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恋をした相手は、同級生のAV監督でした。  作者: 香坂 蓮
彼女は意外と頑固である
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1-3 なんであいつなんかの所に?

お読みいただきありがとうございます。

 『千年に一人の美女』が同じ学校にいたとして、果たして告白することが出来るだろうか。

 

 普通の高校生男子なら、まず自分には分不相応だと諦めるだろう。仮に告白が成功したとして彼女の隣に並ぶ自分のアンバランスさに落ち込む者が出てくるだろう。また、学校中の男子からの恨み辛みを集めることを想像し身をすくませる者もいるかもしれない。

 

 結局のところ高校という場所において、『千年に一人』とまでいかなくとも、あまりに美人すぎると、意外と告白してくる者は少ないのである。自分自身に過剰な自身を持つナルシストや、憧れをこじらして自爆覚悟で特攻を仕掛けてくる者を除いては、だが。


 では逆にどのような女子が一番モテるのか。あえてルックスに絞って言うならばそれは『十人に一人の美女』である。クラスで三番手くらいにかわいい子。街中ですれ違えば二度見をすることはなくとも一度は必ず見てしまう。高嶺の花過ぎず、しかしながら自分には贅沢だと感じるくらいの女の子が一番モテるのである。そして小松笑麻とはまさにちょうどいい容姿の少女である。

 

 目じりがわずかに垂れ下がった大きめの瞳は愛嬌を感じさせる。本人曰くコンプレックスである鼻は確かに通っていると言えるほど高くはないが、それがかえって可愛らしい。


 そして彼女の容姿の最大の特徴が笑ったときに出来るえくぼである。おとなしいがよく笑う笑麻のそのえくぼに心を打ちぬかれた男子生徒は数知れない。


 結果として彼女の元には大量の彼氏希望者が殺到することになるのだが、その全てが撃沈している。ただ、その断り方が丁寧であることや、一度しか話したことが無いにも関わらず告白してきた男子生徒の名前を覚えていたことなどから、依然として笑麻の人気は衰え知らずなのであった。

 

 つまりこの日の朝に起きたのは、学年でもかわいくて人気のある女子生徒が、これまた変わり者として定評のある田島悠斗の下を訪れるというゴシップ好きな高校生にとってはたまらない事件だったのである。

 

 そしてこのような事件が起きれば、いかに日頃しゃべったことが無い相手であろうとも真相を確かめるために本人に直撃する生徒が現れるのが高校という場所なのである。


 それは二限目と三限目の間の少しだけ長い休み時間に起こった。


「おい田島!朝のあれはどういうことだよ!?」


「なんで宮本と小松さんがわざわざお前のとこに来るんだよ!?」


 田中と山本いう二人の男子生徒が悠斗の席に向かい尋問を始める。

 

 ちなみにこの二人、悠斗と話すのはこれが初めてだったりする。そもそもこのクラスに悠斗に気軽に話しかけられるような親しい間柄の生徒はいない。いや学校中を見渡してもそんな生徒はいないのである。

 

 皆が事情を聞きたいがなんとなく腰が引ける中で、思い切って飛び込んだのがこの二人だったのだ。

 

 ちなみにもう一人の当事者であり悠斗と同じ二年二組に在籍する綾香は、チャイムが鳴ると同時に笑麻の下へ朝の一件を謝りに向かっており、この場にはいない。


「別にたいしたことじゃないよ」


 短く告げると、悠斗は再び次の授業の準備を始める。


「そんなわけねーだろ!?あの二人喧嘩してたじゃねーか!」


「ってか宮本はまだしもわざわざ五組の小松さんが来るってなんだよ!?」


 前者が山本で後者が田中である。

 

 田中は以前、思い切って笑麻で告白し撃沈した過去を持つ。片思いの熱はいまだ冷めていないが、一方で笑麻を困らせるようなことはしたくないと二度目の告白を諦めるよう自分に言い聞かせている切ない男である。そのため笑麻が違うクラスの男子に会いに来るという事件は田中にとって動揺させられるものであった。

 

 そんな田中を見ていられず、真相を確かめようと田中を引き連れて悠斗に直撃したのが山本である。そんな「恋する男とその友」による切実な事情聴取を、悠斗は静かに受け流した。


