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休みが欲しい

今回はほのぼの?回です。

 

 休みが欲しい。


 心の底から、本当に、そう思う。


 「じゃあ、これで。お先、失礼します。」


 先に帰る同僚をしり目に、私の仕事は終わらない。


 「ハァ…。」


 ため息も出ようというモノ。


 正確には、私の仕事などもう終わっている。


 これは、私が後輩に渡されたモノ。私が代わりにやっているだけ。


 その後輩は…と、言うと…。


 「若かりし出会いの場へ…か。」


 お願いします。と言いながら、笑って仕事を渡してきた後輩。怒る気にもならない、なぜなら…。


 「本当に、がんばんのよ。」


 その娘も、本当にギリギリ最後のチャンスだからだろう。


 自分はいい。本当に、もう良いのだ。結婚という名のナニカに希望を持てるほど、自分を騙せない。


 「嫌な歳の取り方ですねぇ。」


 本当にそう思う…。


 「しかし、こんな純粋な願いが『休み』…とはねぇ。」


 「誰?。」


  見回せば、向かいのデスクの上。そこに腰掛ける一人の男性がいた。


 「こんばんは。本当にお疲れ様です。」


 そう言って、缶コーヒーを一本くれる。


 「えっと…。」


 こんな人、居たかな…。自分の記憶にさほど自信があるわけでもないので、礼を言って名前を聞く。こういう時は、遠慮しないのがコツだ。


 「ああ、初めまして、ですよ。」


 そう言うと男性は、自分の持っている分の缶コーヒーを飲み始める。


 「私は貴方の願いが聞こえたので、叶えられるかなと思い寄らせて貰った次第でして。」


 …ええと…それってつまり。


 「『休みが欲しい』そう願いましたでしょう?。」


 …確かに願った。切実に。


 「その声が聞こえたので、私が叶える為にここに来ました。」


 「…つまり、貴方が私に休みを下さる…と?。」


 「正確には違いますね。」


 んん?よく解らない。


 「正確には『貴方が休みを願い』それが叶えば、『休みが貴方の物になる』と言う事です。」


 ホント、よく解らない。


 「ふむ。口で説明するよりも、実際に試してみましょう。」


 そう言うと、男性は私から距離を取り大仰に手を広げた。


 「さあ、願って下さい。心の底から『休みが欲しい』と。」


 私はあまりの馬鹿らしさに、一瞬惚けてしまったが…この手のヤツはチャチャっと付き合って、お帰り願うのが早いと思い付き合ってあげる事にした。


 …しかし、本当に休みが手に入るなら儲けものである。しかも、『願うだけ』と来ている。やらない手はないだろう。


 だから叫んだ、心の底から。


 「休みが欲しい!!」


 「願い、聞き届けました。」


 男性が、片手をあげて叫ぶ。「JUDGMENT!」


 …今時40超えてるであろう男が…ジャッジメントとか…。


 呆れる私の前に、2枚のカードが降りてきた。


 驚く私をよそに、男性は「好きな方をお選び下さい。」と言ってきた。


 片方は『羽の生えた布団』が描かれたカード、片方は『月に照らされる布団』が描かれたカード。


 「これ、どう違うんです?。」


 「ん~、私には分からないんですよ。カードを見る限り昼休むか、夜休むかの違いじゃないですかね?。」


 「丸一日はないんですか?。」


 男性は、少し考えた後「分かりません。」と答えた。


 私は、どっちでもいいやと思い『月に照らされる布団』のカードを取る。すると…。

 

 「お、増えた…めんどくさー。」


 手に取ったカードが何枚にも分かれ、私の周りを回り出す。


 「申しわけありませんが、もう一度お選びいただけますか?。」


 そう言って、申し訳なさそうに頭を下げる男性。


 仕方なく、もう一度適当なのに手を伸ばす。


 カードを選び、手にとって裏を見る。そこには…。


 「揺り籠?。」


 そう、揺り籠の絵とその周りを回る人の絵が描かれていた。


 「おお、揺り籠ですか。珍しいモノを引きましたね。」


 男性は、そう言ってカードの説明をしてくれる。


 「貴方にはこれから、仕事中のオフィスで昼寝をして貰います。」


 「はぁ?!」


 「そこで、どれ程たえ「ちょっとちょっと!。」


 「…なんですか?。」


 「休みって…そういうもんじゃないでしょ?。」


 そう休みとは…ショッピングしたり、おいしいものを食べに行ったり、映画を観たり、スパに行ったり…そういうモノだろう。何故仕事場で昼寝なんかしなければならないのか。


 「そうは言われましても…。」

 

