途中で電池切れちゃったか――と焦ったが、不意にくすくすと含み笑いが聞こえてきて、


『……はは、そんなにハマってるのか? そんなおもしろいんだ――まあ、初めてやるゲームってのはそういうもんかなあ。ははは。わかったよ。取り敢えず、そういう時は、萩人先輩にでも連絡するようにするさ』

「え、あ、ありがとう――」


 ここまで言い終わったところで、ぷつりと通話が切れた。次いで、スマホの電源もそのまま落ちてしまう。


 ――真っ黒になった画面を見つめ、はぁー、と溜息をつく。


 一向に勘違いされたままだが、安否報告の約束はすることができた。取り付けることができた。榊君はこういうことをないがしろにする人ではないし、その点は安心だ。これは大きな大きな前進だ。

 今回もまた、最後は榊君の話を聞くばかりになったけれど――しかし、聞いてるうちに、ふつふつと、私の中に一つの疑念が浮かんできていた。逆に言えば、その疑念のせいで、後半は聞くだけになってしまっていた。

『魔法』という共通点こそあれ、私が今居るのは『この世界』の『現実』で、榊君が話しているのはあくまで『造り物(ゲーム)』の話――そういう理解だったけれど……。


 ――シオンちゃんの『アドバイス』が本当に役に立った。

 ――榊君の言った通り、『呪文書(スクロール)』が敵を倒す決め手になった。

 ――これまた榊君の言った通り、使い魔みたいな『守護聖獣』が現れた。


 ゲームとしてのアドバイスが、そのまま活きているのだ。


 これは偶然? 私がこじつけているだけ? 思い込んでいるだけ? 話を聞いているうちに、その気になってしまっているだけ? ――もしくは、ここは本当に、榊君が想定しているような法則が成り立っているということ?


「……うーん」


 枕に顔を押し付け、頭を右に左に振ってみた。

 …………ううむ、まだ、どちらとも言えないかな。

 何にしても、どちらにしても、榊君のアドバイスが参考になったのは事実だ。とりあえず、結論は先に延ばそう。

 私は顔を上げた。そしてベッドに広げていた修復魔法のカード(残り六枚)を一ヶ所に集める。

 ……この生活が続くとしたら、このカードも買い足していかなきゃならないし。

 時計を見ると、いつの間にか十二時を回っていた。

 どちらに転ぼうとも、明日も大変であることは確定事項だ。さっさと寝なければと、私はバスタオルを抱えて、バスルームへ直行した。

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