「落とし物を拾っただけだよ。僕だってわざわざお礼を言いに来るとは思ってなかったさ」


 机の上では既に数学の準備が完成していた。顔をあげた悠斗の、長い前髪の下から覗く鋭い瞳に、二人は一瞬たじろいでしまう。


「あの二人がなんで朝から言い争いをしたのかはあの二人に聞いてくれる?僕には興味のないことだから」


 揺らぐことのない瞳が二人を見据える。二人は完全に呑まれてしまっていた。


 束の間の静寂が三人の間に流れる。それを破ったのは少し焦ったような綾香の声であった。


「どうしたの!?なにかあった!?」


 笑麻のいる五組から帰ってくると何やら教室の雰囲気がおかしい。不信に思っていると近くにいた友人が綾香にその理由を教えてくれたのだ。どうやら自分も原因の一端になっているらしいことを知った綾香は急いで現場に急行したのである。


「いやその……」


「あのさ!昨日、田島が小松さんの落とし物を拾ってあげたから今朝お礼を言いにきたってマジ?」


 口ごもる田中を後目に山本が尋ねる。どうやらコミュニケーション能力は山本の方があるらしい。落とし物という言葉に一瞬綾香は不思議そうな顔をするが、察しの良い彼女はひとまず話を合わせることにする。


「ってか小松さんどんだけ律儀なのよ。落とし物くらいでわざわざお礼言いにくるか普通?」


「笑麻は昔からそういう子だから。それによっぽど大事なものだったんじゃない?」


 朝の一件は真相がはっきりして一件落着、そんな空気が流れ始めたところで田中が口を開いた。


「それで……なんで宮本は朝あんなに怒ってたの?」


 笑麻の落とし物を悠斗が拾った、そこに綾香が怒る余地はない。

 

 とっさに話を合わせていただけにすぎない綾香は、田中の問いに思わず詰まってしまった。


「僕は落とし物を拾っただけなのに、どうやら宮本さんは僕が小松さんに絡んでいるように見えたらしいよ?」


 背後からの悠斗の声に田中と山本の二人は思わずビクッとしてしまう。いつの間にか存在を忘れてしまうほど、悠斗は存在感を消していた。


「いやいや!さすがに落とし物拾っただけだったら分かるだろ!そんなことで宮本が怒るわけないじゃん」


「どうかな?現に君たちだって現場を見たわけじゃないのに僕に絡んできてるじゃないか?」


 現場にいた綾香と話を聞かされただけの田中や山本とでは立場が違うので悠斗の指摘はあたらないのだが、そのあまりに堂々とした口ぶりが妙な説得力を生み、田中は何も返すことが出来なかった。そんな田中と山本をズイッと押しのけ綾香は悠斗に近づきその両肩を掴む。


「悪かったわよ、昨日は。本当に申し訳ないと思っているからこれで仲直りにしてくれない?」


 学校内で誰かと喋っているところをほとんど見たことが無いということは、女子との接点もないだろう。ならば自分が急接近すればこの無表情な男を少しは動揺させられるのではないか。そう考えた綾香のささやかな嫌がらせであった。そんな綾香の「攻撃」を悠斗はやはり表情一つ変えずに受け流す。


「別に気にしてないよ。そもそも仲直りするほど仲良くないでしょ」


 まるで綾香の邪念を見透かしたかのような揺らぎのない瞳に頬が紅潮する。


「あっそ!じゃあこれから仲良くなってやるわよ!絶対に仲良くなってやるんだからね!」


 見事に返り討ちにあった形の綾香は、自分でも意味が分からないような捨て台詞を残して退散する羽目になってしまったのだった。



 桜木高校は近年大幅な改築を行ったばかりであり、生徒たちはかなり快適な昼休みを過ごすことが出来る。例えば学食は公立高校とは思えないほど充実しており、安価で美味しいものを食べることが出来る。校舎前のテラスはさすがにまだ暑いため人は少ないが、春や秋には多くの生徒が集まる憩いの場となっている。熱中症という言葉が世に定着しきってから作られた教室には当然のごとくエアコンが設置されており、涼しい教室で持参した弁当を食べることも可能である。

 

