1-1 助けてくれたのは、無愛想なぽっちゃり王子!?
お久しぶりの新作投稿です。
三年も空くと、なろうの仕様も変わるものなのですね(´・ω・`)いかに自分が物書きをサボっていたかが分かります。
本作は、何が何でも完結させますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
それでは、どうぞお楽しみください。
(どうしよう……あやちゃん早く来て!!)
小松笑麻は追い詰められていた。今日のためにわざわざおろした水色のロングスカートを皺が出来るほど握りしめる。
「友達遅いねー。すっぽかされたんじゃない?」
「とりあえず俺らとどっか行こうよ。友達とは携帯で連絡取り合えばいいじゃん」
目の前にはまるで逃げ道を塞ぐかのように二人の男が立っている。おそらくは大学生であろう彼らの瞳は、その年頃の男子特有の有り余る性欲を隠しきれていない。声をかけられてから十分くらいだろうか。
その間笑麻は何度も断ったが、柳に風のごとく受け流されている。ナンパ慣れした男たちからすれば、見るからに年下で気が弱そうに見える笑麻は『押せばいけそう』に思えたのだ。
その点、彼女の幼馴染である宮本綾香は笑麻とは違いはっきりと物を言えるタイプである。同い年の、しかも同じ女性である綾香を頼りにするのはあまりに情けないが、もはや笑麻が頼れるのは綾香しかいなった。
(こんなことならもっとギリギリに来るんだった)
今日は郊外に出来たばかりのショッピングモールに行く予定であった。日本最大級という触れ込みのそれは完成前から大きな話題となっており、オープン初日にはとんでもない数の人が集まったという。元より大型施設に行くと探検したくなってしまう性格の笑麻は大いに張り切ってしまい、待ち合わせ場所である駅前広場に三十分も早く着いてしまったのだった。
「そんな警戒しなくてもいいじゃん!絶対楽しいから!ねっ!」
「……っ!」
顔どころか身体中から軽薄さがにじみ出ているかのような二人組の片割れが、ついに笑麻の腕をつかむ。ブラウスの袖口の下あたり、まだ残暑が厳しいこともあり露出していた二の腕を掴まれ全身に鳥肌がたつ。とっさに振りほどこうとするも、男は「絶対離してなるものか」と力を込めた。
「本当に……止めてください」
「そんな泣きそうな顔しないでよー。俺たちがちゃんと楽しませてあげるからさ」
「そうそう!美味しいもの食べて気持ちいいことして笑顔になれば皆ハッピーじゃん」
ぎゃははは、と品の無い笑い声が響く。同時に男の腕が自分の肩にまわされ、思わず身体が硬直した。
(どうしよう……大声を出した方が……でも怖い)
茶髪と金髪の二人組。身長は180cmくらいだろうか。小柄な笑麻にとってはかなり威圧的に感じてしまう。手にくっついているごつごつした指輪や首元の髑髏は、もはや不良の象徴としか思えなかった。
下手に大声を出して機嫌を損ねては何をされるか分からないという恐怖が身体をすくませる。助けを求めるように周りを見渡すも、皆こちらに視線を合わせず足早に通り過ぎていった。唯一自分と同じように待ち合わせをしているらしい同世代くらいの少年がいるものの、スマホから目線を外す気配はない。どうやら知らんふりを決め込んでいるようだった。
「俺すげえ美味い店知ってるから!すぐそこだし行こ!」
肩に回された腕に力がこもる。一応はナンパの体裁をとってはいるがもはや実力行使である。引きずられるように第一歩を踏み出したところで笑麻は覚悟を決めた。
(今大声を出さないと連れて行かれる!)
目をきつく瞑る。通行人の誰かが助けてくれることを信じて笑麻を大きく息を吸い込んだ。
「だれか……っうむっ!?」
「ダメだよそんなことしちゃー」
「大声なんかだしたら騒ぎになっちゃうじゃん。俺たち怖くないでちゅよー」
気づくと肩にまわされていたはずの男の手によって笑麻の口はおさえられていた。
(もうだめだ……)
抵抗しようにも二人がかりで引きずられてしまう。目に涙を溜めた笑麻の心は折れかけていた。
「ちょっとお兄さん!」
「うおっ!?」
「なんだよお前!?」
突如聞こえた鼻にかかったような野太い声に笑麻は混乱する。顔をあげるとナンパ男二人組の肩口辺りに新たな男の顔があった。よく見ると先ほどまで笑麻の近くで携帯をいじっていた同年代の少年である。
「そんなちんちくりんな女なんか放っといて僕といいことしようよ」
「てめぇ何言ってるん……うわっ」
「ちょっ!何すんだよ!?」
背が低くぽっちゃりとしており、明らかに運動が出来るタイプではない。喧嘩などしたこともないような文化系な出で立ち。にも関わらずその少年は体格のいい二人組を前にしてもニヤニヤとした不敵でいやらしい笑みを崩さなかった。
「お兄さん達は後ろをいじられるのは初めて?」
「当たり前だろ!」
一体何をしているのだろう、と笑麻は困惑する。
しかし、なんとなくそれは知らないほうがよい気がした。乙女的な意味で。
「せっかくこんないい身体してるのにもったいない……だったら僕が開発してあげるよ。お兄さん達は気持ちよくて僕は楽しくてみんなハッピーじゃん」
あくまで笑みは崩さず、先ほど不良男達が言っていたことをマネるように少年はささやく。
「こいつ頭おかしいんじゃねえの!?」
「ふざけんなよマジで!」
そう凄んではみたものの、不良男二人は腰が引けている。
「やだもう……か・わ・い・い」
ちゅっと口をすぼめて音を鳴らし、少年は二人組のうちの一人の腕をつかむとその手を強引に自分の股間へと持っていく。笑麻の顔が真っ赤になり目を丸くしているうちに、不良男二人組は負け惜しみのような言葉を吐きながら走り去っていった。
「ふんっ……使えない。せめて参考になるような口説き方をしろよ」
先ほどまでの鼻にかかったオカマ声から一転、低く吐き捨てるような声でつぶやくと、少年は笑麻には見向きもせずに元居た場所へと戻りまたスマホに目を落とした。
(助けてくれた……のかな?)
