死者蘇生
お待たせしました。今回はちょっと長めに4444字です。
死んだ人間は生き返らない。誰かが言った『生病老死』は理だと。
-そんな事知るか!。なぜ!なぜ彼女が死ななければならない!!なぜ!なぜ!。
今の俺の半分も生きていない。そして、それすらも楽しんで生きたわけでは無い。
そんなのが『人生』なのか?。そんな事が、許されるのか?。
『生病老死』が理ならば、『夢信永望』は許されないのか?。
そんなはずが無い。彼女の望みは、まだ叶っていない。その為にも…、彼女を蘇らせる。
その決意を元に、僕はようやく…漸く準備を整えた。
世界に存在する…らしい、『願いを叶える存在』。それを呼び出す為に、多くの事を成した。殺し、奪い、犯し、おおよそ『願い』とやらの概要を掴んだ。
それは、その願いの強さに引き寄せられて来るらしい。…ここまで憶測のみなのが悔しいが『理外の力』に頼るしか『理』に勝つ方法が思いつかなかった。
…ここまで、そうここまで強く強く強く願い続けて祈るのだ。来るだろう。
最後の材料、それを昇華する為に杭を一本持つ。最早後悔は無い。杭を振りかぶり、自身の鳩尾へ突き刺す!。
「が…はぁ…。」
痛い…だが…。
「やぁやぁ、お兄さん。随分と強い願いを抱えてますなぁ。」
…成功したようだ。
「こんばんわ。お兄さん。」
笑顔をこちらに向ける少女、中学生だろうセーラー服着て中空で手を振っている。
「ああ、こんばんわ。君が『願いを叶えるモノ』か?。」
俺の問いに、少女は怪訝な顔になる。
「なぁに?お兄さん。狙って呼び出したの?。」
俺が肯定すると、凄く驚いた顔になる。
「すごーい!お兄さんが初めてだよ!マイがこのお仕事をやり始めて、初めて『自身の意思』で呼び出した人だよ!。」
そう言いながら、拍手と賞賛を俺にくれた。
「それで、叶えてくれるのか?俺の『願い』を。」
そう問う俺に「ちょっとまってねー。」といって指を振る彼女。
「まずは、現状の説明をしまーす。背後をご覧下さい。」
言われて、後ろを見る。そこには、俺が杭に胸を貫かれている光景があった。
「見たとおり、このままだと貴方は死にます。それは理解してますか?。」
「当然理解している。」
「ならば結構です。それで、貴方の願いは何ですか?。」
その問いに俺は…。
「『彼女、篠崎優陽』を蘇らせて欲しい。」と、願う。
すると、目の前の女の子が顔を歪める。
「ああ…なるほどなるほど。こういう事もあんのか…。んじゃさしずめ、あんたの名前は『髙樋昇』って処か。」
驚きつつ、肯定。
「君は…。」
「ああ!素晴らしい!この出会いに感謝を!嗚呼、ああ!今なら、クズの創造神に感謝を祈っても良いわ!。」
少女は、何が嬉しいのか喜びを全身で表現し始めた。
「ああ、ごめんねお兄さん。つい…ね。それで、願いは『死者蘇生』でいいの?。」
「ああ、出来るのか?。」
少女は、少し考えた後「できます!」と、胸を張って答える。
喜ぶ俺に「ただ…。」と手をかざす。
「普通に現在蘇らせても、当然のように齟齬が生まれます。それは理解してますか?。」
それは…当然だろう。彼女が死んだのはだいぶ前だ。遺体も火葬されてしまっている。そんな彼女を蘇らせれば、色々と問題が発生してしまう。
「ですので『時を戻す』という措置で、今回の願いを叶える事としたいと思います…如何でしょうか?。」
俺に異論は無かった、故に肯定を返す。
「さて、その場合のお兄さんの命ですが…。これは当然、元のケガの無い状態で戻ってもらいます。」
…それは、有難いのだが…良いのだろうか。
「お兄さんも一緒に戻さないと、齟齬が生じてしまうんです。何、大丈夫ですよ。貴方は戻り次第、彼女を助けて死ぬ。そして彼女は生きる。ね?簡単でしょ?。」
なるほど、理解できた。それも当然な話だ。
「ちなみに…戻ってもお兄さんが彼女を助けなければ、お兄さんは死にます。」
「そんな事にはならない。」
「そうだといいですねぇ。」
少女は笑みを浮かべながら、俺の周りを回る。
「では、願いも定まった所で始めましょう。お兄さん、もう一度願いを言って下さい。」