 二年五組の教室では生徒の半分弱が教室に残っていた。いつもならば気の合う友人達とのんびり話をしながら自作の弁当をゆっくりと食べる笑麻であるが、今日に限ってはソワソワと落ち着かずにいた。弁当箱はすでに片づけられ、三十秒に一度は時計を確認している有様である。


「笑麻ちゃん……そんなに気になるんだったら早く行ったら?」


 見かねた友人の一人が声を掛ける。なにせ昼休みが始まったからずっとこんな感じなのだ。いや、挙動不審という意味では朝からずっとであろうか。

 

 笑麻曰く、昨日非常に困っているところを二組の男子に助けられた。

 

 にも関わらずきちんとしたお礼が出来ていないばかりか失礼なことをしてしまった。

 

 今朝一番にお礼とお詫びを言いにいったがそこでも上手く話せなかった。


 なので昼休みにもう一度会いに行きたいが、教室に人が多い時間に行ってはまた迷惑をかけかねないので、人が少ない昼休みの中頃に行こうと思っている、ということらしい。

 

 細かい部分までは聞いていないその友人からしてみれば、どんなことがあればそんなに何度もお礼に行かなければならないのかが不思議であったが、笑麻ははぐらかすばかりで決して教えてくれなかった。またお礼をいいに行くだけなら別に昼休みの初めにサッと行って帰ってくればいいのに、とも思ったが笑麻は断固としてそれを良しとしなかったのだ。

 

 実を言うと笑麻は、二時間目が終わった後の休み時間にもう一度悠斗の下に行こうと考えていたのだ。しかし、教室を出ようとしたところで笑麻に謝りにきた綾香と出くわし、そのタイミングを逃してしまったのである。

 

 ならば昼休みに、と意気込んでいたのだが、綾香からのメールで悠斗がクラスメートから尋問を受けたことを知り、少しでも迷惑が掛からないようにと人の少ない時間を狙った結果が現在の状況なのである。

 

 とはいえ時刻はまもなく十二時半。教室に最も人がいないであろう時間である。笑麻は心の中で「よしっ」と一声気合を入れてから席を立つ。


「ありがとう。ちょっと行ってくるね」


 友人達からのエールを背に、笑麻は教室を後にする。冷房の入っていない廊下は湿気と相まってかなり不快だが、今の笑麻には気にならなかった。あっという間に近づいてくる二組の教室を前に、笑麻は再度心の中で気合を入れなおす。時間にして約三秒、目を開けた笑麻は二組の教室のドアを開けた。真っ先に悠斗が座っていた席を確認する。


「いない……かな?」


 残念なようなほっとしたような、なんともいえない脱力感が笑麻を襲う。そんな笑麻に一年生の時のクラスメートが声を掛ける。


「あれ?笑麻っちどうしたの?綾香は多分生徒会だよ?」


「ありがとう、真理ちゃん。田島君ってどこにいるか分かる?」


 声を掛けてくれた友人に近づき、周りに聞こえないよう小さな声で尋ねる。真理は少し不思議そうな顔をしながら答えた。


「田島?ちょっと分からないなー。あんまり気にしたことないから微妙だけど、昼休みに教室にいる印象はないかも」


「そっか……ありがとう」


 手を振る友人に笑顔で手を振り返し笑麻は二組の教室を後にする。教室にいないとすれば後は食堂かテラスかといったところであろう。まだ昼休みは三十分以上残っている。なんとか見つけられるだろうと、笑麻はのんびり歩き出すのであった。


 たまに廊下ですれ違う。その度に、笑顔で挨拶をしてくれる笑麻。その笑顔が、田中の心を締め付ける。

 

 ……田中ー!(´・ω・`)


 というわけで、田中は非常にいい奴です。


 いい奴だからこそ、告白を断り申し訳なさそうにしている笑麻を必死でフォローしたわけです。


 その結果、友達のままではいられたけど、恋心を諦めることが出来ない状況に追い込まれた。そんな切ない男なのです。


 完全な脇役、なんなら下の名前すら決まっていない。


 にも関わらず、作者の思い入れが強い男。


 そう、それが田中なのです。


 ちなみに、ドラゴンシティにおられる方とは無関係ですのであしからず。

(金髪ロリ文庫先生、すいません!)


 次の話もお付き合い頂けると幸いです。


 それでは!

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