3-11 ~ エピローグ 恋人達の日 ~
本日複数更新のため、ご注意ください。
最終話です。どうぞ!
8/23 改稿しました。
終業式の日、桜木高校の生徒達はざわついていた。
それは、長期休暇直前の浮かれた雰囲気というだけではない。多くの生徒が、前日に行われた悠斗の記者会見のことを知っていたのだ。
悠斗の記者会見を生で全て観たという生徒は、さすがにほとんどいない。しかし、インターネットが発達した世の中である。記者会見をしたという事実はすぐに広まり、ネット上で拡散された記者会見の映像を多くの生徒が見ていた。
好意的な者、無関心を装う者、そして悠斗が嘘をついていると邪推する者。
受け取り方は人それぞれである。
そんな中、笑麻と親しくしている友人達は、何も言わなかった。
普段通りの会話を笑麻に投げかけ、その傍らからは決して離れない。
彼女達の気遣いが、笑麻にはとても嬉しかった。
………
……
…
終業式と言えば、どこの学校でも恒例の、校長先生によるありがたくも長ったらしいお話である。
高校生らしい、節度ある行動を求めるよくある話。しかし、その話の中で「インターネット上でむやみに人を傷つけるような言動をしない」という注意が出たのは、きっと悠斗の件があったからであろう。
その後は特に変わったこともなく、終業の時間を迎える。一緒に帰る約束をしていた綾香と合流し、友達に年末の挨拶をしながら笑麻は家路についた。
家に帰った笑麻は、制服のままベッドへと倒れ込む。
自分ではそんなつもりはなかったが、やはり緊張していたのだろう。冬休みの始まりは、笑麻に安堵をもたらしていた。
明日は12月24日、クリスマスイブだ。
残念ながら、悠斗と一緒に過ごすことは無理そうである。
今も悠斗は、取材を受けるなど、必死に戦っているはずだ。そんな悠斗を邪魔したくはない。
日付が変わる頃に、『メリークリスマス』とメールを送ろう。少しくらい、悠斗が気を緩めるタイミングも必要なはずだ。
返って来る返事は、きっとひねくれているに違いない。例えば、『クリスマスは今日じゃない、明日だ』とか。
そんないつも通りの、少しひねくれたやり取りを楽しみにしつつ、笑麻はいつの間にか眠ってしまっていた。
冬の冷たいベッドが、少しずつ温められていった。
※
流れるように時は過ぎ、十二月も二十八日になった。
街を彩っていたクリスマスイルミネーションも片づけられ、人々は今年の終わりを実感している。今日が終われば、年末年始の休みに入るということで、ラストスパートをかけている人も多いことだろう。
そんな中、笑麻は緊張の面持ちでカフェオレをすする。
――カラン、コロン
小気味いい音と共に開く扉。
時が止まったかのような時間が流れ、ついに待ち人がその姿を見せた。
「悠斗くん……久しぶり!」
いつかも利用した喫茶店の半個室。長く待ち焦がれた相手との再会に、笑顔と涙をこぼれた。
「……久しぶり」
一言。
しかし、その言葉に万感の想いを込めて、悠斗は席に着く。
記者会見が終わってからは、本当にバタバタと時間が過ぎていった。
何件ものメディアから、取材を受けた。
AV業界への誤解を解くため、またよりよいAV業界へと足を踏み出すため、全力で頑張ってきた。
悠斗が、隠れることなく堂々と取材に応じたため、メディアの報道は心なしか好意的なものへと変わってきている。また、悠斗を付け回すような記者の姿も消えた。
数日前には、さくらが被害届を取り下げ、同時に謝罪文を公表した。
AVへの出演強要が嘘であったことを告白するその謝罪文には、全ての責任が自分にある旨が書かれていた。
『私の軽はずみな嘘が大きな問題となり、多くの方にご迷惑をおかけしてしまいました』
自らの身勝手さを謝罪する文章。
これまでAV業界を非難しつづけてきたマスコミは、現在その矛先をさくらに向けていた。なお、当のさくらは警察にて取り調べを受けている。
「大変だったね……」
悠斗から、その後の話を聞いた笑麻は、しみじみと言葉を漏らす。
目の前に座っている悠斗が、以前よりも少し大きく見えた。
「君に……お礼を言いたい」
カフェオレを飲み干した悠斗が、居住まいを正して笑麻を見つめる。
「君が側にいてくれたから……僕を支えてくれたから、僕は戦うことが出来た。僕一人では、あの場には立てなかった。」
――本当に、ありがとう。
「本当に……大変だったね!頑張ったね!」
涙はもはや、止めることが出来なかった。
大いに泣き、しかし微笑みを浮かべる笑麻に、悠斗は困ったような表情でハンカチを渡す。
しばし二人は、言葉を交わすことなく見つめ合う。
喫茶店のマスターがそっとテーブルにカフェオレを置き、奥へと戻った。
サービスです、という言葉を残して。
「来年のクリスマスは……どこかに行こうか」
唐突に、悠斗が告げる。その視線は笑麻を捉えていた。
一瞬驚いた顔をした後、笑麻はイタズラっぽく笑う。
「知ってる?クリスマスって……恋人達の日なんだよ?」
「……だから誘ってるんじゃない」
少し顔を赤らめ、ぶっきらぼうに答える悠斗。
笑麻の顔が太陽のように輝く。
すっかり見慣れたそのエクボに、悠斗は目を細めた。
~End~
『恋をした相手は、同級生のAV監督でした。』をお読みくださり、本当に、ありがとうございました。
皆さまのおかげで、なんとか完結にまでこぎつけることが出来ました。
これまで、途中で挫折してきてしまっていただけに、完結まで書くことが出来たのは感動の極みです。
またいつか、違う作品でお会い出来れば、と思います。
この物語も、続編が書けたらいいな、なんて思っていたりもします。
出来ることならば、感想や評価、アドバイスなど頂けると嬉しいです。泣いて喜びます(´;ω;`)
それでは!本当にありがとうございました。
香坂蓮でしたー。