 男性は困ったような顔をして、少し考える。


 「これは、実際の休みではありません。貴方の望みを叶える為に必要な『試練』なのです。」


 「試練?なにそれ。」不味そうだ。


 「いいですか?。何もせずに得られるモノなど、価値が低くなるものです。貴方が『休み』に価値を求めるのならば、必要な事と割り切り『試練』を受けて下さい。」


 真顔で諭そうとする男性。それを胡散臭そうにじっと見つめる私。


 ………しばし時間が流れ、折れたのは私だった。


 「分かったわ。受けます。そうすれば『休み』が手に入るんでしょ?。」


 「それはもちろん。貴方が望むだけのモノが手に入るでしょう。」


 笑顔で頷く男性。


 …有給だろうか。


 「…ええと…昼寝をして貰う話でしたね。」


 そう言うと男性はオフィスのど真ん中に、成人男性が横になっても尚余るような大きな揺り籠を置いた。


 「ちょっと!どうやって用意したのよそれ!おかしいでしょ!。」


 ホント、色々おかしい。どっから出したのかもそうだが、でかい揺り籠を置いても狭いオフィスは影響がないように見える所もだ。


 「まあ、大丈夫ですよ。向こうからは、見えず触れず干渉できず…ですから。」


 男性がどこからかタラップを用意して、揺り籠の前に着け私を促す。


 正直、もうどうにでも慣れと言う気分になりタラップを上って揺り籠で横になると…睡魔が襲ってきた。


 「おやすみなさい。良い夢を。」


 その声に誘われるように、私は眠りについた。


 









 


 「おい!真田君はどうした!。」


 その声に飛び起きる。


 「はい!課長、申しわけありません。」


 返事をするが…。

 