俺は、彼女の事を強く想い…願った。
「彼女を生き返らせたい!!。」
「願い、聞き届けました!『イゥディーチウム』!」
少女が何事か叫ぶと、二枚のカードが降りてきた。
「好きな方を選んでね。」
片方は『人間』だろう絵で『喜び?』を表現している絵だった。もう片方は…。
「なんだ、これ…。」
黒いもやの中に、いくつもの『目』や『手足』といったものが描かれ不気味に見える絵だった。
困惑している俺に、少女が催促してくる。
「はやくー。どっち選んでも一緒だよ!。結局、成すのはお兄さんなんだから。過程が違うだけだよ。」
取り敢えず無難に『人間』のカードを選ぶ。すると、カードが何枚にも分かれ俺の周りを回り出す。
「さ、好きなカードを選んで。今度のは、成功確率に関わってくるから慎重にね。」
そう言われても、どれも同じ絵柄に見える…いや、一枚だけ少女が描かれたカードがあった。それに手を伸ばす。
「あー。それを選んじゃったかぁ。」
そんな声が聞こえた。俺がカードを裏返すとそこには…。
「何すんのよ!」
衝撃と共に目を覚ます。ここは…。
「あんたなんかさっさと死んで。」
彼女が、冷めた目で俺を見ている。
「ゆう…ひ?。」
優陽だろう少女は、怪訝な顔をしたがすぐに顔を背ける。
「もうこれ以上つきまとわないで!迷惑なのよ!ストーカー!」
周囲を見れば商店街なのだろう、人が多数おり店がいくつも見える。
「ちょ…まって…。」
彼女は俺を捨て置き、歩いて行ってしまう。事態について行けず呆然とする俺。
そんな俺の前で…彼女が車に跳ねられ、その身を木の枝に突き刺しぶら下がる光景を見た。
「………ぁあ…ぅわぁ…。」
ポン。と、肩を叩かれた。
「大丈夫?」
目の前には、先ほど木に吊されたはずの彼女が…。
「顔、真っ青だよ。」
それはそうだろう。彼女が死ぬ処を見てしまったのがから…。
その事を伝えると、彼女は笑って「生きてるでしょ?」と手を広げてみせる。
俺は、何度も頷く。彼女も満足そうに頷いた。
「お、夕日きれー。」
見渡せば、学校の図書室だろう場所で机にノートを拡げている所だった。
彼女は、ベランダに出て夕日を眺める。
「あっ!」
急な突風に煽られ、手すりから身を乗り出す彼女。
咄嗟に、俺は駆けだして…。
「えっ?!」
何かに足を取られた俺は…彼女を突き落とした。
落ちていく姿が、スローで目に映る。呆然とする彼女を見送る俺。
少しして、下を見れば…。
「なんで…おれは…。」
真っ赤な…いや、真っ黒なナニカが放射状に広がる光景が目に映る。
「俺は…おれは…。」
「ちょっと。聞いてるの?。」
ハッとして顔を上げる。目の前に優陽がいた。
「優陽!」
俺は感動のあまり抱きしめる。
「ちょっと!ねぇ!恥ずかしいよ!」
構わず抱きしめる。
「ちょっと…泣いてるの?。」
「優陽…ゆうひ…。」
俺が落ち着くまで、彼女はされるがままになってくれた。
「もう大丈夫?。」
しばらくして落ち着きを取り戻した俺は、周囲を見る。
…どうやら校舎の入り口で、雨降りの為傘を差そうとしていたようだ。
「空を見た所で、急に抱きつくんだもん…びっくりしたよ…。」
顔を赤くしながら俯く彼女。取り敢えず、帰ろうと促す。
二人で傘を差し、歩く。彼女と何でも無い事を話しながら、家路を行く。
俺は彼女を守るように、角は先に行き、車が来れば道路に立ち、人が来れば引き寄せる。
そんな風にする俺を、最初は驚き、次に紅くなり、最後には呆れたように彼女は付き合ってくれた。
何事もなく駅に着き、電車を待つ。
「今日のノボル、おかしいよ。」
「ああ、分かってる。だが、今日は…今日だけは付き合ってくれ。」
俺の言葉に頷いてくれる彼女。周囲を見渡すと…。
「あれは…。」
セーラー服を着た少女が、ホームの端からこちらに手を振っていた。
-ホームに電車が参ります。危ないですので、黄色い線の…。
そんなアナウンスが流れた時…。
ドンッという音と共に…。
彼女が…電車の前に…。
…投げ出された。
呆然とする俺。
-なぜ?なぜ…なぜ!
