会いたい~1~
今回は短いです。
「お腹…すいた…。」
暗い部屋の中で、少年が一人横になっていた。
「お父さん。遅いなぁ。」
父が家を出て、もう何日たったか…。家にあるモノはあらかた食べ尽くし、水だけで生き延びていた。
「はやく…帰って…こないか…なぁ…。」
少年は、動く気力も無く外を見つめていた。
-お月様…綺麗。
「おなか…すいたなぁ…。」
「それが、君の願いかな?。」
声がした。少年が、声の方に顔を向けると。
「やあ。」
そう言って手を振る人影がある。
「お兄ちゃん。だれ?。」
人影は、若い…恐らく高校生だろうどこかの制服を着ていた。
「僕かい?僕は…そうだな…天使だよ。」
男は優しそうな笑みを浮かべて、少年の隣に座る。
「天使?天使なの!すごいすごい!。」
少年は無邪気に喜び、男に尋ねる。
「天使なら、お父さんとお母さんに会わせてくれる?。」
「それが君の望みなら、ご両親に会わせてあげるよ。」
少年は大喜び。男は笑顔のまま、喜ぶ少年を見る。
「でもね。」
その言葉で、少年は動きを止める。
「君には、決めて貰わなくちゃならない事があるんだ。」
-何だろうか。そう考えながら、男の言葉を待つ。
男が指を鳴らすと、二枚のカードが降りてくる。
「どちらが君の望みなのか、選んで欲しいんだ。」
片方には『美味しそうな料理』が描かれている。手に取れば…。
「わあぁぁぁぁ!!。」
目の前には料理の数々、本当に美味しそうな臭いに少年のお腹がキューと鳴る。
「さぁ、もう片方も手にとってごらん。」
そう言われ、もう片方にも手を伸ばす。すると…。
「お父さん!お母さん!。」
少年の両親が、川の向こうで手を振る光景が現れた。
両親の元に行きたいが、川が邪魔で向こう岸には行けそうもない。
「さて…どうかな?」
カードを取り上げられ、両親の姿が消える。
「えれ?お父さんとお母さんは?。」
訪ねる少年に、男が返す。
「どちらかだけなんだ。『美味しい料理をお腹いっぱい食べたい』『両親に会いたい』その二つを同じ強さで、君は望んだ。ここが君の分岐点だ。」
男は真剣な眼差しで少年と目を合わせる。
「いいかい?本当によく考えるんだ。ご両親は君の選ぶ方を尊重すると仰っている。その後の幸運も僅かだが、君の助けになるだろう。君が幸せになれると、本当に思う方を選ぶんだ。」
少年には、男の言っている事が分からない。でも、自分の為に真剣に言葉を紡いでくれたのは理解できた。
少年は両親の描かれたカードに手を伸ばす。触れると、お父さんとお母さんの声が聞こえてくるようだった。
「そっちで…いいんだね。」
「うん。」
男は泣いていた。少年には何故泣くのか分からない。
「お兄ちゃん泣いてるの?。」
男はそれに答えず、ただ涙を流しながら…叫ぶ。
「審判!」
同時に、カードが何枚にも分かれ少年の周りを回り始める。
「選ぶんだ。」
男が涙を拭きながら促す。
少年は、赤い色をしたカードを手に取る。瞬間、世界が真っ赤に染まる。
「嗚呼…何故。」
そんな声が聞こえた。
-ここは、何処だろう。
石がごろごろ転がり、近くに川が流れていた。空は赤く染まるが、太陽は見えない。
少年が歩いていると、川の向こう岸から両親が歩いてくるのが見える。
「お父さん!お母さん!。」
声を上げながら、少年は両親の元に行こうと川に近づく。
川の向こうで、両親が何か言ってるのが聞こえるがなんと言っているのかまでは聞こえない。
「お父さん!聞こえないよ!」
「戻れって言ってるね、あれは。」
近くで声が聞こえた。見れば中学生だろうセーラー服を着た少女が、すぐ近くに座っていた。
「やぁ、坊や。こんばんは。」
夕暮れに、こんばんはと言われ、少年は、こんにちはと返す。
「君にやって貰う事は簡単だよ。」
-やって貰う事?。
「あれ?聞いてないの?。」
少女は、驚きを表し顔を歪めた。
「そっかぁ。ま、何も変わらないけどね。」
そう言って、対岸を指差す。
「君にやって貰う事は、たった一つ。川を渡って貰う。」
少年が川を見る。川幅は…かなりあるように見える。恐らく泳いでは渡れないだろう。
「どんな方法を用いても良いよ。それこそ、周りいるヤツを殺してイカダにしてもいい。」
殺す…その言葉に驚いて少女を見れば、無表情に対岸を見続けている。
「じゃ、頑張って。」
そう言って少女は、水の上を歩いて…川を渡って行ってしまった。
恐る恐る川に足を踏み入れる。
「うわぁ!」
-深い。川縁から急に深くなっている。
「こんなの、どうすればいいんだよ。」
対岸を見れば、両親がこちらを見ていた。
何か無いかと周囲を見ると…。
石を川に投げているおじさんが目に映る。
「何をしているんですか?。」
「こうやって、川を埋め立てているのさ。」
おじさんが言うには、人を利用できない自分のような人間にはこうするしかない。と言う事だった。
-なるほど。小さい自分にも出来る事は、それぐらいしかなさそうだ。
そう思うと少年は石を拾い、せっせと川に投げ入れ始める。
それを眺める『石を投げ入れる提案をした男』は、にやりと笑うとどこかに歩いて消えた。
「えいっ!えいっ!。」
そうして…男の子は、いつまでも…いつまでも…いつまでも…石を投げ入れ続けた。
読了ありがとうございます。次回『カネ』は日曜日です。よろしくお願いします。