死にたくない
真っ白な空間に、声が響く。
-貴方の望みは、何ですか?。
「俺の…望みは…。」
-その望み…。
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…衝撃…衝撃…衝撃。
-痛い。頭が痛い左腕が痛い肩が痛い腹が痛い足が痛い腿が痛い。全身が…痛い。
-クソ車!。一方通行道路で対向車が来るとは…。いや、そういうニュースも多い。予想してなかった俺が悪いのだろう。
どうにか車の外に出る。
「い`っっ!」
出ようとしたが、あまりの痛みに断念。右目がまだかろうじて開く、左目は…開かない。
おそらく、座席とハンドルに挟まれたか。倒れてるのは運転席、車内だろう。首は…回らないか。
見える範囲にはなにも無い。暗闇が覆う深夜、人影すら無い。
-助けは…望み薄か。まだ痛みを感じるだえk、生き残る可能性があるはず。
「だ…。」
それ以上声にならない。咳をしたいができない。
血がだいぶ出たのだろう、寒気が襲ってくる。寒い寒い寒い。
-死にたくない、死にたくない死にたくない痛い痛い死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…死にたく…ない。
「その願い、聞き届けました。」
声が聞こえた。両目を開く。
「誰だ、あんた。」
声が出た。
「あれ?俺…今。」
体を触る。手が動く。痛くない。周囲を見ると、目の前におっさんが一人。
「いやー、危ないですな!」
おっさんの後ろには、さっきの対向車だろう車が横転している。あれでは、中の人は助からないだろう。振り返ると…
「はぁ!?。」
俺が居た。ぶつかった衝撃だろう、運転席が前方から押されて俺の腹を押しつぶしている。
「さて…私を呼んだのはあなたですかな?。」
おっさんが問うてきた。
「え?さあ、これどうなってんの?俺死んだの?なんでこうなってんの?」
俺が聞くと、おっさんは笑顔で。
「それを知る事が、あなたの願いですか?」
困惑する俺に、おっさんがもう一度問う。
「そんな事が、あなたの望みなのですか?本当に…そんなくだらない事を…聞きたいのですか?」
望み…。そうだ、そんな事はどうでも良い。俺は…俺が望む事は…。
「死にたくない。俺は死にたくない!まだ、死ねない!絶対に死にたくない!」
そう叫ぶ俺に、おっさんは笑顔で頷く。
「そう、そう聞こえてこの場に参りました。しかし…本当に『死を免れる事』が貴方の望みなのですね?」
「そうだ!」俺は間髪入れずに答えた。
「分かりました。では、始めましょう!『Judgment』!!」
おっさんが、大声を張り上げ。両手を拡げると、二枚のカードが降りてくる。
片方には『天使』の絵柄が、片方には『悪魔』であろう絵柄が記載されている。
「お好きな方をお選び下さい。」
天使のカードを手に取る、裏表共に同じ絵柄が描かれている。
「そちらでよろしいですか?」
おっさんが聞いてくる。俺は首を振って、もう一枚を手に取る。悪魔のカードは、表は悪魔だが裏は白紙だった。
俺は…。
天使のカードを手に取り、掲げた。
「よろしい!。」
おっさんが指を鳴らすと、カードが何枚にも増えて俺の周りを回り出す。
「どうぞ、好きなカードをお取り下さい。それによって選定方法を決めます。」
俺は目の前のカードを手に取る。裏面には『天秤』が描かれていた。
「おお!もっともオーソドックスなタイプをお引きなさいましたか。」
おっさんは、大仰に手を上げ驚きを表現していた。
「ルールは簡単です。」
おっさんは石を一つ拾い上げ俺の体がある、車の上に乗せる。
「貴方が自身を『悪い人間だ』と思えば、石は大きくなり貴方を潰す。逆に『良い人間だ』と思えば、貴方の体は治り車外に出られる。」
簡単でしょう?。おっさんは、そう言いつつ車を叩く。
「では始めましょう!裁定開始!」
その声に、俺の意識は途切れた。
「なにすんだよ!」
子供が石を投げていた。
「痛い!止めてよ!」
「うるせぇ!クズが、早く-ね!」
痛そうに、うずくまる子。構わず石をぶつける子達。
笑いながら石をぶつけ続ける。
少しして場面が切り替わる。現れるのは父親。
父が居間で寝ている。財布がテーブルの上に置いてあった。男は財布に手を伸ばし…。場面が変わる。
「うら!良いだろう!!」
「やえへ!いたい!もういや!」
女が組み伏せられ、男が腰を振っていた。それを眺める男。
また場面が変わる。
「ようやく、ここまで来ましたね。」
「ああ、長かったな。もうすぐだ。」
男が二人、会議室だろう場所で向かい合っていた。もう一人、男が部屋に来る。
「主任!浅田が-。」
いくつもの場面が流れる。これは、走馬燈か。
俺の人生が映画のように流れていく。最後の最後、男が乗った車が対向車とぶつかる所で映像は終わった。
「どうだったかな、審判は。この世界には、善悪を決める神はいない。故に、その罪は本人しか決める事ができないんだよ。」
-なるほど。そういうことか。
俺は後ろを振り返る。車は…。
岩につぶされていた。
「審判はなった!残念だったね。」
「いや、そうでも無い。」
「そうかい?。あ、道は分かるかな?」
「ああ、案内はいらない。」
「そうかい。」
おっさんは一つ頷くと、空気に溶けるように消えた。
そして後には死体だけが残った。
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