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助け


「そうですか。」

 

 目の前にいるスーツ姿の女性に、真剣な眼差しで答える。


 「はい。必ず、助けたいんです。」


 「俺たちはどうなってもいい!だが、あの子だけは…あの子だけは絶対に助けたいんだ。」


 願いを叶えてくれるというこの女性。「あなた方の願いは?」と聞かれたから、そう…答えた。


 女性は、しばらく考え事をするように顔を伏せていたが…。


 「分かりました。お二方共に、死は免れません。これは確定しています。」


 女性は、私達に言い聞かせるようにゆっくりと話をする。


 「しかし…正直言いまして、お子さんの死が未だ定まっていないのです。」


 「…どういう事ですか?」


 妻の問いに、女性が返す。


 「端的に言いまして『願うだけ無駄』となる可能性があります。」


 -よく解らない。


 「うちの子を『死ぬ可能性が極端に高い』から助けたい。ではダメなんですか?」


 「いえ…そうですね…。結論を言いましょう。お子さんは今日死ぬ事はありません。」


 女性の言葉に、妻は両手を合わせて喜んだ。しかし…。


 「しかし…、後日死ぬ可能性がとても高いです。」


 「そうなのですか?」


 女性は、少し考えた後。「その通りです。」と返してくれる。


 「それは、ケガ等を負う事により…と言う事でしょうか?」


 女性は、また少し考え頷いてくれる。


 「それでは…『願い』なんですが…。」


 俺は、女性に提案を持ちかける。


 1、俺が我が子を『30年間死から遠ざける』を願う。


 2、叶わなければ、妻が同様に願いを祈る。


 3、俺が叶えば、妻は別の願いを祈る。


 「如何でしょう?」


 女性は、すぐに「可能です。」と返してくれた。


 では…と俺が開始をお願いしようとしたが…。


 「少し説明をさせて下さい。」と、遮られる。


 「願いは『確固たるモノ』でなければ、叶う事はありません。どうか旦那さんが叶えた場合、奥様はその事をよく考えて『願い』を口に為さって下さい。」

 

 女性の言葉に、全身に強い力が宿るのを感じる。妻を伺えば、強い頷きが返された。


 「では、始めます。『審判!』」


 女性の言葉とほぼ同時に、カードが二枚降りてくる。


 一枚は『天使』が描かれたカード、一枚は『悪魔』らしきモノが描かれたカード。


 「お好きな方を、お選び下さい。」


 俺は、天使の描かれたカードを手に取る。


 「では、選定を!」


 女性の声と共に、カードが何枚にも分かれ俺の周りを回る。


 「お好きなカードをお取り下さい。」


 こちらからは、全て同じ絵柄に見えるカードが回っている…いや。


 「これを。」


 一枚だけ、我が子に似ていたカードがあったので手に取る。裏返すと…そこには…。


 



 「裁定は成りました。」


 女性の声で我に返る。


 「では、その通りに為さって下さい。そうすれば、お子さんは死を確実に免れます。」


 周囲を見渡すと…そこは。どこかの部屋のようだった。


 「では、私はこれで失礼します。詳しくはカードをご参照下さい。」


 「ま、待ってくれ!妻は!妻は何処に…。」

 

 「まだ、奥様の審判を行っていません。奥様には『願いは成った』とお伝え致します。」


 女性は、それだけ言うとすぐに部屋を出て行ってしまう。…後には、俺だけが残されたのだった。


 







 





 「お待たせしました。」


 女性がどこからか現れ、私に頭を下げた。


 「夫は…どこに居るんですか?」


 「旦那さんは、今願いを叶えていらっしゃいます。」


 「えっと、つまり成功したのね?。」


 女性は少し考え、はっきりと「はい。」と答えた。

 

