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恋をした相手は、同級生のAV監督でした。  作者: 香坂 蓮
彼女は意外と頑固である
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1-6 張り込み娘とハンサム

 ハンサムが登場します。


 では、どうぞ!

 空は青く雲一つない。日曜日という名にふさわしいような天気であった。九月はもはや残暑と呼ぶべき時期であるはずだが、いまだ夏の盛りのような暑さが続いている。昼には焼け付くような暑さになりそうな、そんな朝である。人々は汗を拭い暑そうにしながらも、お出かけ日和といって差し支えない一日の始まりを楽しんでいるように見えた。明らかに不信な女子高生の二人組を除いて。


「ねぇあやちゃん……十時だったよね」


 時刻は朝の九時四十分、待ち合わせの時間までまだ二十分もある。


 張り込みがバレるわけには行けないので、二人はかなり早くに○○駅に着くよう計画を立てた。駅に着いたのが九時二十三分。○○駅は都心に向かう路線が乗り入れるターミナル駅であるためそれなりに大きい。とはいえこの暑い中、待ち合わせに使うならばだいたい場所は絞れてくる。念のため電子マネーをチャージした笑麻と綾香は推定される待ち合わせ場所を物陰からこっそりと監視し始めた。


「うん。ちょっと早すぎるな」


 そして監視を始めた直後に悠斗が現れたのである。待ち合わせの十時まで三十分はあろうかというタイミング。他の待ち合わせ候補地と二手に分かれた方がいいかと相談し始めた矢先の出来事であり、気付かれることはなかったものの油断していた二人は大いに慌てることになった。


「こんなに早い時間から待ってるなんて……やっぱり彼女かなぁ」


 いつかの日と同じようにスマホに目を落としている悠斗を眺め、笑麻からため息が漏れる。友達同士の待ち合わせなら十分前でも充分早い。ギリギリに着くように家を出て、遅れる場合は携帯で連絡するという事すら珍しくはない。先入観があることは自分でも分かっているが、目の前にいる悠斗が大好きな彼女との待ち合わせに遅れないよう早すぎる時間から待つ健気な男子にしか見えなかった。


「まぁ……気合いは入ってるよね」


 爽やかな水色のシャツは夏らしく、淡いベージュのカーゴパンツは上手く悠斗のぽっちゃり体型を隠しながらも太くは見せないデザインである。シンプルでありながらもセンスの良さがにじみ出ているその服装は、まさに夏のデート服という感じであった。


 一方で笑麻と綾香は悲惨である。


 とにかく目立たないことと動きやすさを重視した結果、Tシャツとジーパンという組み合わせが被ったが、”双子コーデ”というには色味が似ていないという中途半端な有様。唯一帽子のチョイスは笑麻が麦わら帽子で綾香がキャップと分かれたが、両者とも目深にかぶっているためなんとなく野暮ったい印象を与えてしまっている。


 いくら張り込みをするにしろ、もう少し服装も気にするべきだったと、互いの服装を見て反省した笑麻と綾香であった。


 時刻は間もなく九時五十分を迎える。もはやいつ待ち合わせ相手が現れてもおかしくはないと二人は気を引き締めてあたりを見渡す。


――高校生くらいの女の子。彼女だったらお似合いかも。……違った。


――どう見ても社会人のお姉さん。さすがにあれは……ですよね。


――中学生か下手したら小学生。……よかった。


 行き交う若い女性は全員容疑者である。そんな、少しおかしなテンションで悠斗を注視していると、ついに彼に近づく人影が現れた。


「……うそ」


「かっこいい……」


 現れたのは男だった。それもとびっきりのハンサムボーイ。


 背はすらっと高く、180cmは優に超えているであろう。そのうえ脚がとんでもなく長く、顔はソフトボール程の大きさしかない。スキニージーンズを履きこなし腕まくりしたジャケットとの色合わせも完璧である。少し細い目は優しく涼しげである。塩顔イケメンという言葉を辞書で引けば具体例として出てきそうな顔立ちは、一体何人の女子を虜にしてきたのだろうか。現に何人かの女性が彼のことを横目で見ては顔を赤く染めている。


「相変わらずはえーんだよ。どうせまた三十分前から待ってたんだろ?」


「うるさいな。今来たところだよ」


「ったく……いいか?何度も言ってるけど俺は絶対十分前にしか来ないからな?」


 親し気である。


 何よりも笑麻と綾香を驚かせたのは、悠斗が笑顔こそないものの明らかに表情が柔らかなことだ。少なくともいつも学校で見せる「近づくなオーラ」のようなものは出ていない。またハンサムの方も全く気負うことなく、むしろ悠斗を信頼しているかのように接している。それはまるで幼馴染である自分たちのような関係性のように感じられた。驚く笑麻と綾香をよそに悠斗とハンサムの会話は進む。


「もういいよ。さっさと行こう」


「そうだな……その前にっ!」


 突如こちらを向いたハンサムに笑麻と綾香は硬直する。距離はあるもののその瞳は間違いなく笑麻と綾香を捉えていた。真に驚くと人間は目をそらすということすらできないらしい。


「あそこに隠れている二人組は悠斗の知り合いか?」


 どうやらハンサムは視野まで広いらしい。悠斗には全く気付かれなかった二人の張り込みは、突如現れたハンサムによってあっさりとばれてしまうのであった。


「……いや、知らない」


 二人の存在に気付いた悠斗は一瞬目を見開き、その後、遠目からでも分かるほどの不愉快オーラを出し始めた。


「うん……その反応は知り合いだな。よしっ!おーいそこの二人!出ておいでよ」


 ハンサムがこちらに向けて手を振っている。そしてその横では監視対象である悠斗が無機質と言えるほど冷たい瞳でこちらを見ている。思わず目を見合わせる笑麻と綾香。ここまで完全に見つかってしまった以上、もはや観念して出ていく以外に道はなかった。