やり方がやり方だっただけに、笑麻にはいまいち確信がもてなかった。とはいえ助かったのは間違いない。先ほどの二人組に感じたものとは別の種類の恐怖を感じつつも、笑麻はお礼を言うことにした。
「あ、あのっ!」
思い切って声をかけると少年はゆっくりと顔をあげる。身長155cmの笑麻と目線がそんなに変わらない。小太りで顔立ちも丸みを帯びていることから親しみやすい外見をしていると言えるだろう。睨みつけるようなするどい目を除けば、だが。
「……なに?」
「そのっ……助けて頂きまして!ありがとうございます!」
心の中で小さな覚悟を決め、笑麻はしっかりと少年の顔を見て礼をいう。
「別に君のためにやったんじゃないよ。目の前で延々とダサい口説き方をされて腹が立っただけだ」
少年はそれだけ言うと笑麻に興味を無くしたかのように再びスマホを弄り始める。
「それでも助かったので!本当にありがとうございました」
一気に言い切り、今度はしっかりと頭を下げる。先ほどの出来事がゲイの少年によるナンパの失敗ではなかったと確信できたことが笑麻にそうさせたのかもしれない。そんな笑麻の様子を一瞥すると、男は溜息を一つ吐き面倒くさそうな声を出した。
「一つ、君に忠告してあげる。ああいう頭の機能の大半が下半身に直結している猿がナンパしてきたらはっきりと拒否することだ。あんな態度じゃ調子にのらせるだけだよ。なんなら拒否しているフリをして猿どもを喜ばせているのかと思ったぐらいだから」
自分はそんな風に見えていたのかとショックを受ける笑麻。それが一般的なものなのか、それともこの少年にだからそんな風に見られたくなかったのかは未だ分からない。ただ鼓動が早くなり、顔が真っ赤になっていることだけは確かだった。
「ご……ごめんなさい」
もう一度、今度は弱々しく頭を下げる。呆れたような気配が少年から漂ってくるのがなんともいたたまれない。頭を上げられないままでいると、少年から反応が返ってくる前に新たな乱入者が現れた。
「ちょっと!笑麻になんの用!?」
「あやちゃん!?」
笑麻の待ち合わせ相手、宮本綾香の登場である。
長身でモデル体型なルックスはスポーティーな印象だが、デニムのショートパンツと袖の無いブラウスから覗く長い手脚が青い色気を主張している。つり目がちの大きな瞳はさらにつり上り、迫力抜群である。猛烈な勢いで走ってきた綾香は笑麻の腕を取り、自らの体を盾にして守るようにした。
「誰かと思ったら田島じゃない!それで!笑麻に何してくれてんのよ!」
「違うよあやちゃん!?この人は私のことを助けてくれたんだよ?」
そんな笑麻の声も興奮しきっている綾香には届かない。活発で誰とでも仲良くやれる性格の綾香がこれほどまでに敵意をむき出しにするのは非常に珍しい。さらに綾香は少年の名前を知っていた。どうやら知り合いらしい。
「こいつが笑麻を助けた?騙されてるのよ笑麻!こいつは人様を助けるような性格してないんだから!」
「でも!私のことは助けてくれたよ」
「そんなもん下心に決まってるでしょ!」
それはない、と笑麻は思う。下心から助けたにしては助け方があんまりだ。少なくともあの助け方で「白馬の王子様」だと感動する女子は多くはいるまい。
なおも言い合いを続ける綾香と笑麻に対して田島と呼ばれた少年はわざとらしく大きなため息をついて注意をひき、面倒くさそうな声で告げた。
「別になんだっていいよ。ただそんなに大事な人なら次から待ち合わせする時はあんまり待たせないようにすることだね。精々頑張って気が弱くてどんくさいお友達を守ってあげてよ」
「このっ!なんであんたはそんなに失礼なのよ!さっさとどっかに消えて!」
「なぜ君たちのために僕がどこかに行かなきゃいけないんだい?君たちが消えればいいじゃないか」
その言いぐさに綾香の顔が般若のようになる。これはいけない、と笑麻は綾香の腕を取りその場から逃走を図る。綾香が少年のことを知っているようなので、改めてお礼を言う機会もあるだろう。
「本当にすいません!それとありがとうございました!」
果たしてその言葉は男に届いたのだろうか。綾香の怒声にかき消されていなければと切に願う笑麻であった。
ナンパ……出来る人がうらやましいです。
人見知りの激しい香坂は、ナンパどころかファミレスのお姉さんにすら緊張してしまいます。これが仕事となれば、少しは割り切れるのですが。
ところで、共学校に美人がいれば、やっぱり学内で話題になるものなのですか?
実は男子校出身のため、その辺りは想像で書いているんです。
共学が良かったなぁ……。
女子と一緒に帰ったりしたかったなぁ。
見渡す限り、男しかいない全校集会……辛かったなぁ。
まぁ男子校には男子校の楽しさがあって、今ではいい思い出なんですけどね(^^♪
次話もぜひぜひ、お付き合いください。