その後も、俺は何度も彼女の死に立ち会った。
鉄骨の下敷きになり、車に跳ねられ、落下し、火傷を負い、刺され、犯し殺される。
その度、セーラー服少女の存在が徐々に近くへ寄ってくるようになっていった。
そしてついに、話が出来る距離まで近づく。
「なあ、彼女は…助からないのか…。」
「さあ?私には分からない事だわ。」
彼女はすでに、俺の目の前で車に跳ねられている。…もうすぐ死ぬだろう。
彼女は…助からない、何をしようとも。それよりも俺が諦めないせいで、何度も何度も…彼女が死ぬ。
ならば…。
「諦めた方が…。」
「あら?諦めるの?」
セーター服の少女が聞いてくる。
俺は、頷こうと…少女を見る…そこには…。
「ほんとうに…いいのね?」
満面の笑みを浮かべた少女が居た。
困惑する俺に、少女が続ける。
「お兄さん…死ぬって事を軽く考えてない?」
「え…え?」
少女は、どこからか取り出したデカいナイフで…俺を刺した。
「あ”あ”あ”…。」
「どう?痛い?こんなもんじゃないのよ?『死』ってのは…。それを、何度も何度も味あわせてあげちゃってまぁ…。」
さらに少女が指を鳴らすと…足元からナニカ黒い人型のモノが、「あ”あ”」とか「ググ。」とか言いながら迫ってくる。
「ああ、これ?亡者よ。こいつら、弱っている生者が大好きなの。それだけだと、自我も保てない弱い存在だけど…。」
徐々に…徐々に俺に迫ってくる。
「死ぬって事は、こいつらの仲間入りよ。暗ーい暗ーい地の底で、こいつらと混ざり合いながら溶けて消えるの…それでもいいの?。」
いやだ…嫌だ…イヤだ!!。
「なら頑張りなさいな。見ててあげるわ…ずっと、ずーーっと…ね。」
その後、俺は『自分を助ける為』に彼女を必死で助けた…助けようとした。
何度も…何度も…なんども!そして…。
「おめでとうございます!」
ついに俺はやり遂げた。
「彼女『篠崎優陽』さんは、『死』から逃れました!」
あまりの安堵に、へたり込んでしまう。やっと解放される。
「いやー、ホント頑張ったわね!あんた!」
これで彼女は死ぬ事無く生きていける。俺も…。
「さあ!これであんたの役目は終わりよ。」
「………え?。」
「そういう契約だったでしょ?。彼女を助ければ、あんたは死ぬ。」
そんな…俺は…俺…は…。
「あんたの願いは叶ったのよ。ほんと、お・め・で・と・う!」
少女が満面の笑みで、俺を見下ろす。
「じゃあね!」
その言葉と同時に、俺の足元から無数の手ともやが俺を包み…。
「いやだ!」
後には少女だけが、満足そうな笑みを浮かべていた。
「彼を助けたいの。」
「へぇ。」
興味深そうに、少女は笑みを浮かべる。
「私は死んでも構わない!。だから…彼だけは…。」
「大丈夫ですよ。それ程強い願いなら、きっと叶います!。」
…そう、彼のようにね…。
-あははははははははははははは!あーっはははははあはははああはははははははは!
読了ありがとうございます。いつも読んで下さる方々のおかげで、続きが書けます。本当に感謝を。
次回『休みが欲しい』は水曜です。ではまた