 「それで、奥様の願いは如何なさいますか?。」


 -私の願いは…。


 「我が子に、健康でお金にあまり不自由なく暮らして欲しいの。」


 「…実に現実的でいらっしゃる。」


 女性は、私の考えに賛同したのか深く頷いてくれる。


 「普通で良い…普通に生きてさえくれれば。私達が生きていれば、あげられたであろう程度のお金と健康をあの子にあげたいの…。」


 「素晴らしいお考えですね。」


 女性は、微笑みながら私を見返す。


 「では、願いは『お子様の健康と一定金銭の常取得』でよろしいですか?。」


 「…お願いします。」


 「では…『Judgement』!」


 カードが二枚降りてくる。


 片方には『天使』が、片方には…『人間?』が描かれたカードが現れた。


 「どちらでもお好きな方を、お選び下さい。」


 私は、少し迷って…。





 …『人間』が描かれたカードを手に取った。


 「選定を!」


 彼女が、声を上げると…カードが何枚にも分かれて私の周りを回る。


 「お選び下さい。」


 言われるがまま、目の前のカードを手に取る。裏返すと…。


 「『献身』ですか…。」


 そこには、妙にリアルな『身を刻まれる人間の絵』が写されていた。


 私が、呆然としていると…パチンという音と共に、ごてごてしたナニカが付いた椅子が下からせり上がってくる。


 「さ、おかけ下さい。」


 恭しく傅く女性。私は、ふらふらと椅子に座る。その瞬間。


 バシィ!という音が響き…手足と胴、それに頭が固定された。


 「これより、奥様には『献身』していただきます。」


 -声が出ない。出そうとしても、息となって音にならない。


 「文字通り、『身を粉』にしていただきます。」


 …へ?それって…つまり…。


 「お子様が将来使う金額を、貴方の体を材料にお作り致します。」


 体に震えが走る。


 「お止めになりたい時は、いつでも仰って下さい。すぐにお止めします。もっとも…その場合、願いは取り下げられますが…。」


 …足に、ザラザラしたモノがあたる。腕に何かが突き刺さる。


 「『健康』ですが…、奥様がお子様の代わりにその身に受ける事が可能です。これも、止める事が出来ます。年代が若い順に、罹った病気やケガをそのお体に再現します。」


 熱い熱い熱い痛い痛い痛い…。


 「奥様ですが…すでに死亡なさっております。ですので、望まぬ限り…願いが完全に成就されない限り、その身が消える事はありません。」


 痛い寒い痛い寒い…。


 「…安心して、お子様の為にその身をご活用ください。…聞いておられますか?。」


 -ああ!嗚呼!アア!。


 「素晴らしい『献身』です。これはきっと完全に成就されるでしょう。本当に愛してらっしゃるのですねぇ。」


 女性は、深く深く頷くと…ビクビクと震えるだけになった奥さんを残し、その空間を出て行った。









 



 カードには『翼の生えた子供と、それを後ろから見守る大人の絵』が描かれ、その下に文章が書かれていた。


 ○貴方が部屋を出ない限り、貴方の子は『死ぬ事が無い』。


 ○貴方はいつでも部屋を出る事が出来る。ただし、戻る事は出来ない。


 ○部屋にあるモノは、持ち出す事は出来ない。


 ○部屋の外に干渉する事はできない。してはいけない。


 

 …なんだ…これは。


 改めて、部屋を見渡す。


 6畳ほどだろうタイル張りの部屋、窓は一つカーテンで掛けられている。部屋の隅にテレビが一つ。


 後は、出口であろう扉に『注意:ここを出ると願いは消え、戻る事は出来ません』の張り紙が一枚。


 他には、何も無い。トイレや水道、コンロや明かり等、人が生きる上で必要であろう物が何一つ無い。


 テーブルも無ければ、寝具のたぐいも無い為、床で寝る事になるのだろう…『タイル張りの床』に。


 取り敢えず窓の外を見る…暗くて何も見えない。外は夜なのだろうか。


 テレビをつけてみる…息子の姿が映った。


 「おお!」

 

 息子は無事だったようで、病院のベッドの上で俯き、肩を落とし…そのまま動こうとしなかった。


 …ずっと。看護師さんが来て、採血をする時も、声をかけてくれてる時も。動く時は、たまにトイレに行く時のみ。


 生きる気力というモノが、一切窺えなかった。


 「おい!どうした!どうして…。」


 俺は画面に向かって声をかけるが…当然、意味は無い。呆然と…してしまう。


 しばらくすると、外が明るくなってきた。窓から外を見る…と。


 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 妻が椅子に座り…全身を切り刻まれ、燃やされ、刺され、削られ…再生しては同じように、もしくは違うやり方で…磨り潰されていた。


 酷い…酷すぎる。俺が扉に手をかける…と。


 「手紙?」


 一枚のはがきが、扉の下から入れられていた。はがきには、ただ一言…。


 

 『あの子の為に』


 

 と、綴られていた。


 俺は…ドアノブを握る手を、ぐっと押さえつけ。部屋に戻った。


 テレビでは、息子が死んだように動かない姿が。窓には、妻が磨り潰される姿が映る。


 「願いは…叶ったのでは無いのか…。」


 いや、確かに叶ったのだろう。


 「でなければ、何の為に…。」


俺の言葉は、空しく響くだけだった。





読了ありがとうございます。次回『死者蘇生』は日曜の予定です。ではまた。

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