カネ
「くそっ!。」
また負けた。今日だけで50万は負けてる。
月末に払いがあるってのに、もう金がない。
「ど、どうしたら…。」
辺りを見渡せば、コンビニが目に付く。
-これしかないか。
一度家に帰り準備。武器は…。
「持ってて良かったグルカナイフってな。」
大ぶりのナイフを一振り。ジャケットの内側に隠す。
金属製のハンマーが目立つが…仕方ない。
深夜のコンビニにつく。客は…スーツ姿の女だけ。
-これなら…。
決行を決め、急いで店内へ。
「動くな!。」
店に入り、店員を脅す。
「こっちへ来い!。」
店員をレジから出して、入り口に立たせる。
「動くなよ。」
通報だとかはされてないはずだ。客は…まだ暢気に雑誌を読んでる。
用意しておいたデカいハンマーで、ATMをぶったたく。
5発ほど叩くと、払い出し出口が壊れて現金の入った箱が見えた。
持ってきたデカいバールでこじ開け、中身を出す。
リュック一杯分ほどだが…、こんなもんだろう。
ぶったたいた瞬間に通報されてるはずだ。@5分程で警備会社の人間が来る。
「んじゃ、あんたは用済みだわ。」
「へっ?。」
店員を何度か刺す。これで、時間が稼げる。
女は…「うおっ!」。
「あんた…そんなにカネが欲しいの?。」
目の前に立っていた。
-い、いつの間に…。
「ああ…欲しいね。」
女は、俺をじっと見て一言。
「んじゃ、あげるわ。」
-はぁ?。
困惑する俺をよそに、女が手を上げる。
-降参のつもりか?。
「審判!」
女が叫ぶ…と、外を指差す。見れば…。
「な!、すっげえ!。」
外には、金色の輝きが広がっていた。
「ルールを説明します。」
女が、何か言っている。
「3回、ここから出て外の財宝を持ってこれます。多くても少なくても元の世界には帰れません。財宝を持ち帰るには、店内に持ち込まなくてはなりません。それと…。」
考える仕草をした後、言葉を続ける。
「財宝を現金化したければ、即座にエンまたはドル紙幣に替えます。入れ物は…、店内にある物を買いなさい。…なにか質問は?。」
「お、お前は…。」
「ん?あたし?。さしずめ悪魔の使い…てとこね。」
悪魔…だと。何でそんなヤツが…。
「他に質問は?」
俺は、脳みそをフル回転させる。悪魔なら…いや。
「終わったら、俺の逃走を手伝えるか?。どこかに送り届けてくれるとか…。」
女は、ニコリと嗤うと「いいわ。好きな所に送ってあげる。」と返した。
「三回だけなのか…。取ってこれるのは。」
「そうねぇ。自信があるのなら、増やす?。」
「当然だ。」
「良い度胸ねぇ。でも…見えるかしら?。」
女が指差す先には…遠くに黒い者が横たわっていた。
「なんだ…あれ。」
「竜よ。」
「竜!なんでそんなもんが!。」
「当然でしょ?。財宝には守る者がつきものよ。」
-竜…どうする。回数を…。
俺は少し考え…答える。
「5回にしてくれ。」
女は「了解」と答え、外を指差し叫んだ。
「裁定開始!」
一回目、外に出ると金の山まで100M程距離があるのがわかる。
「結構遠いな。」
女が竜だという、あの黒いのはそれなりに遠くに居た。あれほど遠くなら、少々の事なら問題ないだろう。
俺は中身を出し、からにしたリュックを背負い金の山に歩き出す。
「うおおおお、すっげえ!。」
見上げるほどの金の山。首が痛くなるほど積み上げられている。
俺は、金の山に手を出してリュックに入れ始める。
「すげえ!すげえよ!。」
金貨、王冠、ダイヤ、サファイア…その他多くのモノをリュックに入れて、山を後にする。
「これで幾ら位よ。」
持ってきた財宝を、女の前に出す。
「ふむ。これくらいですね。」
女が指を鳴らすと…。
「おおおお!すげえ!すげえ!。」
財宝が札束に変わる。ざっと3億位ありそうだ。