 「欠勤か?珍しい…。」


 声が、聞こえてない?。


 「課長。今日の資料なんですが…。」


 あ、新城。昨日はどうだったのかな。


 「どうした?まだできてないのか。」


 新城が頷き、課長が頭をかく。


 「わかった。それはいい、作りかけのヤツは?。」


 「ええっと、真田さんのPCに…。」


 課長は、ため息を一つつくと私のデスクに座り資料作りを始める。


 私は、揺り籠の布団の上からそれらを見ていた。


 -これは、どういう事なの?。


 「これが試練なんですよ。」


 あの男性の声が聞こえる。


 「こんなのが試練なの?。」


 「はい。貴方は『欲しい休みの分だけその揺り籠の中にいる事』それが試練となります。」


 …なるほど。でもこれはどうなんだろうか。というか…。


 「トイレとかどうすんのよ!。ごはんとか!」


 「それは大丈夫です。そういう欲は発生しない仕様になってます。あと外の音が聞きたくなければ、手を振って下さい。音が遮断されます。」


 言われたとおり手を振ってみる…音が消えた。


 -これは良いわ。


 別にあたしは、仕事大好きというわけでもなく。しょうが無いからやってただけであって、寝てて良いんならずっと寝てるわ。


 しばらくオフィスの様子を眺めた後、揺り籠に横になる。心地よい揺れと寝心地の良い布団、私は最高の気分で夢の中に旅立った。












 どれ程眠ったのだろう。目を開けて周囲を見る。


 -え?。


 周囲には林が広がっていた。


 「は?え?どういう事…。」


 上半身を起こし、何度も周りを見る。しかし…。


 「林…てか森?。」


 何か動物の鳴き声が聞こえてきそうな、鬱蒼とした森だ。かろうじて光が届くが、それでも薄らとしか日が差さない。


 揺り籠の下は、すぐに地面。私のいたオフィスは、ビルの三階だった。すぐ下が地面というのは、どういう事なのか。


 「ちょっと!誰か居ないの!!。」


 一縷の望みをかけて声を出す。


 「おや、起きましたか。」


 木の陰から、あの男性が姿を現した。


 「どうなってんのこれ!。なんでこんな…。」


 慌てる私に、男性は何でも無いように答える。


 「あれから、17億5千万とんで16年経ちまして…。」


 「え?え?17億?。」


 男性は笑顔で「はい」と返す。


 -えーっと。どう…して…。そうだ。


 「どうして起こしてくれなかったのよ!!」


 怒鳴る私に、男性は困惑したようで。


 「特に頼まれもしませんでしたし、それによくおやすみでしたから。」


 何故怒っているのか、理解できない。そんな顔をする男性に、私は毒気を抜かれてしまった。


 「あぁ…これからどうすれば…。」


 思わず項垂れた私。


 「ふむ。お暇でしたら、私の手伝いをしていただけませんか?。」


 「手伝い?。」


 「ええ。私は『願いを叶える事』を生業としています。そのお手伝いをお願いしたい。」


 なにそれ。何でそんな事を。


 「勿論、強制ではありません。ただ、このままですと…少々言いにくいのですが…。」


 男性は腕を組み、眉根を寄せて続ける。


 「そこを降りると、貴方が死んでしまう可能性が…高い気がするのです。」


 …言われてみれば、こんな何にも無い所で食事とかどうすれば良いのか。


 「人類は生き残ってないの?。」


 「この時代にも多少生き残っては居ます。ですが、そうではなくてですね。免疫の問題です。」


 「免疫?。」


 「はい。貴方が生きた時代の免疫力では、この時代の免疫力に足りません。この時代の土を踏んだ瞬間…。」


 「瞬間…どうなるのよ…。」


 「あくまで恐らくですが…、全身から血を吐いて…。」


 「あー…もういいわ。」


 どうするか…というか、選択肢なんて無いも同然よね。


 「わかった。貴方の手伝い…してあげるわ。」

 

 「おお!。本当ですか、ありがとうございます。」


 男性が、丁寧に頭を下げてくる。


 「で、どんな事をするのよ。」

 

 「それは、私の事務所にご案内した後説明致します。今は先に…。」

 

 男性が、笑顔で手を差し出してくる。


 「よろしくお願いします。」


 「はい。よろしく。」


 そうして握手をした後、指を一つ鳴らすと…。


 「おおー。」


 空間に裂け目が出来た。


 「さ、この先が事務所です。そこで、仕事の話などをしましょう。」


 そして私は、裂け目に入っていき。後には、森に静寂が戻った。

















 「と、こう言う経緯で私はここに来たわけ。」


 私の話を、マイちゃんが楽しげに聞いていた。


 「おねーさま。元きゃりあうーまんだったんですね!。マイ、そうじゃないかと思ってたんですよ!。」


 ああ、年下の同姓はやはり良い。こういうコをもっと増やして欲しいモノだ。


 「ところで…おねーさま?。」


 「なに?マイちゃん。」


 「さっきの話だと、17億年以上経ったのはしょうが無いとしても…。」


 ん?何が言いたいのか。


 「休みと、17億年後は関係ないですよね?。」


 ………ん?ん??。


 「だから、最初におじさんが言ってたじゃないですか?。『実際の休みじゃなくて試練だ』って。」


 ………。


 「だからおねーさまが揺り籠を降りた瞬間、本当ならその会社に戻れたんじゃないかな…と。」


 ………………………。


 「それに、死んじゃう可能性が高いって、それって普通の事ですよね。生きてれば死んじゃうわけだし。」


 ………………………………………。


 「つまり、お姉様は…おじさんに…。」


 -皆まで言うな!。


 「あ~の~く~ず~!」


 私は最大級の権利を使って、クズの元に飛んでいく。


 「まあ、あのおっさんは何度か死んだ方が良いと思うのですよ。ホント。」


 後には、マイが楽しそうに笑う声だけが響いたのだった。




読了ありがとうございます。読んで下さる方が増えてきまして、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。次回『会いたい~1~』は、金曜日に投稿されます。次回もどうぞよろしく。

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