復讐
-許せない。
一人の少女が、部屋のベッドの上でうずくまっている。
-あいつら、絶対に許せない。
膝を抱え、顔を膝に当て、ギリギリと音がするほどに歯を鳴らす。
-復讐してやる。絶対に復讐してやる。殺す殺す殺す。
「マイ。どうしたの。」
部屋の外から声が聞こえる。母の声だ。
「うっさい!どっかいけ!。」
ドアに目覚まし時計を投げつける。ドン!という音共に、すぐ静かになった。
「許さない許さない許さない。殺す殺す殺す」
「それが君の願いかい?」
声がした。ハッとして顔を上げると、スーツを着たおじさんが椅子に腰掛けていた。
「あんた、誰?なんでいんの?」
怒りと共に睨み付け、声に出す。
「願いが聞こえたものだから私が来ました。そう、強い強い…とても強い願いがね。」
おじさんは真顔でこちらを見返す。
「大声出すよ。」
部屋の外には、まだ母が居るはずだ。
「お好きに。だが、君にはやりたい事があるでしょう?。強く強く…そう、自身を顧みないほどに叶えたい願いが。」
じっと、ただ視線を合わせる。どれ程時間が経ったか。一言。
「叶えてくれるの?」
「願ってみるといい。」
一瞬の躊躇…そして。声が出た。
「あいつらに復讐したい。」
「願い、聞き届けた。」
おじさんは、立ち上がると両手を大仰に拡げる。
「では、始めましょう『ジャッジメント』!」
目の前に、二枚のカードが降りてくる。
片方は『天使』が描かれたカード、片方は『悪魔』らしきものが描かれたカード。
あたしは…
迷わず、悪魔のカードを手に取る。
「そちらで良いのかな?」の問いに頷きで返す。
「選定を!」
おじさんの声で、カードが何枚にも分かれあたしの周りを回る。
目の前の一枚を手に取る。裏返すと…。
「ピンボール?」
カードには、何か機械の絵とカタカナで『ピンボール』と書かれていた。
「おお!中々楽しそうなモノを引きましたね!」
おじさんが楽しそうに、くるりとまわり…指を鳴らす。
パチン、の音と共に床から何かがせり上がって来る。
「これがピンボール台です。さあ、こちらに。」
促されて、台の近くへ。台には、穴がいくつか開いていて、穴ごとに絵が描かれている。
「ここから球を打ち出します。そして、落ちた穴によって結果が変わります。」
おじさんが、絵を指さしながら続ける。
「この『全員』が書かれた所に落ちれば、全員に復讐が為されそれを鑑賞する権利が得られます。同様に、この『顔』が描かれた所に落ちればその人物に復讐が為されます。」
「二人とか、三人は?」
おじさんは、眉根を寄せ答える。
「増やしたいのは山々ですが、この機械を選んだのは貴方ですから。」
そう言って、首を横に振った。
「この、一番下の穴は?」
一番下、なにも描かれていない穴を指さす。
「そこは『はずれ』です。」
-はずれ?
「つまり、自力でどうにかしてください。と言う事です。」
「願いを叶えてくれない…ていうこと?」
「いいえ。それは違います。」
おじさんは、少し考えて…。
「とりあえず。やってみましょう。やる前からダメになる事を考えてもしょうが無いでしょう。」
おじさんが、銀色の玉を取り出して台に設置する。
それからあたしは、実際に何発かやってみて操作を覚える。打ち返しバーがうまく球に当たって『全員』の穴に何度か入った。
「そろそろいいでしょう。」
おじさんに頷く。
「本番は、貴方の『魂』を打っていただきます。」
-おじさんは、今、なんと言ったのだろう。
「貴方の『魂』を使用するのです。」
「たま…しい?」
「左様です。これは『貴方の復讐』なのですから、貴方自身の魂で行わなければ成りません。」
あたしを見るおじさん。
「練習通りにやれば大丈夫ですよ。さあ、魂を…。」
………少しの逡巡。と、決意。
「…どうすればいいの?」
「なにも台に設置せずに打ち出すだけです。」
おじさんは笑顔でそう言った。
打ち出す棒を握る。すると…。
「青い…玉?。」
蒼い炎を纏った玉が、打ち出す場所に現れる。
「それが魂です。綺麗な蒼ですね、若い魂はそれだけで美しい。」
おじさんが何か言っているが、無視して打ち出す。
バン!と言う音と共に、玉が…魂が打ち出される…痛い。
「痛い!なんなのこれ!。」
胸に痛みが走る、まるで何かに叩かれたような…叩かれた?。
「当然でしょう。貴方の魂なのですから、痛いのは当たり前です。」
「騙したのね!」
おじさんは首を振りながら「人聞きの悪い」なんて返してくる。
胸を押さえてる間に、真っ直ぐ打ち返しバーの上に玉が来る。何とか打ち返すが、力が足りないのか『全員』のポケットに届かない。
「う”う”!痛い…。」
打ち返しも、やはり痛みが伴う。落ちてくる玉を打ち返そうと、構えて待つ…すると。
「なに…これ…。」
『はずれ』の穴から、骨やぐちゅぐちゅになった何か、黒い人型の霧みたいなものが湧き上がる。
「それは、亡者ですね。」
何でも無いように、おじさんが答えた。
「なによ…それ…。」
「つまり、貴方の魂を引き込もうと…打ち返して!」
おじさんの声にハッとして、慌てて打ち返す。
「いっつ!」
全力で打ち返してしまい、激痛が走る。思わずうずくまるが…。
「早く戻って下さい!死にますよ!!。」
その声に、なんとか台に戻る。
「騙したのね!あたしは死にたくない!」
「先ほども言いましたが、選択したのは貴方です。私は提示したに過ぎない、というか提示以外出来ないのですよ。」
話している間も、必死に球を打ち返す。胸の痛みが打ち返すごとに酷くなってくる。
「死にたくない!」
亡者の群れが、先ほどより上がってきている気がする。
あたしは泣きながら、痛みに耐えながら必死に、必死に打ち返す。
「死にたくない!死にたくない!死にたくないよ!」
幾度も幾度も打ち返す…が。
…あ
打ち返しバーのタイミングが遅くなり、ついに玉が…『魂』が亡者達に捕まった。その瞬間。
「きゃあああああああああああいやあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………。」
足下から亡者の群れが現れ、あっという間に彼女を引き込んでしまった。
一人残ったおじさんが、とても残念そうに首を振り消え去る。
そして部屋には、誰も居なくなった。
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後日、彼女が通っていた学校には一つの噂が流れた。
曰く、彼女を苛めていたヤツが呪われた。
曰く、彼女にちょっかいを出したヤツが亡者の群れに襲われた。
曰く、彼女の友達が彼女に連れ去られた。
曰く、曰く、曰く…。
「願いが叶わないとは、私は言ってませんよ。」
「あの状況だと、そう思うでしょ。」
「それは申し訳ない。」
そんな会話が、あったとか。
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