「その……おはよう、田島君」


「おはよう……」


 気まずい。その言葉がぴったりとあてはまるような顔で挨拶をする笑麻と綾香。対して悠斗は冷たい目を向けるだけで完全無視である。


「おいおい悠斗!こんなにかわいい子二人を前にして無視はねーだろ!?ってか俺一人蚊帳の外なんだけど!?紹介しろよー」


 場を和ませるようにハンサムの明るい声が響く。笑うと線のようになる瞳は初対面であることを忘れさせるような親しみを感じさせた。


「初めまして!田島と同じクラスの宮本綾香と言います!」


 こういう時、思い切りがいいのはやはり綾香である。それにつられる形で笑麻も自己紹介をする。


「初めまして。小松笑麻といいます。その……田島君の友達です」


 言っている最中に、笑麻は自分が勝負に出ていることに気付いた。悠斗のことだ、「君と友達になった覚えはない」とバッサリやられる確率は高い。そのため語尾に向けてドンドン声が小さくなる尻すぼみな自己紹介となってしまった。


「宮本さんに小松さんね!俺は悠斗の友達で黒木翔太(くろきしょうた)っていいます。よろしくね」


 幸い悠斗がバッサリと斬る前にハンサムこと翔太が自己紹介を済ませる。気軽な、それでいて下心を感じさせない翔太の態度に綾香は好感を持った。ちなみに笑麻は悠斗が向ける冷たい瞳が気になってそれどころではない。


「それにしてもさぁ……二人して隠れて見張ってるなんて……悠斗モテモテじゃん」


 一番触れてほしくないところをいきなり触れられて再度固まる笑麻と綾香。悠斗から発せられる空気がさらに冷たくなったのは気のせいだろうか。その間も翔太は「服も動きやすさを重視したって感じだし……張り込みじゃん?」などといって笑っている。


「……で、何してるの?」


 一言。ようやく悠斗が口を開く。小柄でぽっちゃりした体型に合わない低い声に、特に笑麻は身をすくませる。一方で綾香はなんとか誤魔化せないだろうかと必死に脳を回転させていた。


「何言ってんだよ悠斗、お前が原因だろ?」


 冷たい目が自分の方を向いても翔太は一切動じない。


「お前のことだ、どうせ学校で誰とも関わらないようにしてんだろ?そんな態度とってたら『どんな奴なんだろう』って興味を持つ子が出てくるに決まってるじゃねーか」


 無理がある主張である。普通はそんな孤高を気取っている奴は誰からも相手にされない。ましてプライベートの約束に張り込みまでするような物好きなどいるはずがない。


「こんなかわいい子達に興味を持ってもらえるなんて……超ラッキーじゃねーか」


 しかし考える間もなくまくしたてられるとなんとなくそんな気分になってくる。翔太が醸し出す柔らかい雰囲気もこの妙な説得力に寄与しているのだろう。


「それでさ、お二人さん。俺たちはこれから服を買いに行くんだけど……一緒に来ない?」


 その提案に悠斗は再び目を見開き、翔太の顔を見つめる。とはいえ今回はほんの少ししか表情が変わっていない。


(あっ……これは『こいつ何言ってるんだ』って顔だ)


 それでも笑麻には少しずつだが悠斗の表情が読み取れるようになってきていた。一週間にわたる情熱的な観察はどうやら少しずつ実を結んできているらしい。


「いやそれは……邪魔しちゃ悪いし」


「邪魔なんてとんでもない!こんな目つきの悪い男と二人きりよりもよっぽど華やかでいいよ」


 そんな悠斗を尻目に翔太は話をどんどん進めていく。


 対応するのは綾香であったが、気付けば翔太のペースに引き込まれており、あっという間に四人で駅から徒歩圏内にあるファッションビルに向かうことになった。さらにはいつの間にか敬語もなくなっている。


「それじゃあ行こっか」


 その一声と共に翔太は悠斗を引きずって、女子二人を先導する。顔を少し悠斗の方に近づけ何か小さい声で話しかけているようだが、その内容は笑麻にも綾香にも聞き取ることが出来なかった。


「なんか……すごいことになっちゃったね」


 笑麻は思わずつぶやく。


「そうだね。でも田島のことをもっと知るチャンスだよ?ラッキーじゃん」


 そんな笑麻を鼓舞するように綾香は軽く笑麻の肩を叩く。


 こんなことになるのならちゃんとした服を着てくるべきだった。女子二人はそれぞれ内心で後悔する。しかしその色合いには少し差があるようであった。


 イケメンではありません。ハンサムです!


 どうも!よく分からない部分にこだわりを持っている、香坂です。

 

 いやぁ……なんででしょうね?翔太のキャラを考えている時、頭に浮かんだのがハンサムだったんです。イケメンでは表現しきれてない気がするんですよね。


 そして、今回の話で困ったのが、「いかにも尾行用の服装」です。

 

 いや、どんなんだよそれ!?と書いている途中で本人が突っ込みました。当初は、夏であるという設定を忘れて、トレンチコートを着せようか、などと考える有様です。


 さてさて今後どうなっていくのやら……。是非、お付き合いください!


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