「歴史的価値は入れておりません。あくまで現金に換えた時の金額ですので、ご理解下さい。」
女が何か言っているが、俺は空のリュックを持って外に飛び出していた。
金の山につく、見た限り豪華なモノを選んでリュックに入れる。持ち帰る。
「今度はどうよ。」
女が指を鳴らす…と。
「おおおお!すっげえ!」
さっきより多くのカネが目の前に。
「気づいてますか?。」
女が外を指差している。
「ああん?。」
見れば、黒いモノが頭を上げこっちを見てる。
「ああ…マジで竜だったのか。」
頭を上げ、じっとこっちを伺っているように見えた。
「次で三度目です。」
「ああ、分かってる。」
竜はそれなりに遠くに居る。仮に俺に気がついたとしても、こっちに来るまでに時間がかかるだろう。
それに、近くに来たとしても出てすぐ戻れば問題ないはずだ。
「大丈夫、大丈夫。」
…大丈夫だ。
外に出て歩き出す。竜は変わらず、こっちを見てる。俺は、竜の視界に入らないよう小さくなりつつ進む。
山に着き、さっそく財宝を入れる。
-こっちの方が価値が高そうだ。いや、こっちの方が…。
吟味しつつリュックをいっぱいにし、店へと戻る。
「今度はどうよ。」
女が指を鳴らす。
先ほどより価値の低いモノだったのか、現金が少なかった。
「おい、少ねぇんじゃねぇの。」
「適正な交換比率です。」
女は真顔で俺を見返す。
俺は外に出ようとして気づく。
「竜が…。」
竜が、明らかに近くに来ていた。黄金の山、その山頂付近でじっとこっちを伺っている。
「後…2回だよな。」
「後2回です。」
女がすました顔で返す。
「途中終了は…。」
「できません。必ず、店の外に出ていただきます。」
持ってきたハンマーやバール、ナイフを見る。
-こんなのじゃ倒せっこない。
俺は空のリュックを持って、外に出る。
竜の目を少しでも掻い潜ろうと、店の裏にまわる。
金の山までの距離はだいたい同じに見えた。
山まで歩き着き、財宝を入れようとした処で…気がついた。
「手が…黒い。」
両手が真っ黒に変色していた。汚れとかでは無い。肌が黒くなっていて、こすり合わせても落ちない。
「なんで、こんな…。」
後ろから…バサリ…という、羽翼で空を叩いたような音が響く。
俺は、ザッと財宝を取ってリュックに入れ店に戻る。
「なんだよこれ!なんなんだよ!」
店に戻ると、首の辺りまで黒く変色していた。
「さあ、なんでしょうね。」
女は財宝の換金が終わると、雑誌の棚に戻って本を読み始める。
「くそっ!くそっ!。」
俺は、最後の一回。財宝を取りに出た。
…竜が近い。見れば、顔まではっきりと分かる。それは、竜と言うよりも『醜悪な悪魔』と言うべき相貌をしていた。
全身は黒く、闇を切り取ったかのような体色。瞳は赤い、それこそ深紅と言うヤツだろう。これだけの距離があってあのでかさ。全高はかなりあるはずだ。
「俺は…俺は…。」
そろそろと歩き出すが、気づいた様子は無い。ただじっと、こっちを見ていた。
財宝をリュックに詰めようとして気がついた。
「…手が…無い。」
手が無い。あるのは、黒ずんだ手首だけ。振り返ると、途中に黒いナニカが落ちている。
呆然とする俺の近くに、ドン…と重いナニカが落ちる音。見れば…。
「あ…あぁ。」
闇が、形を持って、そこに立っていた。
逃げようとして…倒れる。
…足が取れていた。
闇が…ゆっくりと開き…白いナニカが出ようとしている。
横倒しのまま、ただじっと見る。
白がはき出され…後には…。
パチン…音が鳴る。
深夜のコンビニの外に、闇が広がり…後には静寂が戻った。
読了ありがとうございます。毎回読んでいただき感謝。申しわけありません、次回は急用の為不明です。本当に申しわけありません。